あの子とわたし。
気づかない話。
―見つからない。
どうしよう。
あの子がくれた大事なものなのに。
辺りはとっぷり暮れて、夕闇に包まれようとしている。
公園の中で私は必死に探し物をしていた。
太陽が完全に沈めば、もう見つけることは困難になる。
なのに、目に見える範囲にはそれらしきものは見えなくて。
どうしよう、どうしよう、
「マリ、かえろう?」
時間切れだ。
そろそろお夕飯の時間だし、家族がご飯を作って待っている。
明日には見つかるだろうか…。
少し暗くなった道、あの子と一緒に家路を急ぐ。
「あれ。マリのかみかざりなくなっちゃった?」
そうなの、なくなっちゃったのよ。
せっかく貴方がくれたものだったのに…。
「うーん、そうだ!おかあさんにまた作ってもらお!」
いいこと思いついた!と言わんばかりの顔でそう言った。
よかった、落ち込んではいないのね。
そうこう考えているうちに、家についた。
これで今日の遊びは終わり。
また一緒に遊びましょうね。
――
今日はあいにくの雨。
こんな日は外に出られないからあの子が不機嫌だ。
「うー、つまんないよぉ」
そう言わないで。
お絵かきでもしましょう?
ほら、机に鉛筆もクレヨンも、画用紙だってあるわ。
「おやつもらってこようかなぁ」
あぁ、おなかがすいていたのね。
見るからに物欲しげな顔でおやつの絵を見始めたあの子が微笑ましい。
「おかーさーん!きょうのおやつなぁにー?」
ドアを開けて、一階にいるであろう母親を呼ぶあの子。
よかった、機嫌は直ったかしら。
――
最近、あの子と遊んでいない。
ずっと部屋から出ないから自慢の靴もあの子に見せていない。
少し、気が滅入ってしまう。
もうあの子との付き合いも数年だ。
小さかったあの子は愛嬌のあるかわいらしい子に成長した。
それと同時に、一緒に遊ぶ回数は目に見えて減ってしまった。
がちゃり。
「あっ、いたぁ」
不意に彼女の声がして、手を掴まれる。
久しぶりに触れたあの子の手は少し冷たかった。
「じゃーん、見て見て!」
あら、友達がたくさんいるのね。
紹介してくれるの?
「この子ねぇ、小さい時にお母さんが連れてきたの!綺麗でしょ!」
綺麗、なんて。
照れちゃうわね。
貴方の友人もかわいい子ばかりね。
周りを見渡して、雑誌や漫画などが雑多に散らばった中にスペースを見つけた。
そこに収まると途端に話題が切り替わる。
お洒落のこと、新作のお菓子、好きな人の話。
年頃の子はきっと、話すことがたくさんあるのだろう。
私は静かに微笑んでその話に耳を傾けた。
――
以前に顔を見たのは何時だっただろうか。
もうあの子はこの家にはいない。
「片づけなくちゃ、」
すっかり年老いたあの子の母親が、私に手を伸ばす。
ああ、ねぇ、
埃を被って汚れてしまったの、
タオルを貸してくれないかしら、
「この子もすっかりボロボロになっちゃったわねぇ」
「しまいっぱななしで忘れていたけれど、そろそろ捨てなくちゃ」
「あの子もいらないって言っていたし」
捨てる?
何のことだろう。
確かに私の洋服はところどころほつれたりしているけど。
新しい洋服になるのかしら。
彼女の手が私を持ち上げて、まじまじと見つめられる。
どうしたのかな。
そして、そのままビニール袋に詰められた。
え、あ、どうして、
捨てるって、わたしの、ことなの?
なんで、あんなに、かわいがってくれたのに、
彼女は声が聞こえない様子で分別を続けている。
いや、嫌だ、出して、お願い、
ここは、恐いわ。
すえたような臭いがする。
お願いよ。
「やだ、早く出さなきゃ収集車来ちゃう」
いや、だ、たすけ
――
遠ざかっていく収集車を見ながら女性は呟く。
「いくらなんでも手入れしなさ過ぎたわねー。カビも生えてたし、不衛生だわ」
「あの人形にも悪いことしたかしら」
―こころがこもった、にんぎょうのおはなし。
最近、大切だった人たちに会っていますか?
自分が忘れられていくことに気付けますか?
それとも、見えないふりを続けますか?
僕は、最後です。