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16.素質あるかも

 愛里が放課後の神社通いにも慣れた頃、体育祭の準備はいよいよ佳境に入ってきた。

 一年七組が教室横の裏庭を陣取って制作していた神輿みこしの土台も出来上がり、後は飾りつけをするばかり。素っ気ない木枠の輿だが、人が乗って動くことを考え、大きさと頑丈さには配慮されていた。

「緒方くん、ちょっと乗ってみてくれない?」

神社に向かおうとする冬馬に、裏庭からまなかが声をかけた。開け放した窓から、まなかが教室をのぞいている。

「この上で動けるか、試して」

そして、手早く担ぎ手を集め、指示をする。

 担ぎ手になる男子たちが配置につくと、冬馬は持っていた鞄を床に置き、黙って裏庭に回っていった。時宗は、教室から出ず、窓越しに裏庭の御輿を見ることにしたようだった。愛里はといえば慌てて冬馬の後を追い、裏庭に出た。もちろん、周りには見えないが、泰造も愛里についていく。

 冬馬が片膝をついて輿に乗ると、

「オーケー、ゆっくり持ち上げて」

まなかの掛け声がかかり、担ぎ手たちが慎重に輿を上げていった。

 輿が上がりきったのを見極め、冬馬は立ち上がった。それから、バランスを崩すこともなく、舞のための立ち位置を決める。

 きいん、と何かが張りつめたような気配がした。

 人の担いだ輿の上で、冬馬は苦も無く最初の振りに入っていく。

 冬馬が動くと、拍子木の音が聞こえたような気がした。いつも練習を見ている愛里には、見慣れたはずの動きだった。けれど、知らず息をつめて見つめていた。裏庭の木々が落とす午後の木漏れ日が、冬馬の制服の白いシャツの上で揺らめいて、なんだか眩しかった。

 誰もが、何も言わず、その動きに見入っていた。 

 ひとさし。舞って冬馬が動きを止めた。

「……問題ないようだが。強いて言うなら、右側のほうが高くなってる」

と、冬馬は言った。

「それは、担ぎ手の入れ替えで対応するわ。ただ、本番は神輿をゆっくり進ませながらになるけど、大丈夫かしら?」

まなかが言うと、

「やってみるしかないだろう。輿自体はこれで、後は、慣れかな?」

冬馬が受けた。

「じゃあ、これからこっちで少しやってから行こうか?」

時宗が提案した。なにもずっと神社でやらねばならなということもない。ただ、神輿はまだ飾りつけなどの仕上げが必要なので、ずっと練習に使うわけにもいかなかった。

「ん、それじゃ、放課後すぐは練習で。それが終わってから仕上げしていくわ。でも輿を進ませるスペースはないから、足踏みしながらするしかないかな」

と、まなかがまとめた。

 一度それでやってみようということになり、そのまま冬馬は輿の上に留まった。

 ところが、担ぎ手たちの足踏みをそろえるのに時間がかかり、舞を舞うどころではなかった。

「足並みそろえるほうが大変か。こっちも練習が必要ね」

「緒方くんなら、多少の揺れくらい何とかするよ」

時宗が無責任に言って、冬馬の冷たいオーラが飛んだ。

「睨まなくても。ほんと、緒方くん、びっくりするくらい筋がいいから」

時宗の言うのは本当だった。

 確かに、時宗が教えている舞は難易度を下げたものではあったが、冬馬の霊の見える体質と生来の運動神経の良さ、理解力の高さなどが相まって、驚くほど早く振りが入っていったのだ。

「……ところで、パパさん、大丈夫?」

窓越しに乗り出した時宗は、愛理を呼んでこっそり聞いた。

「え? パパ?」

「そ。今、見当たらないけど?」

時宗が言ったが、愛里には見えないので、泰造がどこにいるのかわからない。学校など、周りに人がいるところでは泰造は話しかけてこないので、気にしていなかったのだ。

「緒方くんの舞が始まってしばらくしたくらいかな、見えなくなったのは……。って、ああ、戻ってきた」

時宗は愛里の上方を見て、うなづいた。 

「お前、何を教えた?」

いつもの泰造には似合わない苦しげな声が、時宗に聞いた。

「なにって、うちの家系に代々伝わってる祓いの舞だけど」

「祓い? それでかっ、なんだか息苦しくなったから避難してたんだ」

「息苦しいって、霊なんだから息はしてないんじゃ……」

「だから、そういう感じってだけだ。……じゃなくて、なんであんなものを教えるんだ!!」

と、食って掛かる泰造に、

「そりゃ、コンテストのためでしょ。体質改善の希望もあって緒方くんもやるって言ったし。ま、あそこまでできると思ってなかったんだけど。彼、素質あるかも」

時宗は淡々と言い返した。

「これじゃ、とにかくあいつが舞ってるときは近くにいられないな……」

つぶやく泰造に、どこか不安な気がした愛理だった。




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