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臨界戦線  作者: 中邑優駿
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3.東京ガガガガ(2)

 正月休みも明けて、ようやくフリースクールに生徒達が戻ってきた。

 どんどん世界は変わっているのに、まるで感知していないかの様に。

 その中にはロック達が待ち望んでいた仲間も含まれていた、その名はテクノ。

 コンピューターに育てられた様な少年、同じ様に18歳である。


 テクノは、とにかく情報オタクであり分析マニアでもあった。

 この年始から突然始まった世界の動乱について、その意見を求められるのも当然。

 四人はロックとジャジーの二人部屋に入り、そして雑談の様な会議を始めた。


「テクノは、この状況を分析出来た?」


「最初は大国がバックに付いての陰謀論だと思ってたけど、どうやら違うようですね。

 不思議で不自然な事柄が多過ぎて、まだ明確な結論は得られてはいないんだけれども…。」


「AI黒幕説がオレ達の結論なんだけどさ…、どう思う?」


「黒幕になれる様なマザー・コンピューターは存在していないんですよね、それでも…。

 データ上では一つの国が黒幕だというのにも無理が在るんですよ。」


「それはジャジーも言っていたんだけど、とても不確定な要素が多過ぎるんだよね。」


 テクノは持ってきたノート・パソコンを開いて、その画面を三人に見せる。

 そこには日本を中心に据えた見慣れた世界地図の上に、あるマーキングがされていた。

 マーキングは地球上に拡がっている、まるで法則性も方向性も見えないランダムさであった。


「これはね、まだ小競り合いが続いている地域。

 どこも隣り合っているから国境周辺だけで戦闘が行われている、この傾向は地球規模。」


 次にボタンを押すと違った色彩のマーキングが浮かび上がる、その数は膨大であった。


「この色は長距離攻撃を仕掛けて自滅した地域、全てデジタル計器の異常によるものだよね。」


「最初はサイバー・テロだと思われていた事でしょ、どうなの本当の所は…?」


「在り得ないでしょうね、ちょっと考えれば分かる事ではあるんだけれども。」


「じゃあ誰が何の為に、こんな混乱を企てたんだろ?」


「ボクは尋ねてみたんですよ…アレクサやシリに、そしてハック出来た全てのコンピューターに。」


 そのテクノの発言にロック達三人は顔を見合わせて驚いた、そして視線を向ける。

 テクノは、また別の画面を開いて彼等に見える様にした。

 そこには三つのアルファベットだけが浮かび上がっていた、それはDとOとGである。


「DOG…何の略なんだろ、まさか犬じゃないよね?」


「ボクは勝手に逆神って名付けています、だってGODを逆さまにしてるじゃないですか。」


「犬派のオレとしては、とっても嫌だな…。」


 いつでもパンクは何かに怒っている様に見える、その理由を探しているかの様に。

 テクノは静かに微笑みながら、より静かに話を続けていく。


「もちろんソフトによるのは確かだから、これは英語圏だけにしか通用しないですよね。

 …だから取り敢えず黒幕は英語圏で活動していると思われるんですよ。」


「そうか…コンピューターだって所詮、人間の言語で物事を認識しているんですもんね。」


「でもこれは人間に対しての返事だからね、また彼等同士なら0と1で会話するんじゃないですか?

