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2.合コン。それはありがちがあふれる場


 「そうだ。沙織の話って何?」

 こんなとこ(某ファーストフード店)にいるのは沙織が話したいことがあるって言ったからだ。

 でなければ、今頃帰りの電車の中で隣に座っている女子高生の話をこっそり聞きつつ、テンプレートを探している時間である。


 「あー、あのね、実はね……」

 俯いて顔を赤らめる沙織。

 これはテンプレート話かも!?

 口元が思わず緩みそうになるのを気合で堪える。

 危ない、危ない。何度もにやにやしていたら不審者だよ。


 もうすでに何度もにやにやしているということに花菜は気づかない。


 「勿体ぶってないで教えてよー。何、誰かから告白された!?」

 「ち、違うよ!!」

 「なんだ。違うのか……」

 沙織から否定されたことで明らかに花菜のテンションは下がる。

 ここで告白されていたとなれば、キタ―――――!と一気にテンションが上がって心のテンプレノートを準備していたのだが。残念である。


 じゃあなんでそんなに照れてるの?と言うべきか言わないべきか考えていたら沙織が口を開いた。

 「航太君がね、カラオケ行かない?って」

 そこまで言うと顔を両手で覆ってしまった。


 航太君は沙織の好きな人だ。西高の2年生。向こうの文化祭で知り合ったらしい。


 高校生のありがちは部活関係か同級生か文化祭だよね!あとバイト先と予備校。(っていうかこれ以外のパターンの方が特殊だ。)

 文化祭なんて皆浮かれているから普段できないようなこともできる。

 沙織も西高の文化祭に遊び(別名:出会い探し)に行ってそこで航太君に声を掛けられたらしい。

 この話を聞いたときは「ありがちキタ――――――!」と大興奮してしまった。

 ウチの学校は女子校だから同級生も部活関係もないし、バイトも禁止だから恋愛話にあまり出会えないのだ。恋愛話に出会えない=ありがちテンプレートにも出会えない。


 そんな中、沙織の恋バナは天が私に与えてくれたありがちテンプレート。生きる上での活力なのだ。

ああ、神様ありがとう。



 航太君とカラオケなんて進展してるじゃない!これはあと2回くらいデートしたら航太君から「俺と付き合ってくれない?」って言ってくるパターンだよ。

 いいねぇ。良いテンプレだ。


 「うん。いいじゃん!行ってきなよ!!」

 そしてその結果を私に是非教えて!

 心の声は出さずに後押しする。今の沙織に必要なのはあと一歩を踏み出す勇気なのだ。

 それによって私がありがちテンプレートを味わえるか否かがかかっている。

 「で、でもね、二人っきりでってのはちょっと……」

 ははーん。あれですな。

 言葉を濁した沙織の様子から察するに最初から二人でってのはハードルが高いらしい。しかもカラオケ。

 確かに薄暗い室内に二人っきりじゃ下心あるんじゃないかって心配になるよね。まぁ健全な男子高校生なら下心あって当然だろうけど。

 まず、最初のデート場所のチョイスを間違えたね。最初は軽めに買い物とか映画とか無難に攻めた方があとあと有利なのに。

 最初からがっつり二人っきりの空間希望なんて大抵の女子はドン引きだろう。


 ありがちに反応しすぎててそこに気づけなかった。沙織、ごめん。

 「そうだね~最初から二人っきりでカラオケってのはちょっとね」

 沙織の気持ちに同調するように花菜は言う。

 「だからね、花菜にも来てほしいの!」

 「は?」

 ジュースを飲もうとストローを口に運んだ瞬間の爆弾発言である。飲んだ瞬間じゃなくてよかった。絶対噴くかせていた。


 今、何て言いました沙織さん?

 思わず沙織を見れば、本人はいたって真面目な顔で花菜を見つめている。

 「あー…………私がいたら邪魔じゃない?」

 二人の様子は観察したいけれど、二人の世界には混ざりたくない。

 「大丈夫!航太君にも友達連れてきてもらうから!」

 沙織は先ほどまで恥らっていた様子から一転、猛烈に食い下がってくる。

 恋とは恐ろしい。

 「でも知らない人とはちょっと……」

 仮に四人でカラオケに行ったとしよう。

 花菜は沙織しか知り合いがいない。沙織は航太君と話すだろうから、必然的に花菜は航太君の友達の相手をしなくてはいけない。

 その人がすっごく合わない人だったらどうしたらいい!?

 そんな気まずい状況でテンプレ観察なんてできるわけがない。

 嫌だ。行きたくない。

 「大丈夫!みちるも誘ってるから」

 「みちるも?」

 みちるは花菜、沙織のクラスメートで割と仲は良い。社交的で誰とでも上手く話せるから確かにいてくれたらすごく助かる。

 

 助かる、が。


 「みちるが行くなら、私が行かなくても良くない?」

 みちるなら初対面の航太君の友達とも楽しく会話ができるはず。それなら花菜がわざわざ行く必要はない。

 「花菜にも来てほしいの~。3:3で遊ぼうて言われたんだもん」

 「え」

 「あ……」

 3:3?それってまさか……。

 「合コン?」

 花菜が不審がって尋ねれば、沙織は気まずそうに顔をそらした。

 図星か。

 ジュース奢ってもらった時点で気づくべきだった。

 花菜は少し後悔しつつも、沙織の恋愛に進展がないことにがっかりした。

 航太君は沙織のことにあまり興味がないらしい。

 「こんなこと頼めるのみちると花菜しかいないの!ね、お願い」

 両手を合わせ、必死に拝み倒してくる。

 よっぽど航太君と遊びたいようだ。

 「しょうがないなぁ。いいよ」

 「本当!?花菜、ありがとう~」

 渋々了承したが、内心ほくそ笑んでいた。


 合コンって言ったらありがちがあふれる場!

 普段見られないありがちが見られるチャンス!!

 自分は傍観に徹し、沙織やみちるのありがちを観察させてもらいましょう。


 喜ぶ沙織に気づかれないように花菜はニヤリ笑った。


読んでいただきありがとうございます。

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