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「もう少し詳しい資料が欲しいですかな。
税は民の生活を左右するもの・・・税によって貧困に喘ぐ民がいてはなりません。
昨年と同じ収穫量の根拠はどこにあるのか、お聞かせ願えますか?采戸部尚書」
慧斗は持っていた資料を卓に置くと顎の下で手を組み、穏やかに声をかけた。
「は、根拠でございますか・・・」
急に宰相である慧斗に話を振られ、采尚書は声を詰まらせた。
「ええ、根拠です。もちろんあるんですよね。
資料に添付されていないようですから、自ら説明してくださるのでしょう?」
穏やかな声音だが、強い圧力を感じる。采尚書は汗が噴き出てくるのを感じた。
2年前の自分の任命式は慧斗は欠席、その後の会議もずっと欠席だったため、今日が初対面だ。
それまで話をしたこともなく、慧斗がどういう人物なのかはよく知らない。
(根拠?そんなのは例年の通りにやっているだけなんだから、ある訳ないだろう!)
「申し訳ありません。
毎年の事ですから、つい資料を簡略化し過ぎましたな。
慧斗様は中央を離れているおりましたので昨年の資料をご覧になっていないのでしょう?
今年も昨年斗同じ収穫量が見込めそうでしたので、税を同じで・・・」
「昨年と同じ?
今年は昨年と気象条件が異なります。気象条件が違えば、当然ですが収穫量は変わってきます。
昨年と全く同じ数字、ということはない筈ですよ?」
采尚書の言葉を、慧斗は遮る。
「それに昨年の会議には出ていませんが、数字はちゃんと見ています。
今年は少し疑問に思うところがありましたので、直接お話しを聞きたくて」
ニコリ。
「いや、その1の単位まで全く同じとは言えませんがほぼ一緒でして・・・」
(今までずっと出て来なかったくせに、なぜ今日に限って)
ダラダラと采尚書の汗が止まらない。
(例年ではそのまま通る案件なのに、何故今年に限って口出しをするのか・・・)
慧斗の隣にいた進行役の英蓮も少し驚いた様子だ。
「夏宰相、こちらは」
英蓮が慧斗に声をかけるが
「私は采尚書に聞いている。そなたには聞いてはいないが?」
ピシャリと慧斗は英蓮の話を切る。
会議室の空気が途端に重くなった。




