表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/9

お気遣いありがとうございます

 案ずるより産むが易しとはよく言ったもので…


 私「ローラ」ことフローレンスは順調に、闘技場イベントの勝ち抜き戦を連勝していた。


「これは…もしかしなくても、私って強い方だったのね」

 初戦の相手に難なく勝利し、4勝したあたりで確信した。そこから、絶対10連勝するぞと気合を入れ直して挑み、7勝目を決めたところで闘技場に連れてこられた目的も理解した。


 そうか、私が決して弱くないという事を認識させて、自信をつけさせる為だったのね。

 

 そしてとうとう9勝目をあげて、一息ついて、武舞台の出入口を見れば控えているデイジー隊長が笑顔で拍手を送ってくれているのが見えた。デイジー隊長は初戦からセコンドのように出入口に控えてくれていて、試合の合間に、戦い方の良かったところや、更にこうすれば良くなるというアドバイスから、この闘技場の事について教えてくれた。



 初戦の棍棒の男の人は、同等のイベントで10連勝達成の常連だったらしい。力では敵わないと思い、相手の攻撃を避けたり流したりしつつ、スキを狙いながら相手のバランスを崩して、膝をつかせた。

 直後、審判が私の勝利を告げたとたん、会場内が戸惑いの空気に包まれた。それ以上に勝利した事に私自身がびっくりしていたのだけれど、そんな雰囲気と対照的な騎士隊のみなさんの歓声があまりにも激しくて恥ずかしくてすぐに武舞台から退散した。


 出入口付近に控えてくれていたデイジー隊長は、初めての勝利を一緒に喜んでくれた。

「デイジー隊長!今、私、勝ちましたよね?」

「ちょっ…ローラ!隊長呼びは今日は禁止ですよっ。でも、見事な勝利でした。特にここ数日の鍛錬の成果が出ましたね」

「そういえば、勝ち抜き戦なのよね?私、武舞台からいなくなってよかったのかしら?」

 驚きと恥ずかしさで思わず出てきてしまったが、武舞台から出た事で、棄権と思われてしまったら困る。慌ててデイジー隊長に聞けば、武舞台付近にいれば問題ないとの事だった。


 この闘技場は、市民を中心とした娯楽の場としてある、国営の闘技場で、なんと賭博も行われているらしい。そのため、今日みたいなルールのイベントは、賭けの受付時間が設けられるため、試合と試合の間に多少時間ができるのだとか。まさか、この世界にいわゆる公営競技場がある事に驚いた。また、自作攻略束のページが増えてしまうわ。のんきにそんな事を考えていたら、大柄の男性が声をかけてきた。

「お、デイジー、久しぶりだな。その子は知り合いか?初戦でいきなり注目を浴びたぞ」

「お久しぶりです。ネリネさん。この子は、私の遠縁の子で先日から王都に遊びにきているんです。騎士を目指して田舎で修行をしているのですが、せっかくだから闘技場を見せてあげようと連れてきたところに、ちょうどいいイベントをやっていたので、せっかくだから腕試しをさせてやろうと思ってエントリーしたら、見事に勝ってくれました。ローラ、こちらは、ネリネさん。この闘技場の支配人で、王国騎士団長を務めた方だ」

「おいおい、やめてくれ。王国騎士団長なんて昔の話だよ。今は、闘技場のネリネさんだ。お嬢ちゃん、よろしくな」

 おぉ、元とはいえ王国騎士団長…。王国騎士団長を務めたほどの人がセカンドキャリアが闘技場の支配人という事に驚いたけれど、国営の闘技場とはいえ、血気盛んな人間が集まる場所だから、支配人もそれなりに強くなければ運営が難しいのかもしれない。


「初めまして。ローラです」

 元気よく頭を下げてペコリとお辞儀をする。淑女教育でやったら絶対に怒られる礼だけれど、庶民の間では普通だろうし、何よりも前世では普通だったから、全く抵抗がない。デイジー隊長が若干驚いている感じもするけれど。ふふふ、これも演技ですよ。演技。


 お互いに挨拶をすませたところで、ネリネさんは、現在の闘技場の受付の様子を教えてくれた。

 なんと、初戦が終わった後、私と戦いたいと、参加料に追加料金を支払えば試合の順番が優先される制度を利用した参加者が出ているとの事。そのため、次の試合で私が勝った場合に得る賞金額も少し上乗せされるらしい。


