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ているカフェ  作者: 融流
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トイレの女の子

最初は有名どころがいいかなと思いまして。

あ、こんにちは。

もう下校時刻だけど君は帰らないの?

怖い話を探してる?ふーん。

じゃあさ…こういうのどうかな。

噂話ってあるでしょ?

ま、いいものばっかりとは限らないんだけど。

時には『よくないもの』を呼び起こすことだってあり得る。

だからって人の口に戸は立てられないよね。


今日はその『よくないもの』に魅入られてしまった子の話でもしてみようか。




―オレはリョータ。

中学2年生の健全な男子だ。

今、オレらのクラスでは色々な噂話がまことしやかに囁かれている。

隣のクラスのHはカンニング魔だとか、TはCちゃんが好きだとか。

恋愛話から悪口、怪談まで色々だ。


その中でもオレが気になったものがある。

その噂とは、


「2階女子トイレの3番目には、いつも***がいる」

「ときどき生徒に混じって遊び相手を探している」

「もしその子がいない時に3番目に入ってしまうと、その子に***される」


***の部分は誰も知らないらしい。

…正直、最初以外はただの尾ひれじゃないかと思う。

混じってるって誰が最初にわかったんだか。


でも、少し興味をそそられる。

女子トイレ、3番目。そのキーワードならば、いるのはきっと花子さんだろう。

けれど、噂話は『誰か』と言ってる。

それに、何をされるのかも知りたい。

確かめて、みたい。

好奇心に耐え切れず、授業中にやにやしていたら前の子に笑われた。くそ。


―夕方、2階の女子トイレの前にオレはいた。

校舎にはもう誰も残っていない。

先生たちも職員室で会議してるのを見たし。

だから、確かめるのなら今がチャンスだ。


キィ…


ドアを開け、トイレの中に入って素早くドアを閉める。

さて、問題のトイレはっと…。


見回すと、閉じているドアなど見当たらない。

やっぱりガセなのか。

…待てよ、そういえば。


「もしその子がいない時に3番目に入ってしまうと、その子に***される」


「上等っ…!」


オレは勢いよく3番目のドアを開け、中に入って座った。


ガチャン


カギの閉まる音がやけに大きく響く。

それからオレはじっと待った。


「ふぁあ…もう、帰ろっかな」


1時間くらい待ったけど物音ひとつしない。

やっぱり噂はガセかぁ…つまんねー。


キィイイ…


不意に、ドアの開く音がした。


ヤバい、バレたらこれからの人生終わる。

手で口を塞ぎ、物音を立てないように動きを止める。


「…あれ?誰かいるのかなぁ」


幼い女の子の声。

静かなトイレに響いたその声に、なぜか背筋がぞくりとした。


「どうしてだろう…」


ペタ、ペタ、


近づいてくるトイレ用スリッパの音。

やがてそれはオレのいる3番目の個室の前で止まった。


「…ねぇ、どうしてそこにいるの?」

「…」

「"そこ"はわたしの場所なの。出てくれないと困るの」

「…」


オレは一言たりとも発さなかった。

もしかして、本当にあの噂の『誰か』なのか?


「答えてくれないの?」

「…」

「じゃあ、クイズをしよう?貴方が間違えたら帰さない。貴方が当たってたら―」


最後のほうが聞き取れなかった。

けれど、話を聞く限り『誰か』は間違えたら帰さないって言ってる。

じゃあ、答えを間違えなければ無事に帰れるんじゃないか?


「…いいよ、やる」

「ほんとー?じゃあ、ちゃんと答えてね?」

「わかった」

「…問題。わたしがいない時に3番目のトイレに入った子はどうなるでしょうか」

「!!!」


しまった。

この『誰か』はやっぱりオレを帰す気なんてさらさらない。

どう答えたとしても、結果がわかりきっている。


「あはは、いっぱい考えていいよ。きっと当たらないから」


嬉しそうに、死刑宣告ともとれる言葉を言う『誰か』。


「さ、答えはなぁに?」


駄目でもともとだ、答えてやる。

つか、まだ死にたくないし!


「…っ、君の、友達になる…とか?」


一瞬の沈黙。

少しして、ドアの外の『誰か』が口を開いた。


「ほんと?一緒に遊んでくれる?」

「…へ」

「わぁ、嬉しい!ね、何して遊ぶ?」

「あ、うん…」


なんだか拍子抜けだ。

さっきまで背中をつたっていた汗はいつの間にか止まっていた。

けれどなんでだろう

さっきから身体が凍るようにさむい


「でておいでよ」


カチャン、ギィィ…

オレは個室のドアを開け、顔を上げた。

そこにいたのは予想通り、幼い1年生くらいの女の子。


「あれぇ?男の子?」

「そう、だけど」

「男子なのに女子トイレ入るなんて変なのー。まぁいいけど」

「(迷子かな?)何して遊ぶ?」

「んーとね…あやとりしよ!」


そう言うと彼女はいつの間にか持っていた青い紐をオレに差し出した。

もう片方の手にも赤い紐を持っている。

オレは言われるがままあやとりの技をいくつかやってみせた。


「すごいすごーい!」

「そうかな…あ、ねぇ君って名前なんて言うの…?」

「はるかだよ。ねぇもっとやってー」

「はるかちゃん、か。いいよ、次は何がいい?」


花子さんじゃないんだ。

明日学校に行ったらこの噂に付け足しておかなきゃな。

っと、もう外が暗くなってる。

帰らなきゃ…


「だめだよ」

「え?」

「わたしと遊んでくれるんでしょ?だから、帰っちゃだめ」

「だ、だってもう遅いし…また明日来るから」


なんで考えてることがわかったんだ。

急に、トイレが寒くなったような気がした。

電灯がチカチカしてる。

危険を感じ、出口のそばに近寄る。


「だめ、帰らせない。あなたはここでわたしと一生遊ぶの」


不意にひんやりしたものが腕に触れた。

ドアノブ…!

オレは迷わずドアノブを回した。


ガチャガチャガチャ!!ガチャッ!!


「な、なんで…」


開かない。

さっきはあんなに軽くひねっただけで開いたのに。


後ろからペタ、ペタ、とスリッパの音が近づいてくる。

止まったはずの汗がまた流れ出した。


「だめって、いったでしょ」


ペタ、ペタ


「や、やだ…くるな」


ペタッ


「どうして?さっきは一緒にあやとりしてくれたじゃない」


ペタッ


「ひっ…あ、あけ、あけよっ!!なんで開かないんだよ!!」


ペタ。


足音が、止まった。

後ろが怖くて振り返れない。


「答え、間違えたんだから帰さないよ」


オレの腰に、冷たい腕が巻き付いた。

身体が動かない。


「友達になってくれるんだよね?」

「あ…あ」


膝ががくりと折れる。

逃げられない。

床に座り込んだオレを彼女が覗き込む。



「さぁ、もっと遊ぼう?時間はたくさんあるんだから」




――――――



どうだった?

そんなに怖くなかったんじゃない?


あ、僕もう戻らなくちゃいけないみたい。

よかったら君も一緒に行く?…そう、残念だなぁ。

僕はたいてい屋上にいるからさ、気が変わったらいつでも声かけてよ。


僕の名前?

速水 融(はやみ ゆう)」だよ。


まだ聞きたいことがある?

…もしかしてあの話の中で女の子が言ってたこと、かな。

あれはね、「当たってたら**す」だよ。え、聞こえなかったって?

聞かない方が、いいんじゃないかな。


それじゃ、今度こそばいばい。

縁があればまた会うかもね。








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