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臨界戦線  作者: 中邑優駿
1/3

1.東京ガガガガ(1)

 それは年が明けるのを待っていたかの様に突如、火蓋が切って落とされた。




 最初は各国が独立した同時多発テロだとの認識で対応に当たっていた。

 だがそれは情報不足による誤りで、それ故に初動を間違えてしまったのである。


 それ迄に敵対関係にあった国を疑い、それ以外の可能性を見落としてしまったのだ。

 そしてその間違いこそ、この混乱を企てたの者の思う壺なのだった。


 最初は単なるサイバー攻撃との認識だった。

 あらゆるデジタル・フォーマットが混乱させられていく、それは政府及び軍事施設も同様に。

 各国の安全保障が突然に脅かされて、その脅威に疑心暗鬼になってしまったのだ。


 敵対国が地続きで、まさに国境を挟んで隣国同士だった地域から戦闘が始まってしまった。

 あらゆる長距離攻撃用の兵器がサイバー攻撃で使用不可能と化す。

 それで短距離戦闘、市街戦が始まってしまったのだった。

 それは名目上、互いの自国へのサイバー攻撃への報復応戦という形式でである。


 どの国も喧嘩は先手必勝だと勘違いしてしまい、それ故に戦闘は泥沼化していく。

 静観している国からは第三次世界大戦ではなく同時多発世界戦争と呼ばれていた。

 情報は交錯し、それが地球規模の混乱に拍車を掛けていく…。




 各国が放った長距離ミサイルは目標を見失い自国に落ちる始末。

 戦闘機の類も全て計器類の機能喪失により使用が不可能になっていた。

 ドローンですら飛行が出来なくなり、それ故に制空圏が制圧されてしまう。

 その現状に各国は戦慄し、その代行として地上部隊を展開させていく。

 地上戦と市街戦のみで戦闘が継続されていった。


 だが制空圏を制圧したのは闘っている同士の国の、そのどちらでもない。

 それが、この地球規模の戦争を仕掛けている首謀者なのであるが…。

 その存在にすら気付く事も無く、それぞれの仮想敵国と各国は戦闘を拡大させていく。


 ヨーロッパやアジアやアフリカは特に戦闘が激化していった。

 アメリカはメキシコと小規模の衝突を起こした程度で静観する立場にいた。


 EUはおろか国連さえも機能しなくなりつつあり、その存在すら忘れられかけていく。

 それは人類にとって有史が始まって以来、最大の危機なのは間違いない。




 …といったニュースが正月番組が終わって以降、頻繁に茶の間に流れる様になった。

 そのニュース番組を見終わって一人の少年が呟いた。


「これは、どの国が起こした戦争なんだろう?」


「どの国でもないよ、そうだよねロック。」


 ロックと呼ばれた少年は、また別の少年に聞き返した。


「シンギュラリティじゃないのかな、じゃないと説明が出来ないもんな。」


「そうだね、それが一番合理的に説明が付くからね。」


 ロックに話し掛けられた少年は初めに呟いた少年に告げる。


「戦争を起こしたのは国じゃないよパンク、…アレクサやシリなんじゃないかな。」


 パンクと呼ばれた少年は苦笑いを浮かべながら、もう一人の眼鏡を掛けた少年にいう。


「スマホのアプリが戦争を始めたって事なのジャジー?」


「そうだよねロック、アレクサやシリが戦争を起こしてるんだよね?」


「そうだな。」


 ロックは真顔で答えた、その表情で冗談ではないとパンクも感じた。


「シンギュラリティって何なの?」


 今度はパンクがロックに尋ねる、その表情も真面目に変わっている。


「技術的特異点ってヤツかな、…つまりAIが人間を追い越したって事だ。」


 ジャジーが補足してパンクに話し掛ける。


「パソコンとかの人工知能が人間の頭脳を超えてしまったって事なんだよ。」


「そうだとしても、どうして戦争なんか起こすんだい?」


 パンクは二人に尋ねた、どうしても聞いた内容と現実が結び付いていかないのだ。


「コンピューターが人類に対して最後の審判を下したって訳だ。」


「どう審判を下したの、そしてどうなるの?」


「AIが人類は滅ぼした方が良いと判断したんじゃないかな、ねぇジャジー?」


 ジャジーの眼鏡が灯りの反射で光り、その眼は見る事が出来なくなっている。


「そう、それで人類同士に戦争をする様に企んできたって訳。」




 彼等は三人とも18歳である、そしてフリースクールで共同生活をしていた。

