龍虎相搏 (2)
水面に立つ俺と目が合うと、黒龍の頭が目の前まで降りてきた。
「イマサラ、オソイ。モウ、チキュウハ、オワリダ。マモルモノ、ナイ」
「ああ。俺もそう思って諦めていた。でも、違ったんだ」
「ナニガチガウ?マワリヲ、ミロ。スベテミズノソコ。・・・イキルモノ、ナシ」
「それでも、俺は助けを求められている」
黒龍は鼻で笑った。
「フン、ゲンチョウヲ、シンジルトハナ」
「幻聴な訳がない。お前だって聞こえるはずだよ。この雨と、この風から」
「オレニハ、ナニモキコエテイナイ」
「そうか・・・聞こうとしていないのだけだと思うけどな」
俺は、自分の天使の輪を撫でた。
「サ・タよ。勝負だ。・・・本気の」
「アア・・・イイゾ。ツキアッテヤロウ。ドウセ、ケッカハオナジ」
「そうかな・・・フュージョン!!!白虎!!!!」
そう叫んだ瞬間だった。
俺の周りを、風が渦巻いた。全身の毛が抜け落ち、また新しいけが生えてきた。真っ白い、純白の毛が。
「まだ俺にもこんなことが出来るなんて、思ってもみなかったけどな」
「ソレガ、カミノ、チカラ・・・オマエモ、タミカラ、ウバッタノダナ・・・」
「お前とは違う。与えられたんだ。お前を倒してほしいと」
「ナン・・・ト・・・」
「まあいいさ。ここからが本番だ」
「グヌヌヌヌ・・・グオオオオオオオオオオオ!!!!」
黒龍はその体をうねらせ、尻尾で俺の体を押しつぶそうとした。
しかし、俺はその攻撃を食らわない。
急な突風が黒龍の巨大な尾をはじき返すのであった。
「カゼヲミカタニ・・・ソウカ、チキュウジンメガ・・・ナラバ・・・クラエエエエエエエ!!!!」
黒龍の真っ赤な口が、俺の元へと向かってきた。
しかし、その口を殴るように、突如大きな水の波がヤツの頬に打ち付けられるのだった。
「ソンナ・・・ワガ、ホシノヤツラニ、ウラギラレタトイウノカ・・・」
風が、黒龍の動きを抑える。そして、水が大きな波となり、黒龍を飲み込む。黒龍の体の大半が、その圧倒的な力によって水中へと引きずり込まれていく。
「どうだ、サ・タ?今なら聞こえるか?」
「オレニハ、ナニモ・・・」
「耳を塞ごうとしたって無駄だよ」
「ウルサイイイいいい!!!!!」
その刹那、黒龍の体が爆発を伴って分解された。
黒龍だけでない、地上を埋め尽くした水と、地球を覆い尽くすほどの暗雲が一瞬のうちに消えた。
※※※※※
「ウ、う、う」
地上に残ったのは点々とした小さな水たまり。
そこに叩きつけたれるように落下したサ・タであったが、震えながらゆっくりと立ち上がった。
「まだ、俺は・・・負けてない。私は・・・セア星の創造主であり・・・この世界の神になるものだからだ・・・。さあ、今こそお前たちの力が必要だ・・・そこにいるんだろう?ウェヤー、ツァラー、妬圃祁・・・」
サ・タが足元に点々と出来ている水たまりに目を向ける。
「今更『最期の審判』などとは言っていられない。お前たちと、全卿団員を含めて、セア星に生きる者を全てエナジーに還せ!!!!!」
「・・・・」
「おい、お前たち、聞こえていないのか?・・・妬圃祁!!!!」
「・・・はい、聞こえております」
水たまりの中の一つから、妬圃家卿が形作られた。
「俺の声が聞こえているのならば、命令に従え!!!!」
「それは・・・もう、できません」
サ・タはその答えに一度憤りの表情を示したが、一呼吸を置いて声を落ち着かせた。
「分かった。話しを聞こう。聡明なお前が、そのような愚頓な思考に至った訳を」
「・・・知ってしまったからです。この世の真理を。あなたの嘘を」
「嘘・・・?いつ俺が嘘をついた!!!」
サ・タは思いっきり地面を踏みつけた。
妬圃祁卿は驚く様子もなく、淡々と話し始めた。
「・・・まず、あなたは全知全能の神といったものではありませんでした」
「何を言う!!!俺はセア星の創造主であり・・・」
「私だって、あなたを信じたかったのです。しかし、分かってしまったのです。あの、声が・・・」
「・・・声だと?」
「ええ、そうです。水中で聞こえてくる声がありました。『卿』になる前の私を知る声が。それは初めて聞いた声なのに、すごく懐かしかったのです。今までに何度も会ったことがあるかのような。だから、失礼を承知で聞いたのです。声の主が誰なのかを。・・・名前を。そう・・・その名前は・・・私が付けた、友達の名前で・・・」
妬圃家卿は、ボロボロと涙を流した。
「あなたのいう下等生物にも感情が、知性があったのです。・・・言葉が通じないだけだったのです。寡黙な彼らは嘆いていました。自らの運命を。下等生物としてひとくくりにされ、セア人から蔑まれ生きる境遇を。そして・・・こんな愚かな私に、感謝しておりました。対等に接し、名前を付けたことを・・・」
サ・タはその姿を見て鼻で笑った。
「なんだ・・・それだけか。言っておくが、俺だって分かっていたぞ。下等生物に多少の知性があることくらい」
妬圃祁卿は、握った拳を震わせながらも、静かにサ・タを睨みつけた。
「そうですか、そうだったのですか・・・その事実を知っていて、あなたは彼らを無駄だといったのですか・・・そうですか・・・」
妬圃祁卿は、サ・タに背を向けた。
「そんなことより、良いのか?命令に背けば、お前が望む悩みのない世界は実現しないぞ。お前や、お前の卿団員は悩みから解き放たれたかったのだろう???」
妬圃家卿は遠くを見つめ、軽くため息をついた。
「そんなことは、もういいのです。
私自身が、とても自己中心的な人間だということに、今になって気づくことができました。望んでいたのは、『自分の』悩みがない世界でした。今の私には、世界を変えたいほどの悩みなんて、全くありません。それに・・・今の私には、悩むことも、なんだか悪くない気がするのです」
そう言い残し、妬圃祁卿は再び水たまりに戻っていった。
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