??卿の襲来(3)
対神依獣用短距離弾道ミサイル――加具土命
日本神話に登場する神から取られた、その名の通りに、神依獣を倒すために開発された武器である。
「永続的な炎で焼き尽くすその力・・・試作段階ではあるが、今はこれにかける他ない」
「指揮官。加具土命発射の準備が整いました!」
「分かった・・・ミサイル、発射」
「発射あああああ!!!」
戦闘員によって、ボタンが押された。放物線を描きながら、神依獣の元へ・・・。
「ミサイル着弾まで、5,4,3,2,1・・・着弾!」
神依獣が真っ赤な炎に包まれた。
「指揮官!標的に命中しました」
その場にいる全員がモニターに釘付けだった。
もくもくと囲む煙がだんだんと薄くなってき、徐々に神依獣のシルエットが映し出されていった――ボロボロになって、四つん這いになっているニマの姿が。
「こちらは科学班。ただいまの攻撃、効果は絶大だったと思われます。神依獣のエナジーは大幅に減少しています」
その報告に、天羽野も珍しく興奮した様子で、イスから立ち上がった。
「やった!!!早く、タイガーマンに報告を!しかし、なぜタイガーマンの攻撃は跳ね返すことが出来たのに、我々のミサイルがこれほどの大ダメージを・・・」
天羽野は再び腰を下ろすと、その理由をひとり、考えていた。
※※※※※
「タイガーマン!今がチャンスです!神依獣が弱っています!」
神特対からの無線が入ったが、俺の頭に残ることは無く、そのまま反対側へと通り抜けていった。
「タイガーマン、聞こえていますか?タイガーマン?」
「ああ、すいません。聞こえています。ちょっと、考え事をしていて・・・」
さっきの光景を目に浮かべる。
ニマは確かに「バリア」を張っているようだった。なのに、ミサイルは意図も簡単にバリアを突き破りニマに直撃していたのだ。
「タイガーマン!今がチャンスです!」
「・・・ああ、分かった」
神依獣を倒すのが俺の役割。拍子抜けだし、謎が頭の中を駆けずり回っているが、まずは自分の使命を果たさなくてはならない。
「タイガああああああ・・・・・あ・・・?」
「どうしました?」
「力が入らない・・・」
今までに感じたことのない脱力感。エナジーが集まらないのだ。
手を強く握ろうとしても、思うように力が入らない。てか、立っていることもなんかつらい・・・。
頭がくらくらしたと思ったら、次に感じたのは土の香り。
俺はどさりとその場に倒れて、気絶してしまった。
※※※※※
「どうしてタイガーマンは攻撃しないのだ?」
神特対の誰かが呟いた。それは、その場にいる全員が思っていることだった。
「攻撃しないというより、できないのだと思われます」
科学班からだ。
「神依獣のエナジーが激減したのは先ほどお伝えしましたが・・・それと同じくらいタイガーマンのエナジーも減少しているのです」
「タイガーマンにも先ほどのミサイルが命中した・・・と?」
「その可能性は低いです。ミサイル着弾時はタイガーマンのエナジーは変わらなかったのですが、今になって・・・」
「もしかすると・・・」
天羽野が、静かに口を開いた。
「もしかすると、エナジーを共有しているんじゃないのか。タイガーマンと、この神依獣は・・・」
科学班はハッとして過去のデータをあさった。
「・・・あり得ます。前にタイガーマンが言っていましたから。ニマという異星人からエナジーをもらったと。つまり、タイガーマンとこの神依獣とではエナジーが平衡移動していてもおかしくありません」
「指揮官、タイガーマンが攻撃できないなら、俺たちがもう一発喰らわせれば!」
戦闘班のひとりが立ち上がる。
天羽野は首を横に振った。
「意味が分かっていないようだね。私たちが攻撃をすれば神依獣を倒せるかもしれない。しかし、それはつまり・・・」
戦闘班もその意味をようやく理解したようだった。
