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「あらぁ、どこに行かれるの?」
静かに家を出ようとしていたが、運悪く継母である華月に出会ってしまった。
無視するわけにもいかず、昏破は立ち止まり礼をする。
「おはようございます、お母様。
本日も妃教育のために宮廷に出仕して参ります。」
昏破は顔を上げ、にこりと笑った。
「時間の無駄なんじゃなくて?
貴方じゃ到底、理解出来ないんですから。
…まぁ、無駄でもせいぜい頑張りなさいな。貴方はあくまで貴妃に内定しただけですからね。
どうせすぐに使えないと、降ろされるわ」
「・・・そうですね。
でも、教えて下さる方達に申し訳ないので精一杯頑張りますわ。」
(今日は濃い桃色に明るい緑の刺繍・・・)
昏破はじっと、華月の衣装を見て聞き流す。
いつもと変わらない昏破の、優等生な返答だ。
「官吏の時間の無駄は国益を損ねる、と英蓮様に進言しておくわ。
夏家を名乗る娘がついていけなくて根を上げるなんて、恥さらしもいいところですもの。」
華月は言い捨てると、彩華の部屋へ向かった。
(綺麗な顔なのに、センスがいまいちなのよね。)
華月の後ろ姿を見送り、あの日の彩華を思い出す。
後ろに控える可成をチラリと見る。
「さ、行きましょう。お姉様まで出て来たら遅くなっちゃうわ」
物言いたげにする可成を引きずるようにして、昏破は車止めに向かったのだった。