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デイジー騎士隊長は準備中

 バリントン公爵領の守りの要といわれているバリントン公爵家の私設騎士隊は、国内でも有名な騎士隊である。代々騎士になる家系の家や、騎士を有する貴族はいるが、この国で騎士隊を有する貴族がほぼいないという事もあるが、理由はそれだけではない。


 現在、当主が住まう王都の屋敷は、代々のバリントン公爵家の当主が王城に通いやすい為にあるもので、本来の領地は王都から馬車で3日程の場所にあり、海と山を有し、更に豊かな土壌に恵まれている場所で、代々、先代当主が治めている。

 領地の近くには国境にもなっている深い森があるが、そこには大型獣が生息していて、領地の近くで悪さをする事が度々あった。しかし、元々武の道に長けていたバリントン家は自ら大型獣の討伐に当たり、領内の安全を守っていた。

 王都から離れているとはいえ、爵位は公爵。更に恵まれた領地を持っている事もあり、領民と土地を武力で守るだけではなく、貴族社会からの見えない力からも守れるようにと、歴代の当主とその家族たちは武芸以外の勉強をする事も怠らなかった。バリントン家の家訓の「文武両道」はその流れを受け継いでいる。


 そんなバリントン家の努力の甲斐もあり、領地は発展していくが、同時に治安の面も心配された。そこで、領民の安全を守るために結成されたのが、現在の騎士隊の基礎となる私設兵団だった。


 入団試験は、実力のないものが無駄に命を落とす事のないようにと、完全実力主義の厳しい試験であるが、入団をすれば最低限の衣食住の保証、戦闘訓練とは別に、一定水準のマナー、字の読み書き、計算などの、学ぶ時間が設けられるという他には絶対にない待遇が約束されている。任務も決して楽なものではなかったが、危険な大型獣の討伐、領地全体の治安の向上に努め、決して驕らず誰に対しても真摯な態度で接する私設兵団の姿は、瞬く間に領民たちから尊敬され、憧れの存在となり、人伝で各地へ広がり、入団希望者は後を絶たず、試験に落ちても修行をして再度試験に臨む者もいるほどだ。


 騎士隊となっても待遇はほぼ変わらないが、現在、入隊条件に年齢制限がつくなど時代に合わせた変更はあるものの、大型獣の討伐や、ならず者を相手にしていくのにはとにかく腕っぷしが必要であることや、貴族に仕えるための教養は後からでも身に着けられるものであるというバリントン家の考えから基本の「身分性別関係なく腕に自信のあるもの」は結成時から変わらない。そのためか、今でこそ珍しくない女性騎士の先駆けを作ったのはバリントン家と言われている。

 

 そんな、様々な理由から国内でも有名なバリントン公爵家の騎士隊の隊長兼、フローレンスお嬢様の「教育係」の私、デイジー・ソバリーは、現在、隊長室でフローレンス様との約束の為に、グロッシュラー様に提出するための計画案を作成中である。

 バリントン公爵家の家訓は「文武両道」。武術の教育は男女関係なく受ける事となり、ある程度の実力に達すると、当主の許可が出て、私達騎士隊と一緒に鍛錬や訓練への参加が可能になる。とはいえ、騎士隊は騎士隊本来の任務もあり、子息令嬢たちには子息令嬢たちの予定もある。そこで、お互いの予定の調整や橋渡し役の「教育係」が騎士隊から選ばれるのがバリントン家の習わしで、先日、私がフローレンスお嬢様の「教育係」に抜擢されたのだった。


 一通り計画書を書き終わり、両腕を上げながらぐっと背筋を伸ばしたところで、声をかけられた。

「デイジーが書類仕事に集中しているなんて珍しいな。どうした?」

 声の主は、パキラ・レギー。私と同じく隊長を務めている。ちなみに「騎士隊」は複数の隊で組まれていて、番号で管理するより分かりやすいという理由で、各隊の名前は隊長名が使われている。

 現在、王都の屋敷に配属されている隊は3つ。従って、隊長が執務を行う為に用意されている隊長室は現在、私を含めた3名の隊長たちが使っている。昨年に隊長に就任したばかりでようやく隊長職に慣れてきたところで、先日まさかの「教育係」への抜擢で正直、少し…いや、かなり戸惑っている私には、すぐに先輩の隊長たちと話せる環境がある事はかなり助けられている。


「フローレンス様の新規の訓練計画案を作っていました。王都巡回のパターン2の時に見学をしてもらおうと思って」

「え?フローレンス様はまだ騎士隊にして数日しか経っていないだろ?判断が早くないか?」

 パターン2と聞いたパキラさんは、すぐに私が何をしようとしているか感づいたらしい。そのやり取りを見て、同じく隊長のエレムルス・ゼフィランカスから声がかかる。

「いや、フローレンス様の初日の様子は私も見ていましたが、今後の為にも早い方がいいでしょう。デイジーの判断は間違いないと思いますよ」

 エレムさんは3人の中でも一番のベテラン騎士で、グロッシュラー様からの信頼も厚く、王都の屋敷の任も長くて、とても便りになる。実質、王都の屋敷内での総隊長的存在だ。

「なるべくフローレンス様に、できるだけ早く気づかせてあげたくて」

 二人に今日のフローレンス様の「弱い」発言の出来事を話すれば、エレムさんは、やはりと頷き、パキラさんも納得してくれた。


「まぁ、俺らみたいに優秀で強すぎる人間しか身近にいない環境ってのもなかなか大変なもんなんだな」

「ジェイド様もそれで上手くいきましたし、フローレンス様にとって良いきっかけになるといいですね」

「エレムさん、その案、一番最初に考えたのは俺ですよっ!デイジー、俺に感謝しろよ~」

 思いあがり発言に加え、恩着せがましい事を言ってくるパキラさんと、後押ししてくれているセレムさん。何故、エレムさんではなくパキラさんが「神童」とうたわれ、7歳で騎士隊出入りの許可がおりたジェイド様の「教育係」に抜擢されたのかは騎士隊の謎として未だにネタにされている。ジェイド様の雰囲気的にもエレムさんの方が合いそうなのに。とはいえ、私もパキラさんの事を言えた義理ではないけれど。