 敢えて我々なんかに正体を明かす必要なんか無いですよね、だから理由は他に在る筈です。」


「ゼロワンね…AIは0と1で思考してるのか、じゃあそれを提示する理由って何だろ?」


「ボクは分かる人達にだけ分かる様にした宣戦布告だと思っているんですけど。」


「AIの宣戦布告…。」


 その台詞を聞いた途端にロック達の背筋を冷たい何かが走り抜けていった。




 フリースクールでのカリキュラムを終えて、その夜も四人は一緒に食堂でテレビを見て過ごす。

 番組はニュースをハシゴして、いつもの様に雑談にしか見えない会議をしていた。


 そんな彼等に一人の少年が近付いていって話し掛けた、そんな事は初めての事である。

 その少年は同じく18歳、去年の夏から転入してきた大人しい雰囲気の子だった。


「あの…ボクも仲間に入れて貰いたいんです。」


「仲間…オレ達の?」


「はい、いつも近くで話を聞いていてボクも加わりたいと思っていたんです。」


 ロック達四人は顔を見合わせて笑った、その少年が真面目な表情で告げてきたからである。

 代表する様にジャジーが答えた。


「そりゃ構わないし歓迎するよ、だけど本名は御法度なのがボク達のルールだけどね。」


「知っていますジャジーさん、そしてロックさんとパンクさんとテクノさん。」


「さん付けは止めてくれないかな、そんで何と呼ばれたいのか教えてくれよ。」


「ボクはJーポップが好きなんですけど長いですかね?」


「ポップでイイんじゃない、それなら呼び易いしさ。」


 ポップか、そりゃ良いね。」


「嬉しいです、これから仲良くして下さい。」


 少年は顔をクシャクシャにほころばせて喜んでいた。




 彼等は色々な事情で、このフリースクールに集まってきている。

 費用さえ払われていれば、その理由には殆ど触れられる様なスクールではない。

 全寮制で成人で卒業となる、つまり今年の三月で皆バラバラになってしまうのだ。

 卒業を目前にしての、この世界の混乱について話し合える関係性が欲しかったのだろう。

 その夜から彼等は五人で活動する様になっていった、まるで旧知の間柄の様に。




 日本の周囲では緊張関係が続いている、その防衛ラインは日本海側を中心に展開された。

 五人のフリースクールは東京の北の外れにあり、その周辺は落ち着いている。

 彼等にとっての混乱は、まだニュース番組のテレビ画面の中だけの事でしかない。


 地球規模のニュースとなると局地的な戦闘のみ激化していて、その他の国は沈静化に向かっている。

 先進国は、この混乱が意図的なものだと気付いてきていて冷静になってきていた。


 日本は日本海側に最重要防衛拠点が多過ぎるのだ、それは原子力発電所である。

 大掛かりな攻撃ではなくても核爆弾クラスのダメージを与えられるのは確実だからだ。

 その原発の直ぐ海の向こうで国同士の小競り合いが続いているのは、とても危機的な状態である。


 五人の話題も、この状況の分析に殆ど時間を使っている。

 高校卒業資格などは、いとも簡単に取得してしまう頭脳を持っている少年達なのだ。

 一般的な高校生が話題にしている様な事柄なんて全く興味をそそられていないのである。

 まだ実感なんて持てないが戦争は戦争である、その映像の生々しさには衝撃を受けていた。


 どの国も状況が不自然なのは気付いているものの、もう止める事が難しくなっていく。

 全ての国が被害を受けていて、もう最初の原因が何かも特定出来なくなっている。


「ポップは、どう現在の状況を分析している?」


「黒幕がいるとすれば特定の国ではないでしょうね、とても不思議な感触を持っています。」


「そうだよね、もし黒幕がいるなら攻撃対象が多過ぎて制圧するのは不可能に近いでしょ。」


「そうなんですよ、それに無差別に攻撃するメリットが想像も出来ないし。」


 ポップの考えもロック達と殆ど同じである、それはおそらく当事者の国々も同様だろう。

 ポップが言ったメリットという言葉、四人は違った角度で考える事を余儀なくされていた。

 …メリット。


「ボクは特定のコンピューターからの遠隔プログラミングだと考えています。」


「プログラミング?コンピューターの?」


「もし人間の様に損得を考えるのであれば、こんなテロは計画しないと思うんですよね。」


 テクノが言葉を挟んできた、その発言にロック達四人は沈黙してしまう。

 その様子を見てテクノは再び話を続けた、ほんの少し表情は硬くなっている。


「そのプログラミングをしたのがコンピューター自身なんじゃないですかね。」


「シンギュラリティが起きて、そのAI自身が計画してプログラムしたって事?」


「AIならメリットは考えてはいないかも、ただ結論から計画を導き出しただけかもね…。」


 短い沈黙の後、五人は同時に同じ事を思い浮かべてしまったのである。

 この状況から導き出されるAIの結論は、もう人類の殆どは地球にとっては必要じゃないって事になる。

 AIによる人類の選別、全滅はさせない程度のコントロールの掌握。


 暫くの沈黙の後で、ふいにパンクが噛み締める様に言った。


「オレ達が世間からはじかれた様に、この地球から消そうって事だよね?」







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