芸能人格落ちチェック①
「とうとうこの日がやって来ましたね、小春」
マネージャー、谷涼香。彼女を乗せた車が今、都内を駆けていた。
都内で記録的な大雪を記録した今日、ハンドルを握るのはこの男……
この僕、雨宮小春です。
皆さん、お久しぶりです。
「小春、運転代わりましょうか?」
「いや、いいよ」
「でも雪道ですし……危ないですよ?」
「だから僕が運転してるんだよ」
「小春の車は私が運転するって、二人で決めたじゃないですか」
「いいや」
「小春っ!」
「うるさいね君も!いいかい?僕はね、この愛車ブガッティ シロンを手に入れる為に数々の苦難を乗り越えたんだ!」
「具体的に言うと借金取りと暴力団との戦いですね」
「この車は絶対に壊せないんだ。言うまいと思ってたけど谷さん、アナタノウンテン、アブナイ!」
「……そんな事より小春、お久しぶりな皆さんに自己紹介とかしとかなくていいですか?」
「唐突なメタ発言……」
「これから読み始める方もいるかもしれませんし……」
「いいだろう。諸君、僕だ。やっと完結したと思ったら戻ってきてうんざりしてる人も居るかもしれないが、これを読むも読まぬも君の自由…ただこれだけは言わせてくれ。これは番外編だから本編から読んでくれ。話はそれからだ」
「560話を超える駄作を全て読めというのも酷な話ですね……私は谷と申します。この四股俳優のマネージャーです。よろしく」
「本編終了後から色々あったけど……僕は元気です。映画とか舞台とかのおかげでいい感じで売れてます。あとこの車は5億円くらいしま--」
「小春っ!急カーブっ!!」
キュキュキュキュッ!!ドガンッ!!
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「だから俺は言ったんだっ!こいつを車で呼ぶなとっ!!まただ!俺は前こいつに玄関を壊された!今度は俺の車にぶつけやがった!!」
「白羽ハイル君……前回君の家を破壊したの僕ではなく、彼女だ」
「小春の運転も大差ないですね。やはり次からは私が……」
「いいや、君に比べれば現実的な被害に収まってる」
「まず謝れ!!」
テレビ局前で雪に降られながら僕に襲いかかるこの男--名は白羽ハイル。説明は省くが、今日本の若手俳優界を代表する息子にしたい俳優第一位の男……
僕のお母さんは僕よりこいつの方が好きらしい。
でも構わない。
なぜならこの雨宮、今日はとてもテンションが上がっているからだ…その理由はこのテレビ局、今日の仕事にある。
1月1日、元旦。この日テレビ局に僕がやって来たわけ……それは国民的あの番組からついにオファーが来たからなのだ!
「ついに僕も国民的番組に呼ばれる男になったか……ふふっ……ふはははっ!!」
「ようやくここまで来たって感じですね、小春」
「そんなに嬉しいのかよ」
この白羽とかいう野郎は人気者だから嬉しくないのかもしれないけど、僕にとってここまで来るのはとても過酷で長い道のりだったんだぞ?
そう……正月といえばこの番組。誰もが一度は観た事があるであろう……
「『芸能人格〇けチェック』!」
「違うぞ?今日は『芸能人格落ちチェック』だ」
「……なんだいそれ?」
「そのままだ。格落ち芸能人を決める番組だ。今お前が言った番組の逆バージョン」
僕は谷女史を見た。
「おかしいですね……私は確かに格〇けチェックと聞いてましたが……」
「聞き間違えたんじゃあないのか?」
「格〇けチェックは生放送じゃないだろ。放送日に呼ばれるわけねーじゃん。バカかお前」
僕は白羽氏のポニーテールをむしっておいた。
「本番前になにを!?」
「……なんてことだ。まさかのパチモン企画…?久しぶりの登場なのに?本編ラストで主人公の座を奪われたこの僕が……っ!格〇けまで奪われるのか!?」
「お似合いですね、まさに格落ち」
「さっさとスタジオ行くぞ」
なぜそんなに冷静なんだ?