 それを聞いた私が

「子供だから勝てそうと思われているのかしら」

と、ネリネさんにこぼせば

「そういう馬鹿もいるかもな。ただ、さっきの試合を見てお嬢ちゃんの強さに気づいて純粋に強い奴と戦いたいって思っている奴もいると思うぞ。ま、どちらにしろ今日のイベントはお嬢ちゃんのおかげでいつもより面白くなりそうだ」

 頑張って10連勝してくれよ。と、ネリネさんは言って闘技場の受付の方に向かって行った。


「そうね、今日の目標は10連勝だったわね。デイジーさん、私頑張ります」

ぐっと手を握ってデイジー隊長を見上げれば

「そうですね。油断なさらず、頑張ってくださいね」

と、笑って答えてくれた。


 そんなこんなで…無事に怪我もなく連勝し、9戦目を制すれば、観客の歓声が初戦の時の観客席の騎士達の歓声と同じくらいのテンションになっていて、面白いほど変化した闘技場の雰囲気に自分のテンションも少し上がっているのを実感する。


「あと1勝で目標達成だわ」

 何気なくつぶやいた言葉も観客の声援にかき消されていくのが、また面白い。


 そのまま、観客席で応援してくれている騎士達の方を見れば、手を振ってくれている。ふふふ。初戦の恥ずかしがっていた私とは違うわよ。と、笑みで返せば、更に一生懸命手をふってくれている騎士達が可笑しくて…って、何やら様子がおかしい。

 何が起こったのかと、少し近づくと、騎士達の中に私服のパキラ隊長がいる事に気が付いた。何か緊急事態が発生したのだろうか。思わず声をかけようと息を吸ったところで、パキラ隊長の隣にいた帽子を深くかぶった少年が、素早い動きで観客席から少し身を乗り出して、突然私に向かって大声で話しかけてきた。


「ローラっ!何も言わずに俺の言う事を聞いてくれ」

え、その声はジェイド兄様?あらやだ、言葉がちょっと乱暴なジェイド兄様も素敵だわ。と、そんな事を思っている場合ではなかった。とりあえず、黙って頷く。

「次の対戦相手は、思いっきり、遠慮なくやれ。ローラなら大丈夫だ。お前の勝利を俺は信じている」


 え?どういう事?もしかして、次の対戦相手を知っているの?と思って聞き返したかったけれど、下手な発言でお忍びが色々とバレてしまったらそれはそれでいけないと思い、とりあえず精一杯頷いて返した。

 もしかしたら、油断している気持ちになっていたのを気づかれて喝を入れてくれたのかもしれない。確かに、うっかり足を滑らせて頭を打ってしまう前科がある。自分が油断がないと思っていても、心のどこかで俺TUEEE状態で調子にのっているのをジェイド兄様は気づいたのかもしれない。さすがジェイド兄様。しかも、もしかしたら目立ってしまったら周囲にお忍びがバレてしまうかもしれないリスクを背負ってまで私にアドバイスをくれるなんて、なんて妹思いなのだろう。


 ジェイド兄様の為にも、絶対に10連勝しよう。

 目を瞑って深呼吸をして心を落ち着ける。武舞台の出入口で、デイジー隊長が、先ほどとは一転して心配そうな顔になってこちらを見ている。私は「大丈夫」という気持ちを込めてデイジー隊長に向かって頷いた。

 いつもなら「勝利するかどうかなんて、ケセラセラよ」と言ってしまう私も、今、この時だけは、絶対に勝ちたいという思いが一層強くなった。


 そうこうしている内に、次の対戦相手が入場してきた…のだが、せっかく落ち着けた心がとんでもなく落ち着かなくなった。

 目以外の場所を隠すように、いわゆる目出し帽をかぶっている。私と同い年くらいか、少し年上と思われる少年。同じくらいの歳の対戦相手は本日初めてというのもあったのだけれど、それよりも、何よりも…私はこの人の事を知っている。


 サルビアブルーの目、目だし帽をかぶっているのに何故か隠しきれていないハニーブロンドの髪。

 更に、顔の半分以上が隠れているのに、何故かグットルッキングガイだとわかるオーラ…

 ゲーム開始軸の前とはいえ、なんでこんなところにいるのよ。謎すぎるわよ。

 この国の第一王子にして、王太子。

 アーウィン・ヴェリタ・ユーフォニア


 目出し帽で隠しているのでしょうけれど、私が見間違うはずない。


 なぜならば。



 前世の私(ミカ)がシリーズ中でも最推しだった一作目の攻略対象者なのだから。


 あぁ、ジェイド兄様。ごめんなさい。勝てる自信が一気になくなりました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