三
フィルムの現像ができるとのことなので、てっきり暗室があるのだと思っていた。しかし、当ては外れて、天水が隣の物置になっている部屋から黒い鞄のようなものと薬品の入ったボトルをいくつか持ってきた。
「それは?」
水上は黒い鞄のようなものを指さして聞いた。ファスナーがいくつも付いていて、側面から手を入れられるようになっている。
「これはダークバッグっていってね、こうやって」
彼女は正面のファスナーを開けて中を見えるようにした。そして、ダークバッグの両側面から手を入れて中でピースをした。
「手を入れて、暗室でやる作業をこの中でやるんだよ。もちろん、作業中は中は見えない。光が入るといけないからね」
右手だけ出して正面のファスナーを閉じた。ピースサインは見えなくなった。
「見えなかったら、作業ができないのでは」
「これからできるようにするんだよ」
そう言ってから再び物置に入り、小物の入った底の浅い籠を持ってきた。その中から一つ一つ取り出して水上に用途を説明した。フィルムの現像に使うものは意外と多いが、作業自体はたいしてややこしくないようだ。
不要なフィルムを使って、見える状態で練習してみることにした。手順は、パトローネ(フィルムの容れ物)からフィルムを取りだす。→全て取りだしたら、端をはさみで切る。→切りとったフィルムを円い金属の器具に巻きつけて、蓋をする。ここまでがダークバッグの中で行う作業だ。
練習は見えているので特に問題はなく、ダークバッグの中でも同じようにできたと思う。
「水上君って意外に器用?」
「そうでもない」
意外に、が付いた理由はよくわからないが、うまくいったのは偶然だろう。彼は手先が不器用なことを自覚している。
その後は現像液や停止液、定着液といった薬品を使い、本に書いてある通りに撹拌したり待ったりした。あとは干して乾かすだけだ。
ちょうどいい物がなかったので、ホワイトボードと棚の上に糸を渡して、そこにクリップを使ってフィルムをぶら下げた。四枚に切り分けられたフィルムが時折風になびいた。
乾くのを待っていると、風通しのために開けておいた扉から背の高い女性がそーっと中の様子を確かめて、それから入ってきた。店員だった。彼女は座ってカメラ雑誌を開いている水上を見て、
「入部したの?」
「いや、してない」
「え、何? 水上君入部希望なの? その前に、二人は知り合い?」
「どちらか片方だけ答えよう」
二人のやりとりを見て勢いよく質問をした天水に水上が言った。
「それじゃあ、水上君は入部希望なの?」
「今のところはなんとも言えない」
「ふーん。それで、二人は知り合い?」
天水は入ってきた女性の方を見て尋ねた。
「答えるのは片方と言ったはずだが」
「水上君にじゃなくて古泉に聞いてるから大丈夫」
「そうですか」
子供みたいなことを言うと水上は思ったが、隠すようなことではないので止めなかった。
「バイト先の、常連?」
古泉は水上の方を見て自信なさげに言った。
「俺に聞かれても」