芸能人格落ちチェックなんて不名誉な番組にお呼ばれされ怒りん坊将軍な僕。スタジオ入り。しかも生放送だという。冬の生放送ということは、トイレ問題が切実だ。
そんな事は今はいい。
「小春、おしっこして来たか?」
さっきから主人公への礼節がなってない。話しかけてきた美女からびしょびしょになるなと忠告を受けます。
女の名は小鳥遊らいむ。
僕のビジネス彼女。その曖昧な関係性は未だはっきりせず……詳しくは本編を読んでくれ。
「らいむ、一緒にスタジオ入りしようって約束したのに……」
「朝モーニングコールしたのに起きなかったからだろ?知らねぇよ」
……殺気を感じる。
「……雪も溶けるアツアツ具合。偽物カップルのくせにおでんに匹敵しますね。雨宮さん、小鳥遊さん、あけましておめでとうございます」
雅な和服姿で妻百合初音……通称ハラペーニョ・ハツネンの登場である。
日本芸能界における最高の役者。天武の才を持つ舞台女優。本作における最強キャラである。詳しくは本編参照だ。
あと、奥の方でスタッフと話しているのは新郷レオパルド氏である。野郎の説明はしたくないので本編読んで。
今の芸能界を代表するメンツが揃っている…自分で言うのもなんだが……年収1億を軽く超えてくるこのメンツでやるのが格落ちチェックだと言うのは…なんて言うか……
「皆さん、本番開始します。よろしくお願いします」
「もう始まるのかい?」
「私ら今来たんですけど?」
「尺の都合がありますからね……」
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『芸能人格落ちチェックゥーっ!!』
ドンドンパフパフ♪
……てな感じで司会のコールと共にヌルッと生放送が始まった。
雑な感じだけど番外編なのでゆる〜くいこう。
あと、作者は本家を観たことがないらしい。内容は勘でいくと言っていた。番外編作ってやるんだから感謝しろやって、言われた。
もうめちゃくちゃであるが、番外編なので許して欲しい。
「らいむ、これギャラいくら?」
「しっ!カメラ回ってんぞ!」
『この芸能人格落ちチェックは、芸能界に蔓延る虚飾だらけの偽りのスターの本性を暴き、真の映す価値なし芸能人を決めるという番組です!今年も今熱い自称一流芸能人の皆様にお集まり頂きました!!』
だそうだ。
『本日ゲストのご紹介です』
だそうだ。
『今年も映す価値なしの座を守ることはできるのでしょうか?皆勤賞、バクトさんです』
「よろしくお願いします」
あの男は……違法賭博で借金3億作った上に賭博罪で検挙されたというアーティスト、バクトか?初めて見た。
『寒そうですね、新郷レオパルドさん』
「ああこれ?いいでしょ?これ、パリの最新ファッションです」
『流石芸能界のファッキュニスタですね』
奇抜な格好でしか存在感をアピールできない男、新郷レオパルド氏。今日は海パンの上からビニール製のスケスケポンチョスタイルだ。首からゴーグル下げてる……
そして……っ!
「日比谷真紀奈です。よろしくお願いします。映す価値なしになるつもりはありません」
『いや日比谷さん……これ、映す価値なしを目指すって趣旨の番組なんで』
「私は呼ばれる番組を間違えました」
日比谷神が何故ここに!?
日比谷真紀奈--天上の美姫!その美しさ、銀幕の女王と呼ばれる隣のらいむさんがニキビに見えてくるレヴェルの完成度がオールウェズである。
日比谷神を知らない不信神者は今すぐ帰れ。
『まぁあとは……その他諸々、テロップが出てると思います』
「司会ちょっと待て」
「いい度胸してんなおい(怒)」
「どうしても出てくれと言うので出演したのにこの仕打ち……先程から無礼が極まってますよ?」
「君炎上させるよ?僕、芸能界の荒事専門家なんだよ?」
『時間もないんで早速クイズ初めていきましょ。皆さん、進行を滞らせないで。放送枠45分しかないんだから』
「嘘でしょ?生放送でやる意味ある?」
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『今年の格落ちチェックはチーム戦です』との事でした。
2人1組のチームになって生き残り(?)を賭けて戦うらしい。演者が奇数なのに2人1組とな…?
んでもってチーム分けだが…
『チーム日比谷は日比谷真紀奈さんと四股俳優さんです』
神よっ!!!!
