埋蔵金の行方
男のロマンだ! と埋蔵金を発掘し始めてから早や10年。ようやくその所在を突き止めた。しかし、そこには意外な落とし穴が待っていた。
誰川埋蔵金をご存じだろうか? かつてこの一帯を支配した豪商が幕末に隠したと言われる埋蔵金。時は流れて、明治に一族が強盗にあって殺害されてしまい、長い間行方不明になっている。それを発掘するのが俺の夢だ。
そう言ってからはや十年。
多大な苦労の末、ついに僕は埋蔵金の正確な場所を割り出すことに成功した。しかし、掘り出すだけの資金なんて俺にはない。そこでスポンサーを募ったところ…。
勤めていた会社の後輩で、今は建設会社を立ち上げていた氷川健吾が協力してくれ、資材と資金を提供してくれた。
「いよいよ、最後の掘り出しですね。でも機械を使わなくて本当にいいんですか?」
「そうだな。機械があれば便利だけどそこまで迷惑かけられないよ。それに大金が出てこなくてもそれらしい痕跡があればそれで俺は十分だ。やった甲斐があるってもんだ」
「そういうもんですかね。まぁ、掘削機とかショベルカーは置いておきますから」
「悪いな」
確かに、男のロマンだッ! と言ったところでこのご時世だ。世間に受け入れられるわけもなく。この一件が終われば自分の小さな店を開くというもうひとつの夢が待っている。埋蔵金で資金が確保できる、なんて思ってないわけじゃないが、何かに打ち込む姿はグッとくるものだと俺は思っている。
「さて、始めるか!!」
気合いを入れ、俺は少しずつ、少しずつ掘り進めていく。
無論、そんな簡単に行き着くはずもなく。気が付けば一週間が過ぎていた。氷川はちょくちょく来ては進捗状況を見ていった。たまに酒を飲みながら話をしたが、氷川は元々、この土地の出身だということは初めて知った。
それから、更に三日が過ぎた頃。
「何か先に当たるな……。それに、これは金か?」
準備していた金属探知機や成分分析のキットを使い慎重に調べていく。
結果は……少し不自然なものだった。
「何かおかしい」
どうやらこの場所はここ数年の間に掘り返されたらしいのだ。
状況からすると、かなり多くの金塊や小判があったはず。それは間違いなく誰かによって掘り起こされてしまったのだ。
「と、いうわけなんだよ。氷川。まだ金の痕跡や小さな破片もあるし記念に取っておこうと思ってね」
「そうですか。それは残念でしたね。せっかくここまで掘り当てたのに」
「まぁ、そうだけど間違いなく痕跡らしいものもあったし、俺は満足だよ。エジプトの王家の谷だって盗掘されていないのは稀だし。それと同じさ」
氷川はそうですか。と小さく呟いた。
「それなら、いっその事、ここに埋まってくれませんか?」
「なんだって、よく聞こえないんだけど」
氷川からの返事はない。代わりに”ザァァァッ”という音ともに土が降っていくる。
「お、おい! 何やってるんだよ」
大声で叫んでも返事はない。大量の土砂がなだれ込み、俺は暗闇に閉ざされた。薄れていく意識の中で俺は悟った。もっと早くに気付くべきだった。埋蔵金を掘り出したのは氷川だ。そして、誰川の歴史の中で唯一生存していた人物がいることに。幼い頃から誰川に囲われ、捨てられたという妾女。それが――『氷川の娘』と呼ばれていたことを。
やっぱり『復讐』って嫌なもんですねえ。
自分は復讐されるようなことはしていないと思いますが……うん、たぶん、きっと大丈夫だと思っております。