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王都巡回パターン2

「ローラちゃん。良いご武運を」

「大丈夫、大丈夫。ローラなら楽勝だから!」

「みんなで応援するからね~!ローラちゃんっ」

「フ…いえ、ローラさん、頑張ってくださいね」

次々にかけられる応援の言葉に戸惑いながらも笑顔で応える。「では、ローラ、行きましょうか」 優しく肩に手を置かれて、デイジー隊長に案内をされた先は、闘技場の舞台でした。


 いやいやいや、舞台に憧れてはいたけれど、それは社交界の舞踏会のような舞台であって、こんな石畳でバイオレンスな雰囲気の闘技場の武舞台ではない。

 いくら物語でありがちな前世の記憶を思い出した転生令嬢でも、前世では酸いも甘いも知る91歳分の経験値だってある。さすがに舞踏会を武闘会と間違える程の天然令嬢ではないわよ。とはいえ、ゲーム開始前の時間軸なうえ、バリントン家が想像以上に武闘派の家系で、前世の知識もほぼ役に立っていないないためか「そういうもの」と妙に納得している私もいる事も確かだ。

 

 おかしい。今日は、待ちに待った王都巡回の見学日のはずだったのに。


 数週間前、うっかり騎士達の前で弱気な発言をしたあの日。すぐにデイジー隊長がお父様とお話をしてくれて、提案してくれていた王都巡回の許可が降りた。ただ、巡回は他の隊や人員の組合わせの関係で、私の為に特別に巡回見学用の班が組まれ、まる1日を見学日にするために準備をしているため、調整に時間がかかるため、実際に見学をするのは数週間後と伝えられて驚いた。本来の仕事の予定を私1人の為に変更させてしまった事が申し訳なく思い、その事をデイジー隊長に伝えたら「お気になさらず。楽しみにしておいてください」と、返された。


 王都見学をする事が決まってから、騎士達と様々な相手を想定した実践的な技を教えてもらうようになった。王都の治安はそれなりに良いとはいえ、王都の外れに行く予定なので絶対に油断はできないですからと言われて、一生懸命訓練に励んできたけれど、普通の令嬢は自衛に励むのではなく、守られるべき存在なんじゃないのかしら…というより、騎士に「絶対守ります。安心してください」みたいな展開に憧れていたに。あれ、おかしいな。


 そして、当日。約束していた時間に騎士隊鍛錬場へ行くと…女性騎士達に囲まれ、あれよあれよという間に、シンプルなワンピースに着替えさせられ、髪を編み込みにまとめられ、私は「典型的な平民の子供」に変身していた。

 あまりの手際よさに驚いていると、同じく「典型的な平民」に変身している今日の見学するデイジー隊長と巡回班の騎士達に「早速出かけましょう」と、とても公爵家の馬車とは思えない簡素な馬車に乗せられた。


 驚きっぱなしの私に、移動中の馬車でデイジー隊長から一通りの説明を受ける。

 今乗っている馬車は、バリントン家が所有しているもので、使用人や騎士の移動や、お父様やお母様のお忍びのお出かけ用として使われているものだという事。

 王都巡回業務は、防犯の目的もかねて、騎士隊服で毎日ランダムな時間に屋敷周辺を中心に巡回するパターン1と騎士隊服以外で任務に合わせた格好をするパターン2とあり、今日は「町の様子の観察と、情報収集を目的」としたパターン2での巡回を行う事。

 デイジー隊長の遠縁の女の子「ローラ」が、デイジー隊長の公休日に合わせて王都に来るので、案内することになっていたところに、同じく公休や非番の騎士が同行してくれているという設定で遂行するらしい。そして、その遠縁の女の子が「ローラ」役が、私、フローレンスというわけだ。

 巡回中は、騎士達からは「ローラ」「ローラちゃん」と呼ばれる事、敬語を使わずに接する無礼を許してほしいと言われた。確かに、遠縁の子供に普段通りに接せられたら違和感が半端ない。そこは迷わずに許可をした。

 そこで、騎士達は偽名を使わなくて良いのかと質問をすれば、今回は「仕事中ではない事」が装えれば良く、騎士である事や、名前を隠す必要はないとの事。騎士だと知られていても、騎士隊服で会話するよりもオフの姿の方が不思議と相手の口が軽くなる確率が高いとの事。なんとなくわかる気がする。ちなみに、偽名を使うような案件の時は、しっかり変装をするそうだ。

 それを聞いた私も、騎士達は全員「さん付け」で呼ぶと事を提案すると、皆から「ありがとうございます」とお礼を言われた。やるなら徹底的に演技をした方がいいと思っただけなのに。


 そうして、予定通り、王都の外れから参りましょうということで、到着した馬車を降りて真っ先に目に入ったのは、まさかの闘技場。

  そのまま受付に連れていかれ、飛び入り参加可能型の勝ち抜き戦のイベント試合に「ローラ」として参加する事になってしまった。

「とりあえず、ローラには今日のイベントを体験してもらいます。イベント内容は、1勝する毎に賞金が加算される勝ち抜き戦です。勝ち抜く人数の最大は10人で、参加者がいなくなった場合はその時点で終了します。武器は全て木製で、体術の使用も可、相手に負けを認めさせるか、場外…武舞台の外へ身体の一部が出た場合と、足の裏以外の場所が地面に着いたら負けです。ですから、関節技や手を地面についての攻撃はしないようにしてください」

 淡々とデイジー隊長は私に目的とルールを説明すると、そのまま、控室に連れていかれ、持参したと運動着に着替えさせられ、武器庫に連れていかれ武器を選び、本日二回目のあれよあれよという間に戦いの準備ができてしまった。


「あの。デイジー隊…デイジーさん。えっと、巡回は?」

「今日の巡回計画はここからです。大丈夫、お父さんにも許可をもらっているから安心して戦ってきてください」

 え?お父様承認済み?それって公爵家としてどうなの?いいの?それよりも…

「私では10人抜きなんてできるかどうか…心配です」

 公爵令嬢としてどうかと思いますの場面なのに、目的と聞かされて任務の心配を口にする自分は相当動揺しているのだと思う。あぁ、普段の淑女教育で「どんな事があっても動じてはいけない」とあれほど言われているのに、実際に起きると動じてしまうのは、まだまだ修行が足りないという事かしら。

 そうこうしているうちに、他の騎士達と合流し、口々に応援され「それでは、観覧席で応援していますから」と別れた後、私はデイジー隊長に連れられ、憧れの豪華なドレスを着てシャンデリアの輝く舞踏会の舞台ではなく、シンプルな素材の運動着を着て、石畳の闘技場の武舞台へと向かったのだった。


 初戦は「挑戦者」として相手に挑み、勝った場合は「勝者」として次の挑戦者を迎え撃つ事になる。私の初戦は、すでに3勝している長い棍棒を持った大男だ。


 湧き上がる歓声の中、審判員の「始め!」の大声と共に、半分ヤケになりつつ、木製の模擬剣を構えながら言った。


「あぁっ、もう、ケセラセラよっ」

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