24.舞
「あ、あれって自由の女神?!」
巨大な灰色の塊がゆっくりとコースを進んで来る。ちぎった英字新聞で全身が覆われた自由の女神像。かなり大きいので、中に入って歩いているのが誰なのかは全く分からない。
次に現れたのは,おそらくクラスの男子全員参加と思われるAKB48。見た目はともかく、かなり練習したのだろう、振付は揃っていた。
「なに、あのモナリザ!」
大きな額縁をつけて、モナリザが歩いてくる。背中にいれた板に額を固定しているようだ。
玉三郎コンテストは、女装というより仮装と言った方がいいものも多く、ウケ狙いに的を絞ったものも多かった。
各クラスごと「玉三郎」がグランドの決められたコースを一周し、それぞれの指定位置まで行く。途中で五分間のアピールタイムがあり、そこで「玉三郎」のコンセプトなどを表現する。感嘆あり、笑いありのバラエティさだ。
「うちは?」
「ふふふん、最後から三番目」
まなかが得意げに答えた。コースを回る順番は、クラス代表によるくじで決められていた。桜橋高校全二十六クラス、コンテストはそれぞれが趣向を凝らしての戦いだ。
「ま、今のところ、順番関係なく、うちが圧勝って感じだけどね」
「あ!」
女子の一人が指さした。
しずしずと花嫁行列が近づいてくる。どこかの地方の風習を再現したのか、嫁入り道具や行列の参列者の端々まで凝った作りになっていた。付き添いに手を引かれた白無垢の花嫁の歩き方も、様になっている。
「あー、顔、見せなさいよ、顔!」
「見えないぶん、それっぽく見えて有利じゃない?」
「なんか、ずるーい!!」
男子が担ぎ手やらでほとんど参列している七組は、女子全員でブーイングである。
「……女の子たちって、かしましいよね」
普段使わなさそうな言葉で表現したのは、観覧席に残った時宗だった。
「そうだね」
愛里が相槌を打つと、
「時宗くんって、おとなしいイメージだったけど、意外と言うよね」
と、まなかが言った。
「ま、あんまり目立たないようにしてたほうが都合がいいからね」
時宗には神社の祓いの舞方という家系上の理由もあるのだろうと、愛里は思った。
「あ、そろそろ……」
「来るよ、ほら!」
足並みをそろえた担ぎ手たちが、巫女の乗る神輿を運んでくる。神輿の中央にしゃがんだ巫女は、五色布のついた神楽鈴を両手で捧げ持っているので、袖で顔が隠されていた。
いよいよ神輿が中央まで進み、アピールタイムに入る。
すっと巫女が立ち上がると、周りから音が消えたように感じた。
――――しゃらん。
鈴の音が重なり響く。神楽鈴を静かに振り下ろし、巫女が舞い始めた。
しゃん、しゃらん。
それは、秋の夕暮れの気配をいっそう静謐なものに変え。
長く伸びた生徒たちの影を、揺らして。
やさしい風に揺れる木の葉のように。降り注ぐ光のように。
巫女は、舞う。
白い薄絹の千早の袖がひらめき。
神楽鈴の五色布で、艶やかな残像を描きながら。
しゃらん。
きらきらと。周り中から細かい光の粒のようなものが集まっていき、巫女の周りに滞留し、そして渦を巻いて天へと昇って行く。
……しゃらん。
そうして。
声もなく、音もなく。巫女は、動きを止め、また神輿の中央に静かにしゃがみこんで、舞が終わった。
神輿が動き始めると、大きなため息のようなどよめきが、グランドを包み込んだ。あと二組残してはいるが、手ごたえは十分すぎるほどで、優勝は確実だった。
いつのまにか、頬に涙が伝っていた。気づいた愛里は、歓喜に沸くクラスの応援席をそっと抜け出した。




