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「工部も予備費には手を付けない様、工事日程を組んだ。
材料費も比較的安く仕入れることができた。だから、工事自体は予算内で順調に進んでいる。
何故、そんなに金がない と言い切るんですか?
戦争が起きているわけでも、突発的な行事もなかったはずですが?」
冷尚書は、采尚書のめちゃくちゃな言葉に不信感を持ち、眉間に皺が寄る。
「た、確かに戦争も大きな行事もありません。
ですが・・・そう!昏破様の妃教育が始まりました。環境を整えるのに意外とかかってしまいましてな!
か弱い御身ですから、つつがない様にと思うとあれこれ修繕などもありまして」
司農・工部・礼部では言いくるめる事が出来なかった、采尚書は何とか切り抜けようと昏破を狙った。
(どうせ何も分からないのだから、言い返すこともできまい)
妃教育も始まったばかりだ。後で適当に報告書などを提出すれば問題ないだろう。
ちらりと陛下を盗み見る。
少し苦い顔をしている様にも見えるが、陛下が昏破にベタ惚れなのはこの宮廷内では誰もが知っている。
その愛しい娘の環境を整えるため、と言えば承知せざるを得ない。そして陛下が許せば、この場にいる誰もが納得するしかない。
(これでもう大丈夫だな!)
静かになった会議に、采は勝利を確信した。
「「何言ってんだ。このデブジジイ」」
低く唸るような声と、鈴のような声が静かに・・・聞こえた気がした。