第四話手掛かりをもとに
私は布切れを握りしめながら、じっと考え込んだ。
(この布は明らかにカフェのものではない...けれど、どこかで見たことがある気がする。)
エリスは興味深そうにそれを眺め、「村の誰かの服かしら?」と首をかしげた
「この布を手がかりとして、まずは店の周りを調べてみましょう。」
私はそう提案し、フィオナも「見つけるまで絶対に諦めませんから!」と笑顔をみせた。フィオナは少し安心したように頷いた。
黒猫は依然として店の隅に座り、じっと私を見つめている。まるで「急いで」と促しているようだった
私とエリスは、まずカフェの裏口へと向かった。
カフェ「ミルクとハチミツ」の裏には、小さな倉庫があり、その隣には配達員、従業員用の出入り口があった。昼間はほとんど使われない場所だが、何か手がかりがあるかもしれない。
「....扉が少し開いてる?」
エリスが倉庫の扉に目を向けた。確かに、わずかに開いている。風で動いたにしては不自然な開き方だった。
「ちょっと覗いてみましょう。」
私は慎重に扉を開け、中に入った。
倉庫の中には、予備の食材やテーブルクロス、掃除用具などが整然と並んでいた。
「ここにペンダントがある可能性あるかな?」
エリスが呟いた瞬間、何かが動く音がした。
「...誰かいる?」
私が声をかけながら、奥を覗くとそこにいたのは、カフェの常連で配達員のリオだった。
「リオくん?どうしたの、こんなところで?」
リオは驚いたように目を見開き、少し慌てた様子で「ア、アリエルさん...!いや、その...」
と口ごもった。
「何をしていたんですか?」
エリスが静かに尋ねると、リオはますます焦ったように目を泳がせた。
「いや、ちょっと掃除用具を探してて...」
リオの態度はどうも不自然だった。さらに、私の目に、留まったのは、彼のズボンの裾だった
「リオくん、そのズボン....」
リオが履いているズボンの裾が、私が拾った布切れと同じ形で、千切れていたのだ。
「....リオくん、この布、あなたのズボンのものじゃない?」
アリエルが布切れを見せると、リオは一瞬固まった。
「え...?」
「私たち、フィオナさんのペンダントを探してるの。その布が落ちていた場所がちょうど、フィオナさんの席の近くだったの。」
リオは目を泳がせながら、唇を噛んだ。
「....知らないよ、そんなの。」
「でも、偶然にしては出来すぎてるわ」
エリスが鋭く言うと、リオはますます追い詰められた表情をした。
私は少し考えた後、リオに向かって優しく言った。
「リオくん、もし何か知ってるなら、今話してくれない?私たちは犯人を責めようとは思ってない。ただ、フィオナさんの大事なものを見つけてあげたいの。」
リオはしばらく黙っていたが、やがて小さな声で話し始めた。
「...ごめんなさい。僕、ペンダントを見つけたんです。」
「えっ!?じゃあ、今持ってるの?」
エリスが驚いたように尋ねると、リオはコクンと頷いた。
「カフェの床に落ちているのを見つけて、最初はすぐに届けようと思ったんです。でも、お客さんも多くて、タイミングを逃しちゃって.....」
「それで、どうしたの?」
「ポケットに入れたまま忘れちゃたんです。それで、気づいたら倉庫に来てて、どうしょうか悩んでたんです。」
リオは申し訳なさそうにポケットを探り、銀色に輝くペンダントを取り出した。
「これ、フィオナさんのですよね。」
私はホッとした表情になりながら、リオの肩に優しく手を置いた。
「ありがとう、リオくん。正直に話してくれてよかった。」
エリスも安心したように微笑んだ。
「じゃあ、さっそくフィオナさんに返しましょう。」
ペンダントは見つかった。事件は無事解決したかに思えたが、私の胸には小さな違和感が残っていた。
(リオくんが拾ったって言ってたけど、本当にただ落ちていたの?)
黒猫はいつの間にか来ていてまたじっと私を見ていた。まるで「まだ終わっていない」と告げるように。