 年末年始は殆どの生徒が実家に戻る、そして家族と一緒に新年を迎えるのだ。

 ところが彼等だけは実家に帰らずに、このフリースクールの寮で年末年始を過ごしている。

 帰らないというよりは帰れない、それぞれの複雑な事情で余儀なくされていた。


 彼等が暮らすフリースクールは大きな河川に挟まれた地域に在る。

 公園や自然が多く東京にも関わらず割とのどかな地域であった。

 片方の河川は埼玉県との県境でもあり、それ故に陸の孤島の感も醸し出している。


 彼等は通学していた高校で問題にぶつかり、このフリースクールに転校してきた。

 ここで独自に勉強して高校卒業の資格を取得するという名目である。


 もちろん彼等には本名が存在する、だが彼等同士ではニックネームで呼び合っている。

 それは音楽の嗜好から付けられたもので、それ以降は決して本名を使ったりはしない。

 彼等だけのルールであり、それが敵味方の区別を果たしてもいる。


 ロックにパンクにジャジー、ジャズではなくてジャジー。




 日本は四方を海に囲まれている島国である、この地の利が幸いして実質的な被害は出ていない。

 デジタル機器の信頼が揺らいでから、この国は鎖国に再び突入したかの様になっていく。

 国内では急ピッチに食料の自給率を上げようとしていく、だがそれは付け焼刃であった。


 日本は世界の比較的平和な地域と連携を取り、その他の戦乱地域の動向を静観している。

 海の直ぐ向こうでは動乱が続いている、その余波を受けずに自国の防衛網を高めていた。

 空は不安定過ぎて戦場にはならない、だから海上を固めていったのだ。


 幸い沖縄にはアメリカ軍が駐留していて、おいそれと他国は攻められない。

 日本は防衛力を北海道から日本海側に集中して展開させていった。

 だがそれは全くの見当違いだと後に分かる事となる。




 三人は大部屋のテレビの前で一日の大半を過ごす様になっていた。

 正月はフリースクールのカリキュラムは休止となっている、ほんの少し課題が出されただけ。

 彼等の知能は高校生の平均を軽く超えていた、そんな課題は朝飯前だったのだ。


 現在、地球規模で起こっている現実に彼等の思考回路がフル稼働し始めていた。

 自分達には何も出来ない事は分かっている、ただ現状を認識する事はムダではない。

 それを無意識的に自覚し始めていた、それは何かの予感を感じての事か…。




 パンクが呟いた、いつもの様に他の二人に聞かせるかの如く。


「俺達でも分かる事を、どうして色々な国が勘違いしちゃうんだろ?」


「既存システムを信頼し過ぎているのと情報が多過ぎるのと、どちらもだろうね。」


 ジャジーが眼鏡を上げながら答える、その眼は冷静そのもの。

 パンクは納得が出来ないのか、また質問を投げかける。


「でも、このままだと互いに自滅しあう事になるんじゃない?」


「もともと人間は自滅する様にプログラミングされている気もするけどな…。」


 ロックが苦笑いしながら強烈な答えを返す、それは二人に対してのもの。


「いや、そこまで人間は愚かじゃないだろうね。

 ある程度データが揃えば、この現実の綻びに気付くでしょう。」


「戦争は止まるって事?」


「お互いに情報が整理されれば、この争いが仕組まれたものだと分かってくる筈。」


 パンクの表情が少し明るくなってくる、その声にも明るさが増す。


「じゃあそんなに心配する事でもないのかな?」


 ロックが眼を閉じて、それから何かを嚙み砕く様に喋り出した。


「そのタイミングで人類にAIが戦争を仕掛けてくるんじゃないかな…。」


「でもコンピューターなら電源を切っちゃえば何も出来ないんじゃないの?」


「それは人類も同じ、もし電気が無くなれば文明の殆どは無力化するからね。」


 現在、衝突している地域でも原子力発電所は避けている。

 狭い地球上では、それが自殺行為と化してしまうからだ。


「問題なのはAIが何を選択するのかって事なんだよね…。」


「選択って…何の?」


 ジャジーも眼を閉じた、そしてロックの様にユックリと話す。


「AIが人類を滅ぼせば自分達も滅んでしまう、それは確実だろう。

 空だけを制圧したのは人類を滅亡させる気は無いからだと思うんだ。」


「じゃあ目的は何なのさ?」


 ロックが眼を見開いて言った。


「人間を服従させて奴隷の様に使いたいんじゃないのか…。」





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