サ・タの降臨
その日はセア星に神が降臨する日であった。彼はセアの全ての創造主であると神話で描かれており、老若男女、卿派を問わずセア人が神拝する存在である。
「情けない。あまりにも情けない。『卿』の位を得たものが、地球人などに敗北を期すなどとは」
セア星の宮殿にて。天界の門から出てきたサ・タは怒っていた。
「いいか。お前たちの中から、我が存在を引き継ぐ者を選ぶということは分かっているだろう。それなのに・・・なんだ、この無様な結果は」
サ・タが見下す先には、三人の「卿」が俯き座していた。
「しかし・・・お言葉を遮るようで申し訳ないでトスが、サ・タ様」
発したのはウェヤー卿である。
「我々はタイガーマンを倒すことは出来ておりませんが、エナジーの回収という面ではそれなりの成果があると思われます。実際、地球人で我々の存在を知らないものは3割にも満たないというデータがあり・・・」
「それは違うぞ、ウェヤー」
サ・タの鋭い眼光がウェヤーに向けられる。
「地球は今まで訪れてきた星々とは訳が違う。辛うじて得ることが出来た認識によるエナジーは、地球人が持つ情報網が優れているからだ。お前たちの功績ではない。そもそも、私がお前たちに望んだのは地球人の認識だけを得よという話でない。それを超える信仰を得よといっているのだ。それなのに、それ以前にタイガーマンを倒せていないとは・・・」
「申し訳ございませんでトス、サ・タ様。私の勉強不足をお許しくださいでトス。タイガーマンや地球についてもより一層勉強して参るでトス。そして、サ・タ様が次にいらっしゃる日までには、必ずや、タイガーマンを・・・」
「そうだな・・・お前の勉強には期待しているよ、ウェヤー」
「イエス、サ・タ様。御父、御子、御霊に誓って」
サ・タは続いてツァラーを見た。
「お前はどうなんだ、ツァラー。体が小さいからと言って、お前だけ甘く見るなどということはないからな・・・」
「そういっていただけることがうれしいでリム、サ・タ様。抱いていただいた期待を裏切らないように、このツァラー卿、一層全力で挑んで参るでリム」
「私も、サ・タ様のご命令には忠実に従う所存です」
続いて妬圃祁卿が口を開いた。
「妬圃祁よ。四人の中で一番の実績をもつお前が、なぜに先のような失態を犯したのか・・・失望したぞ」
「・・・お言葉ですが、サ・タ様。先の敗北も私の作戦のひとつであります。これで勝つために必要な情報は集まりました。次こそは、必ず」
「情報を得るために負けた、と。お前は相変わらずよく分からないやつだな。まあ、お前の言葉を信じよう。・・・それで・・・四人目はどこにいる?」
「彼女でしたら、ウェヤー卿が連れてくるということでしたが」
妬圃祁卿はウェヤーを向いた。
「イエス。先ほど、声をかけたでトスが・・・いまだにあのバカ女は寝たきりの状態で」
「まだ寝たきりの状態でリム?」
「・・・イエス。相変わらずのケガで・・・」
サ・タは首を傾げた。
「おかしい、大量のエナジーを受肉させたはずなのに。まあ、自業自得な話だが。そもそもの始まりがあの女の失敗からだ。あいつが余計なことをしなければ、タイガーマンという面倒な存在が生まれなかったというのに・・・まあ、今更だ。起きたら伝えろ、お前に与えた分のエナジーをまずは早急に返せ、と」
「・・・イエス、サ・タ様」
サ・タは真っ黒な翼を広げると、その羽を羽ばたき宙に浮いた。
「セア星、そして他の星々で私を神拝する人々にもよろしく伝えておいてくれ。次に来た時は状況が大きく変わっていることを期待している。ウェヤー、ツァラー、妬圃祁・・・」
サ・タは天界の門へと姿を消す。三人の幹部はその光が消えるまで、じっと見送るのであった。
※※※※※※
サ・タが天界に帰った後のことである。ツァラー卿、妬圃祁卿は自らの卿団に神の啓示を伝えに行ったが、残るウェヤーが向かった先は卿団のもとではなく、治療室であった。治療室で寝ている、とあるセア人の元へ。
「それで、大変だったんでトスからな、このバカ女!このウェヤーがサ・タ様に嘘をつくことになるなんて・・・至極の罪悪でトス・・・」
横たわる女性は申し訳なさそうにウェヤー卿を見た。
「それは本当にごめんなさいね、ウェヤー卿。今のところは隠せていますか?」
「多分でトスが・・・こうやって起きて話せることは知られていないと思うでトス」
「そう・・・サ・タから与えられたエナジーが流れている私の体の状態なんて、すぐに知られてもおかしくないですけど・・・」
「呼び方に気を付けるでトス、バカ女。サ・タ『様』でトス」
「ああ、そうでしたね。それで、サ・タ様は何か言っていましたか?」
「例の件、相当お怒りの様子だったでトス。・・・全く、本当にどうして、地球人にエナジーを与えたのでトスか?」
「それは・・・前にも一度話しましたよね。私の不注意な事故のせいで一人の地球人を死なせてしまったので、申し訳なくて、エナジーを・・・」
「それでどれだけのエナジーを与えたのでトスか!!!その結果、命を助けるだけでなく、地球人が『卿』に並ぶ力を持つことになったのでトスよ!!!」
「あの時は、ただ助けたくて、その一心で・・・」
「本当にそれだけでトスか!?」
「・・・」
ウェヤー卿は大きくため息をついた。
「本当にバカ女・・・いや、ニマ卿。お前は優しすぎるでトス・・・でも、タイガーマンを生み出した、その罪は重いでトスよ」
ニマは微笑んだ。
「ウェヤー卿、そう言うあなたも大概ですよ。・・・私のために主に嘘をついているんだもの」
「べべ別にお前のためではないのでトス!対価は払ってもらうでトス。約束通り、お前のエナジーを分けてもらうでトス」
「ああ、そうでしたね。まあ、これは私というより、タイガーマンが集めたエナジーですが・・・受肉するので、もっと顔を寄せてください」
ニマの顔に、自身顔を近づけるウェヤー。しかし、その距離が数センチというところで止まった。
「・・・やっぱいらないでトス」
「・・・え?」
「た、タイガーマンの集めたエナジーなど、不純で受肉してほしくないでトス!」
「ちょ、ちょっとウェヤー卿!・・・って行っちゃった・・・」
走り去るウェヤーを見て、ニマはまた笑った。
(優しすぎるのはあなたですよ・・・ウェヤー・・・)
疾風のごとく駆けるウェヤー卿。その顔は真っ赤であった。
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