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「…そうだな」
(まさかその話をしてくるとはな)
采は気にせずに話続ける。
「私は今日初めて昏破にお会いしたのですが、本当にお綺麗で…満月のように金色に輝く眼でございますね。
髪の色も金に近いほどの薄茶色で、肌の白さのせいか儚げな美しさで、月の女神かと思ったほどです。
髪と目の色は夏家直系にのみ受け継がれると耳にしたことがありますが、夢物語かと思っておりました。
祖父である夏家当主は宰相でありながらあまり表舞台に出るのを好まれず、私のような若輩者はお見かけすることがございませんから。
昏破様の父上は宰相補佐でございますが、金色の眼ではありませんしねぇ。
昏破様もお体が弱くなかなか御目通りが叶わなかったのでね」
陽日は注意深く周囲に視線を走らせ、誰もいないことを確認した。
「そなたは戸部尚書になって日が浅かったな。まだ慧斗殿に会ったことがなかったか?」
「はい。宰相殿は宮中を留守にしていることが多いですからね。」
「あー・・・。慧斗殿は自分で見聞きしたものを信じる性格だからな。情報集めに国中を回っているから、まだ会えていないのか。
いい加減戻ってきてもいいと思って、明日の定例会議には出席するように手紙は出してある。もしかしたら会えるかもな。」
陽日は少し遠い目をした。
「そうですか。それは楽しみです。国中を回っているのであれば、日焼けして昏破様とは対照的かもしれませんね。
いえね、私の娘は健康そのもの故に昏破様が心配で…妃として陛下を支えるには、少々荷が重いように思いましてね。
末永く陛下にお仕えできる新しい花をもう1人くらいお迎えしてはいかがでしょうか?
自慢ではないですが、うちの娘も大変愛くるしく月の精霊と称されることもありまして。同じ月
同志、太陽を支えるのも…」
采は人がいない今が、娘を印象づける好奇と言わんばかりに強引に話を持って行く。
しかしそれは陽日の後ろに控えている者に阻まれた。
「采戸部尚書、陛下はこの後は昏破様とお会いする予定ですので失礼致します。
陛下、昏破様がお待ちでございます。お急ぎ下さいませ」
采を上回る強引さで話を切り、その場を後にした。