 バリントン家に生を受けた者は、3歳くらいから当主自らの教えで武芸の道に入るが、実戦の基本より前の段階、心構えや体の動かし方の導入を親や近い親戚から習う。そして、6歳になると外部から教師を呼び本格的に武芸を学び始める。そして、過去の記録を見ると、大体10~12歳の頃から騎士隊への出入り許可が下りる。

 ジェイド様は7歳、フローレンス様は8歳という異例の速さで許可が下りたのだが、これは決してグロッシュラー様が子供に甘いという理由ではない。それだけお二人が優秀なのだ。というのも、バリントン家の者が騎士隊に出入りの許可の本来の目的は「武芸の応用、実戦を学ぶ」事にあり、表向きに許可を下ろしているのは当主であるグロッシュラー様だが、実際にその判断となるのは、普段、武芸を教えている教師たちなのだ。

 ここで驚くべきなのは、バリントン家の武芸の教師は全員が絶対的強さを持っているとは限らないところである。もちろんグロッシュラー様のお眼鏡に敵っているため、ある程度の実力を兼ね備えている者ではあるのだが、求められているのは「基本をいかに上手に教え、身に着けさせる事ができるか」の資質のみで、強さは二の次なのである。実際に「数年間、飽きさせず、悟らせないで基本を身に付けさせている」のだから、教師の腕は確かなのだろう。

 

 引退した王国騎士団の各団長や副団長、また国内の武芸の大会で優勝経験のある者が、貴族子息の剣術の教師として呼ばれる事はよくある話だが「実力者が、名教師とは限らない」のがバリントン家の持論らしい。確かに、騎士の中にも、ものすごく強いのに質問すると「ぐわっと」とか「ズバっと」と、感覚で答えるタイプが何人かいる。ちなみにパキラさんはその部類で、部下たちの理解度にも差が出ている。逆にエレムさんは丁寧に相手の理解度に合わせて説明する事ができるため、部下からの信頼も厚い。

 話がそれてしまったが、基本を徹底的に叩き込まれ、確実に基本が身に着くと、各担当の教師たちはその事を当主に報告をする。そして、学んでいる全ての武芸の教師から報告が揃った時点で、当主が騎士隊に出入りの許可が下ろし「今後は授業の時間は騎士隊で学ぶ時間に変更するため」という名目で、教師たちはその役目を終える。バリントン家の子供たちは、その後、騎士隊で様々な者達から経験や技術を取り入れながら、自分自身の武芸の道へ進むという、まさに武芸の道の英才教育が知らず知らずのうちに施されているのであった。ちなみに、このシステムは子供たちには極秘である。そのためだろうか、ジェイド様は騎士隊に出入りができるようになった後も「まだまだ教師たちから学びたい」と、フローレンス様と一緒に教師から教えを受けていた。


 基本が大事という事は、ジェイド様とフローレンス様の洗練された無駄のない動きを見ていると改めて思い知らされる。二人とも手合わせで騎士達から一本取れないのは、体格差と、実戦経験の差が殆どで、同年代でこの二人に敵う者はいないと思う。しかし、皮肉にもその環境が本人たちの自己評価を下げさせているのも事実だ。十分、というよりそれ以上の実力を持っているフローレンス様の「弱い」発言も、謙遜ではなくて「本気でそう思っている」のだから、始末が悪い。


 ジェイド様も、騎士隊に出入りした頃はそんな感じだった。やる気がないわけでも、熱意がないわけでもなく、完成されたものでありながら、何か足りないようなそんな感じ。しかし、素直なフローレンス様のようにうっかり口に出すタイプでもないため、騎士達もなんとなく「貴族子息が家の為という義務感が強いのだろう」と誤解していた。しかし、そうではなく「充足感を得られていないことが原因で自己評価が低い」と気づいたのが、教育係のパキラさんで、すぐに対策を立てて実行した。その後、ジェイド様はブレていたものが、揺るぎない芯の通ったようになって、更に強くなった。慢心は良くないけれど、自信がないのも良くないと当時思ったものだ。おかげで、騎士達も負けまいと更に鍛錬を積むようになった。おかげで、現在の王都の屋敷にいる騎士達の戦闘能力は相当高くなっている。今のジェイド様なら領地にいる1~2年目の新人騎士なら普通に勝ててしまうだろう。

 フローレンス様も、似た者兄妹というべきだろうか。ジェイド様が身近な存在だからだろうか、屋敷内で誰も比較していないのに、ジェイド様と自分を比較していて更に自己評価が低い。でも、きっと、これを体験すれば大丈夫だろう。

 私は、もう一度、訓練計画案に不備がないかもう目を通して、他の提出書類と一緒にまとめた。

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