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9.言っちゃうかも

「緒方くん、ちょうどよかった。私も言いたいことがあって……」

昨日に続いて部室棟の裏に呼び出された愛里は、自分から切り出そうとしたが、

「待った。まず、昨日、なんでこの親父が俺のほうに来たのか説明してもらおうか」

と、冬馬に一気に先に言われてしまった。

「パパ、何も言ってないの?」

「あー、いや、正直に言って、若者にあらぬ想像をさせてもいかんと……」

愛里には声だけだが、冬馬には妙にあせって変な言葉遣いになっている泰造の霊がはっきり見えていた。

「……風呂にでも入るのに、父親を追い出したのか?」

冬馬の冷たい口調が、愛里に少々罪悪感を抱かせる。

「追い出したってわけじゃ……。幽霊とか言っても、恥ずかしいし。それに、ちょっと出てて、って言っただけで、なにも緒形くんのところに行くなんて思ってもみなかったし」

愛里の言い訳に、あからさまに息を吐いた冬馬は、

「霊ってのは、思い入れのあるやつか、俺みたいなのくらいしか憑けないんだよ!」

馬鹿にしたように言う。

 確かにそれなら、愛里がだめとなると母の八重子に……というわけにもいかない泰造としては、冬馬のところに行くしかなかったのだろう。

「またしつこく、お前に協力しろって、そればっかりだし」

冬馬が言うと、

「そろそろ、やる気になってもいいんじゃないのか?」

泰造が追い打ちをかけるように言った。

「なんで、俺が」

「だから! そういうのは、やりたくてもやれないやつのほうが多いんだ。どんなこともやり抜けば、貴重な青春時代の思い出になる! せっかくクラスのみんなが期待してくれてるんだ、やらないでどうする!?」

泰造が、両手でこぶしを作って冬馬に迫っているようだった。

「さぁ、やろう、玉三郎、どんと来い! だ」

見る見るうちにげんなりした様子になった冬馬が、気の毒なような気もした。

「……だから、俺はそういうのは嫌なの」

それでも、幽霊パパの熱さに押されてか、泰造と話している冬馬は前ほど怖い感じはしなくなっていたので、愛里は思い切って、言ってみた。

「緒方くん。玉三郎やってくれないんなら、私、言っちゃうかも!」

「は?」

「緒方くんの、やっかいな体質?」

「……お前、けっこういい性格してるな」

いつもの冷たい目で、睨みつけられた。確かにブリザードだ。だけど、愛里は、ここでひるむわけにはいかなかった。

「私の性格とかは、どうでもよくて。とにかく、やってくれる、よね?」

「いいぞ、愛里もう一息だ!」

どこから出したのか、冬馬には、泰造が大きな大漁旗を振り回して愛里を応援する姿が見えた。

「なんでそこまで……」

「だって。しないより、やったほうが、きっと楽しいよ? 高校入って初めての大きなイベントだし。桜橋の裏体育祭っていったら、このあたりじゃ、すごく盛り上がるって有名だし」

語る愛里と旗振る幽霊。

「……ったく、やっぱり親子だよ」

「逆に、なんでそこまで、嫌なのかがわかんない」

「勝手に期待されたりするのが、うざいんだよ」

「いいじゃない、だって、そんなに見た目がいいんだから、期待するなってほうが無理でしょ。でも、別に、全部の期待に応える必要はないんだし」

冬馬は、少し驚いたように目を見開いて、愛里を見つめた。

「え? な、なに?」

端正な顔にじっと見つめられ、戸惑う愛里に、冬馬はふっと肩の力を抜いたように笑った。

「……わかったよ」

「え?」

何を言われたかわからず、愛里が聞き返すと、

「やれば、いいんだろ。厄介な体質のこと、触れ回られたら困るからな」

と、冬馬は答えた。

 冬馬がこんなにあっさり了解してくれるとは思っていなかったので、どこか拍子抜けしたような、物足りないような……。けれど、

「愛里、やったな! うん、よく頑張った!」

と、泰造が大はしゃぎしているので、とりあえずよしとしようと思う愛里だった。










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