「いい話とは言えないが、とりあえずタイガーマンに報告しよう・・・ところで、タイガーマンは?」
「それが・・・エナジー反応はあるのですが、応答が全くなくて・・・」
全員がモニターに着目する。そこには気絶したタイガーマンと、その近くに寄り添うように倒れている神依獣の姿が映し出されていた。
※※※※※
「おい、虎太郎。仕事中に寝てるんじゃねーよ」
誰かに頭を叩かれた。
「す、すいません」
「とりあえずコレ、捨ててこいよ」
目が覚めると、そこは職場だった。僕を叩いた男こそ、いつも僕をゴミ捨てに使う憎き先輩である。その手にはパンパンに詰まったゴミ袋を4つ持ち、いつも通り、僕にゴミ捨てに行かせようとしていた。
「お前さ、言われなくてもこれくらい動けよ?大卒だろ?」
でも、おかしい。俺は会社をやめたはずだ。
そうだ、タイガーマンになったんだ。
それで、確か今はニマと戦っていて・・・。
「おい、聞いてんのか?早く行ってこいってーの!」
「先輩、すいません、その・・・後でもいいですか?今はそれどころじゃなくて」
「それどころじゃない!?ここで寝ていたじゃねーかよ」
「説明しても多分分かってもらえないと思うんですけど・・・僕は虎太郎ではなくて、今はタイガーマンになりまして、それで、地球を守るために神依獣と戦っている最中でして・・・」
先輩は説明が終わる前に、ゴミを床に叩きつけた。
「今の今まで寝ていたやつが何言ってんだよ!お前の寝言に付き合ってるほど、こっちはひまじゃねーんだよ!!!」
「すいません・・・でも、夢じゃないですよ」
「口答えしてねーでさ、ゴミ捨て行って来いよ!」
「おい!虎太郎にかまっている時間があったら、こっちを手伝えよ!!!」
奥から、先輩が作業場の誰かに呼ばれた。
「はーい!すんませーん!
チッ。お前のせーで怒られちまったじゃねーかよ。ほんと、じゃましかしねーんだから・・・」
先輩はブツクサと文句を言いながら作業場へと向かっていった。
「本当のことなのになあ・・・」
しかし、どうしたらこの夢が覚めるかは分からない。
「とりあえず・・・このゴミ、捨ててくるか」
僕以外にごみ捨てに行く人はいない。いつもひとりで、一日に何回もごみ捨てに行かされる毎日だった。
この作業こそ、なんともいえぬ孤独感に包まれるのだった。
「ごみ捨て一緒に行きますよ」
振り向くと、作業服を着た女性がいた。
これが夢であることを確信する。一緒にゴミ捨てを手伝ってくれる人がいるはずなんてないのだから。それも女性で。
「いえ、大丈夫ですよ。お気遣い、ありがとうございます」
「そんなこといわないで。手伝わせてくださいよ。これは夢なのですから・・・タイガーマン」
「え。今あなた、俺のことをタイガーマンって・・・」
もう一度顔を見た。・・・普通の女性だ。今までに会ったことのない顔だけど。
「お疲れ様です。タイガーマン」
「なぜ、あなたは俺がタイガーマンであることを知っているのですか?」
女性は笑った。
「それは私がニマだからです」
「えええええええええええええええええ!!!!!」
そんなはずはない。だって、声は違うし、顔も違う。
「まあ、これは夢ですから」
「いや、でもまてよ、ニマ。いや、ニマ卿。今は戦っている最中だったよな?」
「そうですね。戦っている最中でした」
「夢の中でゆっくり話している余裕なんて・・・」
「まあ、そうですね。でも、こうしてでも、あなたと最後に話がしたくて」
「最後ってどういうことだよ!」
「長くなりますので・・・ここじゃなんですし、どこか行きません?」
「分かったよ。とりあえず、このゴミを捨ててきたら・・・」
ニマはゴミ袋を持とうとする俺の手を握った。
「これは夢・・・というか、あなたの中にある記憶の再現ですから、大丈夫ですよ。それより、早く行きましょう」
ニマは、強引に俺を引っ張って、会社の外へと連れ去っていった。
読んでいただき、ありがとうございました!