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ー昏破様が、陛下に御目通りをご希望されております
文官から言付けを聞いてから、一刻以上は経つ。
(せっかく昏破が呼び出してくれたのに、思いがけず時間がかかってしまった…)
四季帝国皇帝、春 陽日は回廊を急ぎ足で進む。すれ違う官吏たちが恭しく礼を取るが、挨拶もそこそこに進んでいく。
体の弱い昏破に、妃教育の講義には自分の執務室を当てがった。暖かく居心地の良いし、終われば自分と話をする時間が取れると思ったからだ。
なかなかその話をする事は出来ないが、今日は珍しくお呼びがかかったのだ。思った以上に時間が取られてしまい、倒れているのではないかと心配でしょうがない。
(あれはすぐ熱を出すからな)
コツコツと早足で護衛とともに歩いていると
「これは皇帝陛下、ご機嫌麗しゅうございます」
丸々と太った球体…ではなく、戸部尚書に声をかけられた。
「うむ。余は少しばかり急いで…」
片手を上げ陽日は話を切り上げようとしたが、
「先刻、昏破様に穀物の収穫量についてご指導させていただきました。短時間ではございましたが、ご聡明で慈愛に満ち溢れたお方と拝見しました。民のことを常に想っていると御言葉を承り…妃に相応しい人格者でございますね。」
被せ気味に話をされてししまい、仕方なく立ち止まる。
(今日は戸部からの指導日だったか)
各部署から昏破への指導日程を頭に浮かべた。
指導後であれば疲れているかもしれない。やはり、早く戻り横にならせなくては。
「それはご苦労であった。昏破にはそなたが褒めていたと伝えておこう」
陽日は早口でまくしたて、再び歩き始める。
「昏破様は…お綺麗な金色の眼をされておりますねぇ」
戸部尚書 采斎心の声が回廊に響いた。