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「そっちか。まぁ、馬鹿にされたことなんてどうでもいいでしょうね。予想の範囲でしょうから」
李音は目の前に座る美少女を見つめる。
本来、皇帝妃でともなれば蝶よ華よともてはやされこそすれ、あからさまに馬鹿にされることなどない。
では何故、仮にも未来の妃が、一官吏に馬鹿にされてしまうのか。
四季帝国には四つの季節の名をもつ家が存在する。
皇帝の座に鎮座する、春
歴代の宰相を輩出し国の頭脳と称される、夏
代々皇族の主治医を務める、秋
多くの戦果を残し国の護り神と称される、冬
昏破は四つの名の中でも、皇帝に次ぐ大貴族・夏家の娘だ。祖父は夏家当主でありながら宰相、父は婿養子で宰相補佐を務める。夏家本家の姫であり、現皇帝の妃に内定している。
家系によるものなのか、天才的な頭脳を持っているが…表舞台にいるよりも寝所に伏せっていることが多く、知るものは殆どいない。
そもそも、この幼馴染には妃教育など必要ない。
大貴族に産まれ礼儀・作法は、当たり前に身についている。皇帝の仕事も勉強なんぞしなくとも、今年も含め過去10年分くらいの国家予算と実績、公共事業などは頭に入っている筈だ。
だが昏破自身はそれを表に出すことはしない。
『妃が頭をまわったところで役に立つどころか、疎まれるだけですわ。お馬鹿さんな方がいいんですのよ』と微笑んでいたのはいつの頃だったか。
だから、
(まさか、実はとんでもない爪を隠してるなんて思わんわな)
李音はフッと小さく笑った。