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23.ちゃんと、見てろ

 突き抜けるように晴れ渡った空の下、体育祭が行われていた。

 クラス毎に赤と白に分かれた対抗戦は、いい勝負で、どちらも譲らない。

 愛里は、玉入れの出番をこなし、観覧席に戻った。もう一つの出場種目スプーンリレーは午前中に終わっていたので、愛里の出番は終了だった。

「あ、ほら、次リレーだよ!」

声が上がる。

 トリを飾る種目は、リレーだった。

「愛里、ほら」

おせっかいなクラスメイトに言われなくても、愛里にはわかる。冬馬がリレーの列に並んでいる。

 さっき、観覧席の後ろで、冬馬が何気に膝の屈伸とアキレス腱伸ばしをやっていたことも、愛里は知っていた。

「王子って、必死には見せないけど、ちゃんとやるよね」

愛里の後ろから、まなかが言った。愛里に話しかけていることはわかっていたが、返事を期待しているわけではなさそうだったので、愛里は黙っていた。

 リレーが始まって、応援合戦にも一層熱がこもっていく。赤白同点で迎えた、これで最後の、決着の種目。

 けれど、抜きつ抜かれつ走っている走者よりも。第五コースの、白の鉢巻、後ろから三番目。そこから目が離せないのは。

「コンテスト、楽しみだね」

「うん」

今度は、愛里も返事をした。

 バトンがつながる。

 駆け出した背中。

 氷王子アイスプリンスと呼ばれる彼の手が、暖かいのを、もう愛里は知っていた。



 体育祭は、ギリギリのところで紅組がすり抜け優勝して幕を閉じた。

 桜橋高校では、この後に「裏」があるため、生徒たちは急いで体育祭の片づけをし、さらにコンテストの最終準備にあわただしく動いた。

 一年七組の教室では、後ろの半分のスペースで担ぎ手たちが体操服を脱いで白装束を羽織り、靴下を脱いで白足袋に履きかえていた。カーテンで仕切られた前半分では、衣装メイクの担当女子グループと着付け監修の時宗が冬馬の巫女装束の仕上げにかかっていた。

「やっぱり、似合うと思ったんだ」

時宗のつぶやきに、されるがままの不本意な状態を続けさせられている冬馬は、冷ややかな眼差しで応えた。

「……ほんと、クールビューティーだよね」

時宗には一向に堪えていなかったが。

 白足袋、白衣に緋袴。その上に薄い無地の千早を重ね、長く伸びた垂髪。花の簪。

「緒方くん、肌きれいだからノーファンででも行けそうだよね」

と、まなかが冬馬の顔に白粉おしろいをはたき、仕上げに紅を差す。

 完成と同時に周りがしん、となった。

「……こういうの、神がかり的っていうのかな……」

ぽつりと誰かが漏らした。

 高校の教室には不似合いな、美しい巫女が出現していた。

「なんだか、女でいるのが申し訳なくなってきちゃった」

まなかがため息をつく。

「これで男って、卑怯だよね」

「うん、女子立つ瀬なし」

寄ってたかって楽しげに着付けやメイクをしていた女子たちも口々に言った。

「ほんとに、綺麗……」

仕上がっていく様子をずっとそばで見ていた愛里も、つくづくと言った。

 冬馬は黙って、机の上に置かれていた神楽鈴を持ち上げた。

 ――しゃらん。

 あの時と、同じ。鈴の音が重なる。

「伊藤」

冬馬は、他の誰も見ず、ただ愛里に呼びかけた。

「ちゃんと、見てろ」

厳しい命令口調ではあったけれど。

 おそらく、冬馬の最後の舞になる。愛里は、静かにうなずいた。

 そうして、巫女装束の冬馬は、担ぎ手他クラスの男子たちにどよめきを持って迎えられ。神輿みこしの上に鎮座した。

 秋の日暮れの気配が僅かずつ匂い始める午後四時三十分。

「みなさま、お待たせいたしました! いよいよ裏体育祭『玉三郎コンテスト』開幕です!」

放送部の華々しいアナウンスが流れ、ブラスバンドが曲を奏でる。

 玉三郎コンテストが、始まった。



 



 

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