崩れる!
ある事情から女と別れる決意をした俺。その結末。
この世界は、どこもかしこもヒビだらけだ。もちろん、自分自身も例外じゃない。
ちょっと、何かを動かしたり削るだけで音を立てて崩れていく。波にさらわれていく砂の城のように。世界はいつだって移ろいでいる。僕たちはただ、それに乗って流されているだけだ。
「俺たち、もう別れないか」
「な、なによ急に! 私は……あなたと別れたくないわ」
だから。俺がこの女に別れを告げたのもそういう理由があったのかもしれない。
最初は――いい女だと思っていた。
だが、次第に執拗に俺を求めるようになった。体も金もだ。いつしか俺は抜けられないアリジゴクに引きずり込まれていることに気が付いた。俺が会社の金を使い込んでいることも、この女は知っていた。
(気付いたところで、もう遅い)
だから、すべてを清算することにした。
多少の喧嘩も仕方がない。別れる為の金もある程度なら用意しよう。それでだめなら、どうするか?
「俺はお前の奴隷じゃないんだよ。今の俺はあんたを求めてない。ただそれだけだ」
「ふん! 笑わせないでよ! アンタなんかただの踏み台。そうよ、もう十分に尽くしてもらったから。後はいくら出してくれるのかしら? 一千万? それとも一億かしら?」
悪魔のような笑みを浮かべて、まるで俺を見世物のように笑い飛ばすこの女。
『もう、我慢の限界だ』
俺の中で、悪魔が囁いた。
そうだ。ここまで来たらすべて道連れにしてやる。この女だって地獄まではついてこないだろう。それならいっそのこと……。
「何よ? その真剣な表情。マジで受けるんだけど」
「笑えばいいさ。だが、俺もお前もここで終わりにしてやる!」
「ちょ、ちょっと! 何するのよッ!!」
悲鳴が聞こえ、生気を無くした女は床へ倒れる。
その横で、俺は突き刺した自分の胸を見ながら思うのだ。
何もかもが崩れていく。おもちゃのブロックのように。
最後は崩れ落ちて、そこからまた誰かが組み上げる。その時まで俺は休むだけだと。
毎度、お読みいただきましてありがとうございます。
何だかホラーな感じがしますが……こういった作品って結構難しいですね。だいぶ、精進が必要なようです。