14.王子のフトコロ?
ホームルームでは、いよいよ具体的にどんな出し物にするか、「玉三郎コンテスト」の話し合いが進められていた。
体育委員は表の体育祭に忙しく、クラスの半分はリレーの練習などにも駆り出される。部活動対抗の種目などもあって、桜橋高校の体育祭は盛りだくさんだ。
「では」
壇上に出ていたまなかが、まとめに入った。
「巫女の神楽で。あと、神楽の舞台は神輿式にして、担ぐ、でいいかな? それだと、緒方くんは神楽の舞の練習してもらわなきゃならないんだけど、衣装貸してもらえるって言ってた時宗くん、何か神楽舞の心当たりとか、ある?」
「ああ、僕でよければ、教えてあげられますけど」
まなかの突然の振りにも動じず、時宗はあっさり答えた。
「そう? じゃ、時宗くんと緒方くんでよろしく。神輿の制作と実際に担いでもらう人選は……」
そうして、まなかは、具体的な仕事の割り振りを次々と決めていった。
玉三郎スカウトの愛里はといえば、冬馬のマネージャーのような立場で、舞を教わる冬馬が玉三郎を放棄しないように常に付添えと指示されてしまった。冬馬に付き添うのは仕方ないとしても、時宗が一緒となるとなんだか辛い。放り出すわけにもいかず、愛里は沈んでしまった。
「……どうしたの? 今朝からちょっと微妙な雰囲気だったけど、さらに暗くなってるよね?」
ホームルームを仕切り終えたまなかが、愛里を心配して声をかけてきた。
「……時宗くんって、なんだか苦手」
ぽつりと愛里が言うと、
「ま、ちょっと得体のしれないとこ、あるわね。氷王子とは違った意味で」
と、まなかは、休み時間も一人でいる時宗にちらりと視線を走らせた。
一人でいることが多いのは冬馬も同じようなものだが、注目度が違う。冬馬の場合は、みんなが氷のオーラを恐れて遠巻きになっているのだが、それでも衆目を浴びている。時宗は、教室と一体になっているとでもいうのか、とにかく存在感が消えているのだ。
「神社の分家なんだって」
「ふうん。それで、神楽まで教えられちゃうんだ」
ふんふんと、まなかは頷いた。
「ふつーは、ないよね。……昨日、パパのこと、祓うって言われた」
落ち込む愛里に、まなかは見えない霊を探すようにしつつ、
「……パパさん、何か悪さでもしたの?」
小声で聞いた。
「そんなことしない!」
愛里は小声ながら、体を固くして全身で否定する。
「なら、どうして?」
「……いたらいけない存在だって」
「ずいぶん上からね。そんなこと、決められる筋合いないと思うけど」
冬馬と同じようなことをきっぱりと言ったまなかは、すっと冬馬の方を見やった。
「でも、王子が何とかしてくれるんじゃない?」
神楽舞をすることにも時宗に教えを乞うことにも、異議を申し立てることもなく、冬馬は淡々と受け止めていたようだった。
「緒方くんが?」
「うん。なんか、雰囲気変わったかも」
相変わらず冬馬は、普通には近寄りがたいオーラを出しているのだが。
「前に、協調性を期待するなって言われたけど?」
愛里が言うと、
「そんなの、期待してないわよ」
笑って否定するまなか。
「でも、なんていうのかな? 王子は、フトコロに入れたら守ってくれるような気がする」
そうなのだろうか、と愛里は思った。昨日は、確かになんだか優しいところもあったような気もする。わざわざ自分から愛里の鞄を取りに教室まで行ってくれたし。
「ま、玉三郎の優勝めざして、がんばってよね」
最後はしっかりそこに落とし込むまなかに、何とも言い返せない愛里だった。
そして、放課後さっそく時宗は冬馬を誘いに来た。
「まずは、実際に見たほうが早いだろ?」
衣装を借りるはずの稲荷神社の境内で、時宗が神楽を舞って見せるから来いというのだ。
時宗と冬馬が一緒にいるのに気づいた愛里は、慌てて帰り支度をして、二人のもとへ走った。
「ああ、伊藤さんも来るんだった?」
「……スカウトなので」
仕方なく、と言わんばかりの愛里の頭に、ぽんと軽く冬馬の手が触れていった。
「俺なら、別に途中で放り出したりしないから、見張ってなくていいけど」
冬馬なりの助け舟だったのだと思うが、愛里は、
「ううん、ちゃんと見ておくから」
と首を縦に振らなかった。
冬馬は、黙って愛里の上に浮かぶ泰造を見、互いに視線を交わした。
「ぼくだって、いきなり祓ったりはしないよ」
心外そうに時宗が言ったが、
「信用できない」
いつもの冷たさを取り戻した冬馬が言い切った。
「神社とか、大丈夫なのかな?」
愛里が、泰造の霊に何か影響があるのかと尋ねると、
「ま、無理そうだったら、離れててもらったら?」
と、時宗はあっさり言い、
「そうだな。先に家に帰っててもらえばいい」
冬馬も言って、とりあえず三人で稲荷神社に向かうことになった。




