22.準備万端
ブルーシートと神輿の装飾が焦げた理由を、時宗はあっさり、
「ポルターガイストだよ」
とクラスのみんなに説明した。
「緒方くんに教えてるのは、祓いの舞だから。祓われちゃ困るって、霊たちが集まったんじゃないかな? でも、昨日たまたま、もう一度学校に来る用があって。きっちり浄化しといたから大丈夫だよ」
細かいところはさておき、すべて本当のことを時宗は言った。クラスのみんながどのくらい信じたのかはわからなかったが、焦げた部分の修復を急いでやらなければならなかった。
そうして神輿も修復され、冬馬の舞も完成したと思えたとき、体育祭は、もう明日に迫っていた。
放課後。最後の練習を終えて帰宅の途についた時、
「あのとき、ほとんど蹴散らしたから、もう悪さはしないと思うけど」
時宗は冬馬に言った。
「緒方くんの体質もあるから、完全じゃないと思う。だから、明日、気合入れたほうがいいよ」
祓いの舞を完全に再現できるのは、玉三郎コンテストの、その舞台だけだと。
「わかってる」
と答えた冬馬の覚悟にうなずいて、時宗は、
「昇華するとき、もしかしたら……」
言いかけて、やめた。
冬馬は、ちらりと時宗を見たが、追及はしなかった。
なんとなく。冬馬にも微かな期待があった。
泰造が消えて以来、何事もなかったかのように、普通にふるまう愛里。けれど、泰造がいなかったら、今の彼らの関係は作れなかった。黒い炎にまかれた娘をかばって、そのまま消えてしまった泰造。
「……挨拶くらい、させろよな」
ぼそりと冬馬はつぶやいた。
「これでよーし」
衣装から化粧品から、鬘まで。明日、冬馬を最高級の巫女に仕立て上げるための小道具のチェックを終え、まなかは満足げだった。
「準備万端、だね」
今日の放課後は、まなかや女子たちと小物の準備をした愛里が言った。
「素材がいいと、やりがいあるよねー」
冬馬のメイクの打ち合わせは、女子総出で、ノリノリだった。
「今日もすっごい綺麗だったし」
実際、神輿の上で動く冬馬を見ていると、性を超越したもののように見えるほど、綺麗だった。
「お疲れさま、愛里」
代表して、まなかが言った。
「え?」
「だって、スカウト引き受けてくれて、ちゃんと氷王子を引っ張り込んでくれたんだから。しかも、あれだけやる気を出してもらえて。愛里が一番の功労者だよ」
愛里は驚いて、まなかを、そしてクラスメイトたちを見つめた。
「王子は持っていかれちゃったみたいだけど」
「ま、もともと、私たちじゃ会話にもならなかったんだし」
「応援するから、頑張って」
口々に言われた内容があらぬ方向に向かって行っているようで、さらに戸惑う愛里。
「最近、元気ないから」
まなかは笑った。
「王子が一番心配してるよ?」
褒められたり、心配されたり、至らないなと思う半面。なんだかあたたかくて。愛里には、やさしさが染みた。
「あ、あれ? 愛里? あーいーり?」
「どうしたの?」
「やだ、この子泣いてるよ?」
「あいりってば」
「んー、だいじょうぶ」
大丈夫、と、愛里は笑った。少しだけ目尻に涙が残っていたけれど。
体育祭は明日。体育祭が終わればすぐに、玉三郎コンテストが始まる。




