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10.出し物決定!

 暑苦しいしつこさが報われたのかどうかはわからないが、とにかく、冬馬が玉三郎を引き受けてくれた。

 昼休み終了間際に教室に滑り込んだ愛里は、目が合ったまなかに右手の親指を立てて見せた。まなかは、目を丸くしていたが、愛里より少し早く教室に戻った仏頂面の冬馬をちらりと見て何かを察したのか、同じようにサインを返してくれた。

 終業後、クラス担任が教室を出ると、まなかは、さっと教壇に出て、

「緒方くんが、玉三郎を引き受けてくれました」

と、声を張り上げた。

「なので、掃除前に緊急ホームルームをしたいと思います」

「うっそ……」

「まじかよ?」

「ほんとに?」

「やった!」

ざわめく教室の面々に、まなかは、

「まず決めないといけないのは、出し物。1-7が、何で勝負するか、でしょ?」

と、ぽんと机をたたく。その見事なリーダーシップに、クラスメイトたちも考える様子になった。

 当の冬馬は、この事態を覚悟していたのか、衆目の中で席を立たないものの、腕を組んで前を見据えていた。

「去年優勝したのって、ビーナスの誕生、だったよね?」

「うえぇ、ボッティチェリ……」

「俺、兄貴から聞いてる! なんか着ぐるみ? らしいけど」

「生だったらグロいだろー」

 ビーナスの誕生とは、ボッティチェリ作のルネサンス期の絵画で、貝殻に乗った女神が裸体に髪をなびかせて立っている様を描いている。絵自体は何とかイメージできた愛里だったが、あんなのどうやって女装コンテストでやるんだと首をかしげた。

「大仏とかもあったらしいぞ?」

「ウケ狙いだろ、それ」

わらわらと過去の作品や感想が出て、なんとなくコンテストそのものが、一大仮装イベントなんだと再認識してきたころ、

「玉三郎としては、何がしたい?」

まなかが、冬馬に意見を求めた。

「……まな板の鯉に、発言権はない」

固い声が響く。

「でも、これだけはしたくない、とか。あるでしょ、そういうの」

「言っていいなら。女装もイベント参加もしたくない」

はっきり言い切る冬馬。一同冷え切って、教室は静まり返ってしまった。

焦った愛里は、

「……緒方くん!」

思わず声をあげてしまった。

 冬馬が、愛里を見据える。

「いったん引き受けたんだ。覚悟はしてる」

冬馬が静かに言ったその時、

「あのう……」

教室の隅から、男子生徒が声を上げた。分厚い眼鏡の向こうに、小さな目。普段はあまりしゃべらない、時宗だった。

「……巫女さんって、どうでしょうか?」

時宗は、恐る恐るといった様子でクラスを見渡しながら、

「緒方くんのキャラにも合うと思うんですが。……衣装は、西町の稲荷神社で借りられると思いますし……」

と言った。

「はい、時宗くんの提案だけど。みんなどう思う?」

まなかが引き継いで、クラスの意見をまとめにかかる。

「……いんじゃね?」

「緒方くんの、巫女さん、かぁ……いいかも」

「うん、いい!」

クラスメイトたちが、次々に乗ってきた。冬馬は、口を出さない。

「じゃあ、賛成の人!」

まなかが挙手を求めると、ほとんどの手が上がった。

 クラスを見渡すと、みんなが急にやる気になってきたのが感じられた。

「それでは。1年7組の出し物は、巫女に決定です! 明日からもうちょっと具体的に、どんな感じで行くか、設定なんかを話し合って決めて行きたいと思うので、みんな、考えてきてね」

まなかがそう括り、自然と拍手が沸いた。

 そうしてなんとなく浮いた感じのまま、掃除や部活に行く者、帰る者と、クラスメイトたちは散っていったのだった。




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