「あけましておめでとう雨宮君。元気してた?」
「今元気になりました」
『チーム小鳥遊は小鳥遊らいむさんと妻百合初音さんです』
「ちょっと待てよ。私と小春はカップルなのになんで分けられた?」
「私、この人とは馬が合わないんですが…」
『チーム白羽は白羽ハイルさんと新郷レオパルドさんです』
「……」
「……」
『…なにかコメントください』
「こいつとは絡みが無さすぎて…」
「何を喋ったらいいのやら…」
あのチームには独特の緊張感が走っている。
『そして殿堂入りのバクトさんチーム!毎年映す価値なしなバクトさんなら1人でも余裕で映す価値なしですよね?』
「え?殿堂入りなのに戦わなきゃいけないの?」
尺がないので巻いていこう。カーンッ!!
芸能人格落ちチェックとは!!
一流の皮を被った偽物を炙り出し「この三流以下のクズ肉が!」って今年一年吊るし上げる為の正月定番のお茶の間イベントである。
参加者もとい暇な正月の生贄達は初めは映す価値なしからスタートだ。高級品と安物の二つの品物を吟味し、どっちが高級かを予想する。当ててしまうと格が上がっていき全て当てたら一流芸能人になってしまう。違いが分かるのは一流ということなのだろう。
映す価値なしを目指すこの番組的には外していかなければならないんだって。
現時点では僕らは映す価値なし。画角からフレームアウト状態で声だけ出演中。もはや何が面白いのか分からない。
いかに映す価値なしを維持するのかがこの番組のミソらしいが誰もそんな気はないのである。
なぜなら…僕らは一流だからだ。
『最初の問題はこちら…!お酒です!』
チーム日比谷神の前に出されたのはAとBに分かれた二つのワイングラス…
「雨宮君未成年だっけ?」
「20歳です」
あの舞台『人間失格』から一年くらい…僕らは大人になっていた。
日比谷神が美しくテイスティング…その様は絵画のようだ。美しい。なんて美しさ。
「ここは大人代表、この美の化身、日比谷に任せてもらいたい。美酒を楽しむのも大人のレディの嗜み!今画面の向こうの視聴者は私の唇に夢中」
「映す価値なしなので見えてません」
僕も頂こう…
「ごくごく…ふむ。この芳醇な香り…ほのかな酸味…なるほど」
「ごくごく飲むものなんですか?ワインって」
「雨宮君そっちもちょうだい」
「じゃあ僕もそっちを…はっ!?」
ちょっと待て…
これは…日比谷神と間接キッスでは…?
この雨宮、日比谷神に憧れて芸能界に入った。その想い破れて尚、日比谷神への崇拝の念は変わっていない。
つまり日比谷真紀奈は変わらず僕の中で日比谷真紀奈なのである。
「……い、いいんですか……?(興奮)」
「なにが?ごくごく」
その時僕の脳天からつま先までに衝撃の稲妻が走る。
日比谷神が僕が口をつけたグラスに唇を…っ!
恋焦がれていた時ついぞ叶わなかった日比谷神とのチュッチュッが間接的とはいえまさかこんな形で…!?!?
