??卿の襲来(4)~儀式~
会社を飛び出したはいいものの、その周りには広大な畑が広がっているだけで、お店の一つもない。
「この辺って本当に何もないんですね」
ニマが普通の人間みたいなことを言っていて少し面白かった。
「駅前とか言ってみる?喫茶店のひとつやふたつはあると思うけど」
「タイガーマンは、その喫茶店に入ったことがあるのですか?」
「そういうお洒落なお店には、ちょっと・・・」
「では、どこか座って話せるお店に入ったことは?」
「・・・ファミレスなら」
「では目をつぶって、そのファミレスに行った記憶を思いだして下さい」
「え、最後に行ったのは・・・」
最後に行ったのは、大学生の頃だった。ファミレスに入り浸って卒論を書いていた時のことを思い出す。
「もういいですよ。タイガーマン」
「え、これでいいの?」
目を開けると、そこはよく行っていたファミレス。それも、よく座っていた窓際のテーブルだ。
「ニマは何でも出来るんだね」
「エナジーを通じて、あなたの記憶の再現をしているだけです。ところで、戦闘中にもかかわらずこのような場を設けたのは・・・最後に、わかれの儀式を行いたかったからです」
ニマは、テーブルに乗せた俺の手を取った。夢ではありえないぬくもりが、両手を包み込んだ。
「これからあなたは、格が違うと感じるような敵と戦うことになるでしょう。しかし、その時は臆せず、仲間を、自分を信じてください。すでに、あなたには私を倒すほどの力があります」
「いや、まだ戦いは終わってないし・・・何なら、俺の攻撃は一発もニマには・・・」
ニマはゆっくりと首を振った。
「私は、防御してエナジーを反射させることで精一杯でした。もう少しまともに戦えると思ったのですが、想像以上にあなたは強い神依獣に・・・いえ、英雄になっていました。それに、あなたのお仲間の攻撃でとどめを刺されたのも同然です。・・・私は相当なエナジーを消費してしまいました」
「そうだよ、あの時・・・」
あの瞬間、ニマは確かにバリアを張っていた。俺の攻撃を防御する際に張ったバリアと同じものを。
「あの時、ニマはバリアを張っていたのに・・・どうして俺のパンチは防げて、ミサイルなんかはまともに食らったんだよ」
「それは、あなた方が暮らす地球の・・・創造主だからです」
ニマは握っていた俺の手を放し、頭をなでた。
すると、その頭上に天使の輪のようなものが現れた。
「これが私の本来の姿です。地球を創造した存在であるからこそ、地球人の攻撃に耐えられませんでした。・・・私を倒すという、その意思によって」
「!?!?!?!?」
情報の整理が追い付かない。もう頭の中がぐちゃだ。
「ちょ、ちょっと待って。頭の中を整理させてくれよ、ニマ。セア星から来た刺客っていうのも、仮初の姿だったってこと?」
「そうです。真名を、ミ・カと申します。訳あって、セア人ニマとして生きていました。いつの間にかこのような事態にまで発展してしまいましたが・・・」
ニマは軽くため息をついた。
「地球に存在する媒体に、私の過去やそれにまつわる詳しい情報は詰め込みました。サ・タに見つからず、あなたのもとに届けばの話ですが・・・多分、大丈夫でしょう。ですから・・・あとは儀式」
「儀式?」
「そのために、直接お会いしたかったのです。まず、あなたの中にある、私由来のエナジーを全てなくし、ミ・カとタイガーマンとを分離させます」
「そうすると・・・どうなるの?」
「私とあなたとのエナジーのつながりはなくなります。そうすることで、あなたは完全なタイガーマンとして存在できます。エナジーを通じたテレパシーや、こうして記憶の中で会うことはできなくなってしまいますが・・・」
「そんな・・・今までと同じように過ごすわけにはいかないのかよ?」
ニマは・・・いや、ミ・カは、俺の顔を両手で優しく包みこんだ。
「本当に・・・残念です。しかし、あなたの中にある私のエナジーを消し去り、ひとりの完全なタイガーマンとして覚醒しなくてはなりません。そして、地球を守ってください。本当に戦わないといけない敵は、ウェヤー卿でも、ツァラー卿でも、トーケ卿でもありません。自身を神と称し、自己中心的な世界を構築して支配する独裁者――サ・タですから。
彼はしびれを切らして、地球にやってくると思われます。その時のために。それが、この儀式です。
現実に戻ったら私のエナジーをゼロにしてください」
「え!?それってつまり・・・」
ミ・カの目の色が変わった。
「最後まで、どうか私のエゴを許してください」
「そうじゃなくて、エナジーが無くなったら・・・」
「時間がありません、行きますよ」
ミ・カは強引に俺の顔をぐっと引き寄せた。
そして、ふわっとした感覚が、唇に・・・。
(まさか、口づけ!?!?!?)
エナジーが吸い取られるのは、痛くない血液検査みたいな感覚だった。頭が軽くぼうっとする。
ぼうっとしたまま・・・目の前の景色がぼやけて・・・。
読んでいただき、ありがとうございました。