表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/26

8.見られてます

「おはよー」

愛里が教室に入ると、クラスメイトたちの視線が集中した。今朝は、登校途中も、なんだかじろじろ見られているように感じていた……のは、自惚れでも気のせいでもなかったようだ。

「愛里、ちょっと来て!」

と、まなかが、鞄も置かないうちから愛里を窓際の隅のほうに引っ張っていった。

「な、なに、どうしたの?」

氷王子アイスプリンスと、抱きあってたって、噂になってるよ?」

「はぁ!?」

愛里は驚いて、言葉も出ない。

「昨日の昼休みに、部室棟の裏に呼び出されてたでしょ? 見た人がいるとかいないとか……」

まなかは、やけに楽しそうに言う。

「ほんとのところは、どうなの?」

そんなことがあるわけないと、わかっているからこそ、追及してくるまなかだった。

「肩を抱かれた……かな?」

けれど、愛里の正直な答えは、どうせ何かでぶつかったとか見間違えたとかという、まなかの予想を上回っていたようで。

「は? なんで?」

「いや、えーと。敵もさるもの、とゆーか……」

説明しにくい事情に愛里はしどろもどろである。まなかには、伝えてもいいとは思うのだが、父の幽霊の話までしなくてはならない。すぐに話せる内容ではなかった。

 そこへ、また今日も機嫌の悪そうなオーラを出して、冬馬が登校してきた。挨拶もそこそこに、やはり今日も氷のような視線を愛里に向けてくる。

「……何か、あった?」

「えっと、たぶん、お風呂の間、パパに、あっち行っててって言ったから……」

「は? パパ? なんで親が関係すんの? しかもあんたのパパって亡くなったって言ってなかった?」

まなかに畳みかけるように言われてしまい、愛里はかえってうまく説明できなくなってしまった。始業まで時間がないこともあり、まなかは後でじっくり聞くからねと、席へ戻っていった。


 昨夜。いくら声だけの幽霊とはいえ、入浴中も憑いていられるのは困ると思った愛里は、

「ね、パパ」

お風呂に入る準備に取りかかる前に声をかけてみた。

「なんだ?」

「お風呂に入ろうかなって、思って」

「うん、それが?」

「だから、パパがいるのはちょっと……」

「……そ、そうか。愛里ももう年頃だもんな、そうだな、じゃ、パパはしばらくあっちに行ってるから。ゆっくり入れ。湯冷めしないようにな」

って、まだまだ暑いんですけど。幽霊には季節感がないのか、泰造だからなのかはわからないが、少々外したことを言って、泰造の霊は愛里のもとを離れていたのだった。

 その間は、おそらく冬馬のほうに行っていたのでは……という愛里の予感は当たっていたようだった。時々投げかけられる冬馬の冷たい視線が痛い。

 愛里は、休み時間ごとにまなかと教室の隅でひそひそ話である。冬馬の霊媒体質というところだけは、なんとか端折はしょってごまかした。とにかくなぜかはわからないが、愛里を助けようと父の泰造が幽霊になって出てきたと。

「それで、今もいるの?」

事情をあらかた説明し終えた愛里に、まなかは聞いた。幽霊パパがいるかどうか、興味津々である。

「声がしないとわかんないんだけど、たぶん」

と、愛里は答えた。

「そっか。周りに人がいるときに、話したりしたら可愛い娘が危ないヒトになっちゃうもんね。パパさん、けっこう気を使ってるんだ」

ふんふんとひとりうなずくまなかに、それくらいは、と思う愛理だった。

「それにしても、父の弱点を見事についたんだね、王子は」

にやりと笑うまなかは、

「……どうだった?」

と、愛里の感想を聞いてくる。

「どう、って。びっくりしたに決まってるでしょ」

「まあね。他には?」

「……別に」

冬馬にぎゅっとされた時、……なんだか胸の奥がつんとなった気がしたけど。そんなのとりたてて言うようなことじゃない、と愛里は思った。

「だいたい、私は玉三郎スカウトになっちゃったから仕方なく……」

近づきたくもない氷王子を説得しようとしているわけで。

「あ、そう。本題はそっちよね。どうすんの、これから」

ぐずぐずと脳内で言い訳を続けていた愛里だったが、まなかはさっさと切り替えてくる。

「……頼み続けるしかないでしょ」

愛里が言うと、

「弱点でもあればねー。それをネタにできるのに」

とまなかが漏らした。

 ……弱点? そんなのは知らないけど。冬馬の秘密、なら。ひとつ知ったところである。吹雪は覚悟しないといけないかもしれないが、それは使えるのでは、と愛里は思った。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