遠雷(999文字)
ある日、宿題をやるために家に帰ってきた主人公は、大きな雷が鳴るのを感じた。その瞬間、不思議なできごとが起きた。
遠くで、雷のなる音が聞こえる。
僕が住んでいるこの地方では雷がまるで家々を巡るようだとして『巡雷』《じゅんらい》と呼んでいた。どうしてそう呼ばれているのか、僕は詳しく知らなかった。ただ、お盆の時期にこの巡雷が多いことから亡くなった人たちが雷に乗じてこの世界に来ているのでは? と思われていた。
「健太、もう帰るのかよ」
「ごめん。宿題やれってうるさくて」
「そんなの後でやればいいじゃんよー」
「仕事から帰ってきたらチェックされんだよ」
夏休みのまっただ中。
日に日に貯まっていく宿題に業を煮やした母が仕事から帰ってくるまでにやっておけ! チェックしてやるからな、と脅したので僕はしぶしぶ家で宿題をすることにした。
「やっぱり暑いなぁー。遊びたいー、かき氷食べたいー」
そんなことを言っても家には誰もいない。そうだ! 誰もいないけど冷凍庫にアイスがあったはず。食べちゃおう!
「……あ、あった」
僕はアイスを食べながら、面倒くさい算数の宿題に手をつけようとしたとき、突然、大きな音が鳴り響いた。
「なんだ、カミナリかよ」
外を見ると、大きな雨粒が地面を濡らし始めている。これじゃぁ、しばらく外では遊べないな。そう思って振り返った時、もう一度、大きな雷鳴が響く
「うわぁあああああッ!?」
付けていた電気が消え、あたりが真っ白になる。
恐る恐る目を開けると――。
見知らぬ人影が立っていた。
真っ暗なはずなのに、しっかりとしたシルエットが部屋に浮かび上がっている。
「だ、だれ……」
きっと、言葉にもなっていなかったと思う。
その影は何も言わなかった。ただ少し、微笑んだように見えた。
しばらくして。
僕は母が帰ってくるまで、ただその場に立ち尽くしていた。
そして、好きだった親戚の英彦おじさんが亡くなったことを聞かされた。
「あんたも行くのよ。ホラ、英彦おじさん知ってるでしょ? よく遊んでもらってたし」
英彦おじさんは僕のお父さんのお兄さんだった。結婚はしないで一人で小さなお店を切り盛りしていて僕は何かあるとおじさんの家に行ってよく面倒を見てもらっていたのだ。
「そう、なんだ…」
涙が溢れてくる。
そうか。きっと英彦おじさんは最後に僕に逢いに来てくれたんだ。
遠くで、また雷が鳴り響いた。
空白と改行を含む、999文字で書いています。
この不思議なお話は、作者の幼いころの実体験を相応にアレンジしたものです。




