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11.困ってません

「巫女さんか。うん、いいな。頑張れ、愛里! パパが応援してるぞ」

我慢できなかったのだろう、頭の上から声が降ってきた。なんだかガッツポーズでもしていそうな勢いだ。

(頑張れって、私が出るわけじゃないんだけど……)

心の中で応答してみたものの、テレパシー能力は備わっていないらしく、泰造からの反応はなかった。

「私がやるわけじゃないよ」

ほうきを持つ手を休めず、愛里は小声で言った。今日は、教室掃除の当番だった。

「え? ああ、そういえばそうだったな。巫女さん役は、あのやる気のない彼か。愛里がやった方が、可愛くていいと思うんだけどなあ」

と、相変わらず泰造のテンションは高い。

「だから、それじゃ、玉三郎じゃなくなっちゃうでしょ?」

愛里は、泰造に説明した。男子が女装するコンテストだから、歌舞伎役者の代名詞として玉三郎という名をもってきているのだと。

「いや、パパだってそのくらい……」

「ねぇ、伊藤さん」

突然後ろから声をかけられ、愛里は驚いて振り返った。独り言を言うアブナイ奴と思われたかもしれない。

 そこにいたのは、ちり取りを持った時宗だった。そういえば、一緒の掃除班だったと愛里は今更気づいた。時宗の眼鏡の向こうの表情は読めない。

「ずいぶん、おもしろいものがついてるね」

と、時宗は言った。愛里が何も言えずにいると、

「消防士さん? パパって、伊藤さんのお父さんかな?」

時宗の目は、愛里ではない、その上の空間を見ていた。

「時宗くん……?」

「これだけ悲壮感のない楽しい霊って、珍しいよね?」

「え?」

「ああ、君は見えない人なんだっけ。憑かれてるから、話はできる、そういうことか」

淡々と話す時宗に、

「君も見えるのか?」

泰造は、それでいいのかと思うくらい嬉々として言った。すると時宗は、

「君も? ……もしかして、緒方くんも? だから、伊藤さんのお父さんが、緒方くんを説得したの?」

と聞いてきた。

「いや、愛里の力だ! 残念で仕方ないが、パパはあんまり愛里の役には立ってない」

「ちがうよ、そんなことない……」

親子で互いにどちらが貢献したかという話になってしまうところを、時宗は、

「そんなことより! お父さんは、なんで出てきたの?」

と強い声でさえぎった。

「なんで、って」

答えに詰まる泰造。

「心残りがあったんだよね?」

「……可愛い娘の成長した姿が見られなかった、それが心残りだった」

むしろ偉そうに言う泰造である。

「でも、もう見られたよね?」

「まあ、そうだな」

「だったら、なんでまだいるの?」

「……」

「時宗くん、何が言いたいの?」

愛里は、父の霊と問答を続ける時宗に、どこか不安を感じて言った。

「君のお父さんは、ここにいちゃいけないものだ」

「時宗くん?」

「僕は、神社の分家でね。もともと、少し特殊な家なんだ。神社全部がそういうんじゃないけど。だから、伊藤さんが困ってるなら……」

 おそらくははらってあげようか、と続く時宗の言葉を、愛里は最後まで聞かなかった。

「困ってません!!」

言い切って、その場を逃げ出した。



 廊下を走り、担任に見とがめられたが、それも交わしてそのまま愛里は、一気に裏庭に出た。

「そりゃあ、お風呂とか、どうかな? って思ったりするし。でも、ちゃんと出てってくれたし。人がいるときは、気配消してくれてるし。多少、暑苦しくたって、別に……困るわけじゃないもの」

なんだか父親を悪霊みたいに言われたことがショックだった。

「愛里、……気にするな。パパは、幽霊なんだから仕方ないだろ?」

何とか娘を持ち上げようと、泰造は明るい声で言う。

「いやー、欲が出ちゃったのかもな。もっと、愛里と一緒にいたいとか、どんな生活送ってるのか、幸せなのか見届けたいとか、いろいろ。それで、次々と心残りになっていってるのかもな」

泰造は言うが、それのどこが悪いのかと愛里は思った。

 写真だけで記憶にない父。でも、ずっと母親から聞かされて育った。どんなに素敵な人だったか。どれだけ、母や愛里を大事にしてくれていたか。だから、泰造がたとえ霊でも、そばにいて悪いとは思えなかった。

「……なんで教室の箒、持ち出してるんだ?」

顔を上げると、冬馬がいた。冬馬は裏庭の掃除当番で、ちょうど片付けも終わったところだった。

 愛里は、自分が箒を持ったままでいることに恥ずかしくなって、後ろ手に箒を隠した。

「何か、あったのか?」

変だ。なんだか、冬馬が優しいような気がする愛里だった。



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