新聞の彼岸と癌細胞の論理――あるいは自虐史観からの覚醒と幼女への回帰
第一章 図書館前の対論
聖交学園の図書館前には、生徒たちの知的武装を促すべく、主要な全国紙が閲覧できるスペースが設けられている。
ある日の放課後。その古びた新聞架の前で、白井紫影と寺石は、広げられた紙面を挟んで対峙していた。
白井は、高校からの編入組である。彼が過ごした公立小中学校の教育現場は、日教組的なイデオロギーが色濃く支配しており、彼は知らず知らずのうちに、自国の歴史を恥じる「自虐史観」という名の枷を嵌められていた。
寺石は、その蒙昧なる友を啓蒙すべく、恰も幼児に世の理を噛んで含めるが如き忍耐強さで解説を試みていた。
「白井よ。まず、この記事を読み比べてみよ。平成九年(一九九七年)、中学校の歴史教科書における**『従軍慰安婦』**の記述に関する社説だ。」
寺石は、二つの新聞記事を並べた。
一つは朝日新聞。もう一つは産経新聞である。
白井は目を走らせた。
朝日新聞の紙面には、『過去の過ちを直視し、事実を教えることこそが平和への道である』という旨の、彼が学校で習ってきた通りの「正義」が書かれている。
対して産経新聞は、『検証なき証言に基づく記述は、子供たちに不当な自虐心を植え付けるものであり、教育の場に相応しくない』と、真っ向から反論を展開していた。
「なっ……!」
白井は絶句した。「何だ、この違いは? 同じ事象を扱っていながら、その論調が百八十度違うではないか! 事実は一つではないのか?」
第二章 獅子身中の虫
「事実は一つだが、真実は人の数だけある。」
寺石は静かに言った。「そして、報道とは事実の切り取り方に過ぎぬ。……そうだ、白井よ。この意見の相違、言論の多様性が許容されること自体は、自由主義国家たる日本の素晴らしさだ。」
しかし、寺石の眼鏡の奥が鋭く光った。
「だがな。これは前にも言ったが、獅子身中の虫なのだ。」
「虫……?」
「人体の健康について考えてみろ。大なり小なり、完全無欠な健康体というものはない。我々は皆、何らかの菌や微細な病変と付き合い、折り合いをつけてクオリティ・オブ・ライフ(生活の質)を維持している。それが現実だ。」
寺石は、朝日新聞の紙面を指先で弾いた。
「だがな、ある一定以上に癌細胞が増殖したり、重要な臓器に転移したりすれば、宿主たる肉体は死に至る。……良いか、白井。過度な自虐史観とは、国家という精神に巣食う病魔なのだ! 自己を否定し、誇りを失わせる細胞が増殖しすぎた時、それはもはや『多様性』ではない。**『治療』**が必要なのだッ!!」
「ち、治療……」
白井は呆然とした。
彼の中で、信じて疑わなかった「正義の歴史」が、ガラガラと音を立てて崩れ落ちていく。
自分が「良心的」だと思っていた思想が、実は自らの魂を内側から蝕むウイルスであったとしたら?
目眩にも似たパラダイムシフトの衝撃に、彼は足元が揺らぐのを感じた。
第三章 純潔の防衛線
立ち尽くす白井に対し、寺石はさらに畳み掛けた。
ここからが、このマッドサイエンティストの真骨頂、論理の飛躍による**「悪魔合体」**の時間である。
「白井よ。貴様はまだ、これが他人事だと思っているな? 『国』の話など、自分には関係ないと。」
「い、いや、しかし……」
「関係大有りだ! 貴様のそのロリコン思想と、全く同じ構造なのだよ!」
「は?」白井は素っ頓狂な声を上げた。
「貴様は常々言っているな。『揺籠から初潮まで』と。それは何故だ? **『純粋無垢なもの』**を愛し、それが汚されることを何よりも嫌うからだろう?」
寺石の論理が加速する。
「歴史も同じだ! ねじ曲げられたプロパガンダによって、日本の歴史という『無垢な少女』が、汚名を着せられ、レイプされているのと同じなのだぞ! 貴様は、愛するマルチが、事実無根の罪で責められているのを見て、黙って『ごめんなさい』と謝るのか? 違うだろう! 全力で守るはずだ!」
「!!」
白井の脳髄に電撃が走った。
国家の歴史と、二次元美少女。
全く異なる二つの概念が、寺石の詭弁によって**「守るべき純潔」**という一点で完全にリンクしたのである。
「そ、そうだ……。私は、守らねばならぬ。私の愛する少女たちを、そして私の国の歴史を……! 誤った教育から、彼女たちの純真を守ることこそ、私の使命……!」
「然り!」
寺石は叫んだ。
「自虐史観を捨てよ! そして誇りを持て! **『日本が好きだ』と叫ぶことと、『幼女が好きだ』**と叫ぶことに、何ら矛盾はない! どちらも、汚されざる美への、魂の讃歌なのだから!」
白井は、涙を流しながら深く頷いた。
夕日に照らされた図書館前で、二人の男が交わした固い握手。
それは、右翼思想とロリコン性癖が、奇跡的かつグロテスクに融合し、新たな「業」の怪物が誕生した瞬間であった。




