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セアの日常

セア人にとって、生命と力の源であるエナジー。それは他者の心の中にある、自身の存在によって得られるものである。一番程度の小さいものが認識によるもの。また、それが信仰や信頼といった強い存在になると、得られるエナジーはただの認識によって得られるそれとは比較にならない程にまで大きなものになるのであった。

 セア人の中でも、特にそのエナジーを多く得た人がいた。その者はサ・タによって「卿」の位を与えられている。セア星には4人の「卿」がいる。ウェヤー、ツァラー、妬圃祁、そしてニマだ。

彼・彼女らが(サ・タ)によって下された使命、それはより多くのエナジーを集めること。卿たちは自らを(サ・タ)に近づけることで、他者に強い存在を残した。また、その活動はセア星に留まらず、異星に赴くことで、さらなるエナジー獲得に奔放した。

 そうして、「卿」を強く信じ、エナジーを供給し続ける存在――卿団員は宇宙に広がっていくのであった。


※※※※※


セア人のほとんどはいずれかの「卿」を崇拝している。どこの卿団員であるかといった話題は決して禁忌な内容ではなく、皆がオープンにしているものであった。


「お母さん、わたし、ツァリムになる!」

「あら、それはどうして?」

「だって・・・ツァラー卿は見た目がかわいいんだもん」

「あなたね、いい加減大人になったんだから、もっとよく考えて選びなさい。どの卿がダメとは言わないけど・・・かわいいから選ぶってものじゃないわよ」

「じゃあ、お母さんはどうして妬圃家(とほけ)になったの?」

「・・・それはね、日々付きまとう悩み事から解放されたいからよ」

「お母さんにも悩みがあるの?」

「・・・そうねえ。妬圃祁(トーケ)卿は日々悩み苦しんでいる私たちを見て、その悩み自体が無くなる世界を目指すっておっしゃっているの。だから、私もそれに賛同して妬圃家になったのよ」

「わかった!じゃあ、わたしも妬圃家(とほけ)になる!」

「だから・・・そんな安直な理由で決めるものじゃないって言ってるでしょ!」


これはとあるセア人の親子の会話であるが、この程度には日常的な話題であった。どの「卿」を崇拝するかにあたり(必ずひとりを選ばなくてはいけないわけではないのだが)、セア人は「卿」が創る次の世界を重視していた。

ウェヤー卿(卿団員名:ウェヤシチャン)は「助け合う世界」を、ツァラー卿(卿団員名:ツァリム)は「平等な世界」を、妬圃祁(トーケ)卿(卿団員名:妬圃家(とほけ))は「悩みの無い世界」を創生しようとしている。・・・ニマ卿だけが創りたい世界がないのであった。

 目指す世界が異なれば、卿団同士で争いが起きそうなものでもあるが、そんなことはなかった。それは、どの卿団も共通して存在する絶対的な唯一神――サ・タがおり、根本的にはサ・タを崇拝することになっていた。



※※※※※※



サ・タが降臨した日のその後・・・「卿」はその啓示を卿団員のもとに預言して周り、エナジーの供給を促した。特に信仰の強い卿団員は、生活の大半を神拝に費やすのであった。


「はあ・・・」

「あら、ため息が出てるわよ」

「もうクタクタよ。神のご啓示とはいえ・・・今までは一日5回だった神拝が倍の10回になったものだから・・・」

「あらあら、こっちなんかもっと大変ですよ。神拝の時間は念を唱えなければならないのですが、その時間がのびたものだから喉がガラガラで・・・」

「最近どうしちゃったものかしらね。どの卿団もこんなにエナジーを必要として・・・」

「・・・あの噂、知っています?」

「噂?」

「・・・本当かどうかは分からないんですけど・・・他の星で卿団員を獲得のために、莫大なエナジーが必要になっているらしくて」

「それは、別に今までもあったことじゃないの。文明の発達していない異星人には、卿様が神がかった力を見せつけて卿団員に・・・」

「それが、今回はうまくいっていないらしいのよ。どうもね、宇宙には私たちと同等の知性と文明を持つ異星人がいるみたいで・・・その人たちと争っているとか」

「そんな話ありえないわよ。私たちに高度な知性・文明があるのは・・・こうして裕福な生活を送ることが出来るのは、サ・タ様がこの世界を創ってくださったからで・・・」

「私もそう思っていたんだけど・・・でも、それだったら争わないと思うの」

「つまり・・・どういうこと?」

「もし・・・神が他にいたとしたら・・・」

「そんな罰当たりなこと言うものじゃないわよ。この世界は、宇宙は、全てサ・タ様が創ったのよ」

「でも、だったらどうして戦うの?」

「・・・え?」

「もしサ・タ様がその星とその異星人とその文明を創ったことを知っていれば、それは感謝すると思うの。私たちと同等の知性があるのだから。でも、それを拒むということは・・・その異星人たちには、その異星人なりのサ・タ様と同格の存在がいるんじゃないかしら」

「もしそうだとしたら、その世界を創ったとその星で名乗っているのは偽者の神よ」

「それはどうして?」

「当たり前じゃないの。神は、サ・タ様だけだからよ」

「まあ・・・そうね」

「あなた、考え方が昔に増して変になっているわよ。その疑う姿勢。まるで、妬圃祁(トーケ)卿みたいな考え方を・・・」

「うちの卿様を変とか言わないで。あの方は、世の真理を突き詰めていらっしゃる方なのだから」

「でも、サ・タ様以外の神の存在を言い表すなんて・・・冗談でも大罪よ」

「・・・不快だったかしら、ごめんなさいね」

「いいわよ、別に」

「じゃあ私、また念を唱えに行くからから、これで・・・」

「え、また行くの?外はもう暗いわよ?」

「・・・卿様のためだから」


ひとりが、夜道へと歩みを進める。そして、その一つ目で、真っ黒で吸い込まれそうな空の中で、点々と輝く星をみた。


「でも、やっぱりサ・タ様以外にも神はいるのだと思う。だって、私たちに置き換えてみたらそうじゃないの。他の星から見知らぬ人が来て、その人たちの神にエナジーを与えろって言われたら、それは嫌よ。崇める理由があるから・・・エナジーを与え続けるのよ」


夜空からもまた、彼女を見続けるものがいた。


「変化・・・新しい思想が出てきた」


真っ黒なカラスのような翼を生やした彼こそが・・・卿団員が神と呼ぶ存在、サ・タである。


「それにしても、変な噂を流すのはどこのどいつなのだ・・・やはりお前なのか、ミ・カ・・・」


彼は、自身の頭上にある光り輝く輪を軽く撫でた。


読んでいただき、ありがとうございました!

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