「くばぁっ!!(吐血)」
「雨宮君!?」
『ここでアクシデントです。雨宮さんが突然倒れました……マネージャーさん…あのこれ、救急車……』
「必要ないと思います。続けてください」
『マネージャーさんが仰るには必要ないとの事ですので続けます』
チーム日比谷が選んだのはBでした。Bの控え室へ…
「大丈夫?やっぱりお酒はまだ早いんじゃない?」
そこで僕を待ち受けていたのは日比谷神からの膝枕だった。
2人きりの控え室…雨宮、天国に至る。
嗚呼神よ…何故我に今このような至福を…
「ごふっ!!(吐血)これが日比谷教教祖の徳が実を結んだ瞬間…っ!!かはぁっ!?」
「あれぇ?悪化してる?」
フトモモ、ヤワラカイ……
次。
『さぁチーム小鳥遊、外すことは出来るのか!?』
「……(怒)」「……(怒)」
モニターで観戦する次なる挑戦者達。らいむとハツネンはなぜか青筋を立ててブチ切れていた。
「デレデレしやがってあの野郎…これは私のイベントじゃねーのかよ(怒)」
「雨宮さんはBを選んだようなので、ぶちのめしに行きますよ小鳥遊さん」
「じゃあBだ(怒)」
「ですね(殺)」
『……あの、飲んでから決めてくれませんか?』
控え室Bにバーサーカーが二体投入。
「日比谷てめー、人の彼氏に色目使ってんじゃねー(怒)今すぐ離れろ」
「雨宮さん?映す価値なしとはいえこれは生放送……セクハラは良くないですよ(怒)」
この至福の時を邪魔する不届きなる不信心者二名。教祖として僕は厳しい態度で迎え撃つ事に決めた。もちろん、膝から頭は離さずに、だ。
「失せるがいい…邪悪なる邪教徒よ…ここは貴様らが足を踏み入れてよい場所ではないぞ」
「小鳥遊さん!この人本当に日比谷さんのこと諦めてます!?」
「主人公のお前がそんなんじゃ作品の結末の意味がブレるじゃねーか」
「らいむ……この作品にテーマ性とか意味とか…ないっ!!」
「「とにかく離れろ」」
次。
『チーム白羽よろしくお願いします!』
「…新郷レオパルド」
「なんだ?白羽ハイル」
「雨宮はBの控え室に行ったらしい」
「お前もそんな理由でBを選ぶのか?」
「…あいつ、さっき俺の車を壊しやがったくせになんの話しもせずに逃げたんだ」
「おいおい…事故ったらすぐに警察を呼べよ」
「俺は雨宮と話をつけないといけない」
「……じゃあBで」
またこっちに来た。
「やめて!僕と日比谷神の聖域にこれ以上踏み込まないで!!」
「…白羽、もう雨宮のやつボロボロだぞ?日比谷さん、何があった」
「小鳥遊さんと妻百合さんにボコボコにされちゃった…」
こいつら全く番組の趣旨を理解してないらしい。
白羽氏既に満身創痍の僕に詰め寄る。すごい圧だが僕は彼に詰められる理由はない。
不当な暴力が雨宮を襲う!
「弁償しろや」
「何の話だい?」
「お前俺の車ダメにしたろ?」
「ちょっとバンパー外れて車体がひん曲がっただけじゃないか。かすり傷さ。さも事故ったみたいに大袈裟に…」
「それを事故って言うんじゃねーの?」
「僕の車だってダメージを受けたけど!?」
「お前がぶつけたんだよな?(怒)」
「しつこい。君は本当にしつこい。飽き飽きする。心底うんざりした。口を開けば車の仇、弁償しろと馬鹿の一つ覚え。君には怪我がなかったのだからそれで充分だろう。車が壊れたから何だと言うのか。自分は幸運だったと思い元の生活を続ければ済むこと。僕に迷惑をかけられることは大災に遭ったのと同じだと思え。何も難しく考える必要はない。雨が風が山の噴火が大地の揺れがどれだけ迷惑をかけようとも天変地異に賠償請求しようという者はいない。壊れた車が元に戻ることはないのだ。何時までもそんなことに拘っていないで日銭を稼いで新しい車を買えばいいだろう。殆どの人間がそうしている。何故君はそうしない?理由は一つ。君は異常者だからだ。異常者の相手は疲れた。いい加減終わりにしたいのは僕の方だ」
「……言いたいことはそれだけか?(怒)」
次。
『第一問最後の挑戦者はバクトさんです!どうぞ!!』
ごくごく…ごくごく……
「うーん……普通にBですね」
運命のガチャガチャタイム。
司会の人がAとBの扉をガチャガチャする。どちらが開かれるのか最後まで分からない。このドキドキ感。
ちなみに格落ちチェックにおいては外した方が開けられるので一流である僕らは開けられない方がいいという事になる。番組的には外した方がいいけど…
ガチャッ!
選ばれたのはBの部屋でした。
『なんと!全員ハズレです!!清々しいまでの三流!いや!映す価値なし!!』
「嘘だろ…(愕然)」
「小鳥遊さん嘘だろって私達は飲んでないでしょ?雨宮さん達が馬鹿舌なんです」




