??卿の襲来
施設のサイレンが神依獣の到来を示す。
「タイガーマン、高エナジー反応です」
今では当たり前になってしまったこの光景。落ち着いて、支度に取り掛かる。
「分かりました。どこに向かえばいいのでしょうか?」
「それが・・・説明しづらいのですが、あなたが以前に勤めていた会社の近くです」
「・・・分かりました」
元勤務先の近くに神依獣が出現するなんて・・・。
偶然とはいえ、どこか引っかかるような気がした。
「タイガーマン、今回は一筋縄ではいかないと思われます。神依獣のエナジーは今までに観測されたことのないほど大きいです。・・・今のあなたと、同格かと」
度重なる戦いを経て、俺のエナジーはかなりのものになっていた。
俺をタイガーマンにした異星人――ニマの言う通り、エナジーは他者の心の中にある存在によって得られるようだった。世界が俺の存在を知り、日本国民が、いや、今では地球人が俺を応援してくれている。相手は、それと同等のエナジーの持ち主らしい。
緊張が高まっていった。いったい、誰が神依獣になって来たのだろう。ウェヤーか、ツァラーか、妬圃祁か。そんなことを考えながら、俺は現地へと向かっていった。
※※※※※
そこは、とても懐かしい場所だった。
大きな工場が一つあって、その周りは広大な畑が広がっている。
俺はその畑の中を通る大きな道路を使って通勤していた。残業後に夜空を見ながら帰宅していた。・・・あの時まで。
神依獣は懐かしいこの道路の・・・ソノ場所にいた。
「お前は、誰だ」
「・・・・」
「なんで俺と似たような姿をしているんだ」
「・・・・」
俺の問いに応えず、神依獣はずっと俯いていた。俺と似たような・・・というか、ほぼほぼ同じその姿――真っ白な白衣を着ているのと、女性らしいすらっとした体系をしている特徴こそ違うが、頭が虎なのだ。俺と同じで、頭が虎なのだ。
「タイガーマン・・・目の前にいる、あなたと似た神依獣――誰が融合した姿か分かります?」
神特対も、現実が受け入れられない様子だった。
「・・・分からない。おそらく、初めて会う異星人だとは思うけど」
「分かりました。何か分かりましたら情報をお願いします。こちらが分かることは、今回の神依獣は外見があなたそっくりということです」
そんなのは、言われなくても分かっている。だからこそ、それが誰なのかが俺も気になって仕方がなかった。
「この場所を覚えていますか?」
じっと見ていると、神依獣は突然こちらを向いて語りだした。その声は外見に合わず、青年のような爽やかなものだった。
「何の変哲もない、ふつうの帰り道だった場所です」
「まずは俺の質問に答えろよ。お前は誰なんだ?ウェヤーや、ツァラーや、妬圃祁と同じ・・・お前も地球を侵略しに来た異星人なんだろ?」
「そうですね・・・今は」
「・・・今は?」
「その様子だと、まだ分からなようですね。私が誰なのか・・・」
まさか、と嫌な予感がした。その声が、とても馴染みのあるものであるとは感じていたが、そうだとは信じたくなかった。
「これなら、どうです?」
神依獣が融合を解いたその姿――それは、そいつは、そのまさかだった。
「え・・・・・・・・」
「タイガーマン、どうしたのですか?顔が分かりましたか?知っているのですか、その異星人を?」
「知っているも、何も・・・」
本当に驚くと、声がほとんど出ないということを実感する。
そいつは俺の驚く姿をみて、満足そうな表情を浮かべながら自己紹介を始めた。
「わが名は――ニマ。
サ・タの命令に従い、セア星より地球人の心を奪いに参りました。融合!!!!タイガーマン!!!」
再び顔が虎になった。他の神依獣と比べてその姿に大きな変化はないが・・・でも、それは神依獣だった。
「タイガーマン、この異星人が誰だか分かったのですか?」
「ああ。ニマだ」
「ニマって・・・」
「そう。前に説明しただろ?俺にこの力を与えてくれた異星人だよ」
「そんな・・・信じられない・・・」
そうだ。俺だって全く目の前の状況が信じられない。
なぜ、ニマが目の前にいるのかが、それも神依獣に変身して地球にやってきているのかが。
「久しぶりの対面ですね、タイガーマン」
ニマは落ち着いた様子で話している。
「・・・嘘だろ」
「まだ信じられないようですね。・・・しかし、あなたが目にしているものが全てです」
信じられないというより、信じたくなかった。
「現実逃避」という言葉を今までに何回も使ってきたが、これほど現実逃避したい瞬間は無いだろう。
「俺に隠していたのか?お前もセア星の侵略者のひとりだったってことを」
「・・・意図的に隠すつもりはありませんでしたが、あなたに話す前にこの時が来てしまいました」
「そんなはずはない。今までに説明する時間なんかいくらでもあったはずだ。・・・なのに、どうして!」
「・・・・・・」
ニマは答えてくれなかった。黙って、俺の目を見つめるだけだ。
「タイガーマン、どうします?」
「・・・どうするって?」
「非常事態宣言の発令及び、近隣住民への避難が完了し・・・戦闘の準備が完了しました」
「戦うってのか?」
「こちらから仕掛けるかはあなた次第です。ただ、どこかでそうせざるを得ないかと・・・」
相手はセア星からやってきた異星人の幹部。神依獣だ。
戦って倒さなければいけないのは分かっている。でも瀕死の俺を救い、存在の意味を与えてくれた恩人でもある――俺は、どうすれば・・・。
「あなたは誰なのですか?」
ニマが突然、珍しく怒鳴るような大きな声で聞いて来た。
「私は名乗りましたよ。・・・もしかして、そのエナジーを使った融合からして・・・存じ上げませんでしたが、あなたも私と同じ、セア星の『卿』の一角なのですか?」
なんでこんな時にふざけたことを聞くのだろうと思ったが・・・やはりニマと俺はエナジーでつながっているのに違いない。
「違う!!!俺はセア人でも、あんたらが心を奪おうとしている地球人でもない!」
「では、誰なんです??」
「俺は・・・」
そう、ニマには俺の心が分かるのだ。だから、今の葛藤だって・・・。
「俺は!お前らセア星の侵略者から地球人を守る英雄、タイガーマンだああああ!!!」
ニマが、微笑んだ。
「そうですか・・・それでは、戦うしかありませんね」
「ああ。・・・なあ、ニマ」
「どうしました?」
「本気で行くよ!」
絶対に負けない。負けるわけには、いかない。
読んでいただき、ありがとうございました!