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妬圃祁卿の過去

タイガーマン誕生より、ずっと前の話です。

親父とお袋の頭の中は(サ・タ)様でいっぱいだった。


「ねーえー!お父さん!お外で遊ぼうよ~」

「あっちにいってなさい。お父さんは神拝で忙しいのだから」

「ねーえー!お母さーん!」

「わがまま言わないの、妬圃祁(トーケ)。お外に行きたいなら、一人で行きなさい」


本当は外に行きたいわけじゃない。ただ、僕と目を合わせてほしかった。ただ、会話がしたかった。それだけなのに。でも、ふたりにはそんな僕の幼心を理解する余裕が無かったのだ。


そんな時、僕はひとりで外に出かけた。

僕の家の周りは林になっていて、そこにはたくさんの多種多様な生き物がいる。歩き回りながら新しい生き物を見つけるのが楽しくて、いつの間にかそれが日課になっていた。


「君はあの子と似ているけど、色が違うね。君は空を飛べるのは一緒だけど、あの子とは違って速いなあ」


みんな僕より体が小さい。でも、みんなお日様の元でキラキラとたくましく、元気に生きている。僕の、大切な仲間だ。


「ねえ、僕はトーケっていうんだけど、君の名前は?・・・って言葉が通じないか。君はどうかな?・・・ってこの子もダメかあ」


残念ながら、言葉の通じる仲間はどこにもいなかった。


「毎日一緒にいるのに、君たちの名前すら分からないなんて・・・そうだ、お父さんとお母さんに聞いてみよう!」


幼いながらに行動するのは早かった。神拝する両親を強引に引っ張ってきて、その名前を聞いてみた。


「お父さん、この生き物の名前って分かる?」

「ああ・・・下等生物だな」

「かとうせいぶつ・・・こっちの生き物は?」

「これも下等生物だな・・・」

「色も形も全く違うのに、同じ名前なの?それって変じゃない?お父さんとお母さんと僕はほとんど同じ形をした生き物なのに、別の名前があるよね」


お父さんは困った様子でお母さんの顔を見た。


「それは、私達が高等生物だからよ」

「というか、そもそもカトウとか、コウトウとかって何?」


お母さんは面倒くさそうにため息をついた。


「いーい?妬圃祁(トーケ)。それはもっと大きくなったら、学校で教わるの。だから、今はエナジーにならないことなんかやめて、一緒に神拝するのよ」

「・・・はーい」


それからというもの、強制的に神拝させられる日々が続いた。僕はといえば神様なんかには全く興味がなく、それよりも早く大きくなりたかった。大きくなって、もっと周りの生き物を知りたかったのだ。


※※※※※


学校に行く年齢になり、いよいよ幼い頃に分からなかったことを知る機会に恵まれた。


先生から教わったのは、世の中には二通りの生き物がいるということ。

まずは、高等生物。他者を認識し、心を持つ生き物を指すという。そして、下等生物。他者の認識が出来ず、また、心を持たない生き物を指すらしい。

高等生物と下等生物の違いは分かった。でも、それ以外の区別は教えてくれなかった。


「先生。今日学んだことで、聞きたいことがあるのですが」

「なんだい、妬圃祁(トーケ)。先生の知っていることなら、何でも教えてあげるよ」

「あの・・・これらの下等生物の名前を教えてください」


僕は、収集してきた家の周りの生き物を先生に見せた。先生は目をまん丸にしていた。


「これはすごいな。様々な下等生物だね」

「はい。色や形が異なる下等生物を捕まえてきました。それで・・・知りたいのはそれぞれの名前なのです」

「名前?下等生物って名前があるではないか」

「そうではなくて・・・僕には妬圃祁(トーケ)という名前があります。ここにいる下等生物にも、それぞれ名前があるのではないかと思いまして」


先生は難しい顔をした。


「・・・ない」

「無いって・・・そんなことあります?こんなに見た目が違うのに・・・」

「名前がある必要がないんだよ。・・・だって、下等生物だから」


なんだか、悲しい気持ちになった。名前すら必要とされない、この下等生物たちのことを考えると。


「そんなに下等生物らに興味があるなら・・・君が調べたらどうだね。エナジーの足しにすらならないけどな」


その言い方。その表情。

先生の姿が、自分の親と重なった。


※※※※※


学校に来て分かったことが他にもあった。我々セア人のほとんどは、エナジー獲得のために生きているということだ。

年齢を重ねれば、いつかその考えを理解できると思ったが、結局分からなかった。たしかにエナジーがあれば自己実現ができる。エナジーを得れば、苦しみや悩みから解放される。でも、同時にエナジーを得るために苦しみ悩んでいるのだから。

エナジーにとらわれた生き方はしたくないとはっきりと思ったのは、成人になってからだった。

親の反対を押し切ってひとり山に籠った。そして、下等生物としか称されない生き物たちに、自分が名前をつけ、その生き物たちの研究を始めた。


しかし、分からないことばかり。考えれば考えるほど分からない。

幼い頃に感じた純粋なワクワク感はいつの間にか剥がれ落ちていた。調べれば調べるほど、新しい事実を知り、何が正しいのかが分からなくなっていく。モヤモヤが、ずっと自分を取り巻く。


ちょうどそんな時だった。(サ・タ)様からの啓示が届いたのは。

「卿」になんかなれなくてもいい。

この世界を創った(サ・タ)様に聞きたかった。何が正しいのかを知りたかった。

自分が、悩みから解放されたかった。

読んでいただき、ありがとうございました。

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