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13.親ばか効果?

 鞄をもってきてくれた冬馬は、どこか不機嫌でいっそう冷たさのバリケードがかかっていた。

「ありがとう」

お礼を言う愛里と、そしておそらくは泰造をじっと見つめた後、

「大丈夫だから」

と、冬馬は言った。何が大丈夫なのか、父の霊が払われてしまったりはしないのか、聞きたいことはあったが、愛里は言葉を飲み込んだ。

「だから、もう今日は帰れ」

 玉三郎スカウトになって、三日。この短い間に、これまでにないほど何度もやりとりがあった。愛里は、少しづつ、冬馬の印象が変わってきていたのに気づく。今のこの冬馬に違和感を覚えるくらいには。

「うん、じゃあ、パパ、帰ろう」

けれど愛里は、素直に下校することにした。もしかしたら、冬馬と時宗の間に、何かあったのかもしれないとは思いながら。



 昨夜と同じように風呂に入る愛里に追い出された泰造が、冬馬のもとへ現れると、

「実際のところ、何しに出てきたんだ?」

と冬馬は言った。ちょうど冬馬は、自分の部屋で机に向かっていたところで、勉強する手を休める様子もなかったが、それでも冬馬が泰造を待っていたのがわかった。

 冬馬の部屋に浮かぶ泰造は、

「それがわかったらな……」

と頭を掻いた。

「だが、信じてくれ! 憑りついてどうにかしようとか、そういうんじゃないんだ、絶対!!」

 冬馬はくるりと椅子を回すと、その背に両腕を乗せ、

「……わかってるよ」

と言った。

「あいつが何か言ってたのかっ?」

泰造が聞いたのは、時宗のことである。帰宅してからも愛里がずっと気にしているようだったのが、可哀想でならなかったのだ。

「憑かれてる状態で、何かあってからじゃ遅い、とか、言ってたな」

冬馬が答えると、

「俺が、可愛い愛里に何かするわけないだろうっ?」

泰造は食って掛かるように、冬馬に迫った。

「親父さんにそのつもりがなくても、ってこともある」

その冬馬の言葉に、泰造はかなりショックを受けたようで、歯を食いしばって空中で耐えていた。

「なあ」

冬馬が、泰造に声をかける。

「親父さんが来てから、他のを見ないんだけど。何かしてる?」

泰造が現れてから、冬馬は他の霊を見なくなった。なので、不快な思いをせずに済んでいる部分も大きいのだ。

「いや、別に……。髪の長いお嬢さんには、遠慮してもらっているけどな。あっちも、こっちが苦手そうだし」

 泰造が言ったのは、このところ冬馬につきまとっていた自殺した女子高生の幽霊のことだった。確かに、人助けで殉職した消防士と自ら命を絶った女子高生は合わないだろう。

「説教でもしたのか?」

「いや、まあ、少し、な」

死んでしまってからでは遅いのだがと泰造は口の中でごにょごにょ言う。泰造の性格からすれば、ありそうなことだった。

「逆に、俺は助かってるよ」

冬馬は言った。たちまちぱあっと顔を明るくする泰造に苦笑しつつ、

「だから、まあ、とりあえず。イベントまでは、なんとかする」

時宗に余計なことはさせないようにすると、冬馬は請け負った。

「お前……、いい奴だなぁ」

感激した泰造がしみじみと言うと、

「そっちもな。親子共々、変わってるよな」

と、あっさり答えて冬馬は再び机に向かった。

「そうか? 愛里は可愛いが、別に変わってはないと思うんだが」

後ろでつぶやく泰造に、

「……まったく、親ばか」

と吐き出しつつ、冬馬は幾分泰造に感化されつつある自分を感じていた。

 可愛いというか、まっすぐで、必死だな。俺みたいなやつに、これだけ食い下がった奴は珍しい。と、冬馬は思った。自分の思いには、正直な愛里が少しまぶしかったりする。そのくせ、「すべてに応えなくてもいい」なんて、冬馬の気持ちが軽くなるようなことをさらっと言うのだ。容姿に恵まれ、それなりに何でもこなしてきていた自分だからこそ、人の勝手な期待には重さを感じていた。それを、あっさり、クリアしてしまう。

 なんとかあいつは守らなくちゃな、と、我知らず泰造とタッグを組んでいた冬馬だった。






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