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次に屑籠の中身を、床にひっくり返す。
化粧品や薬箱の中身が捨てられていた。
その中の一つ、塗り薬を手に取る。蓋を開けると、薔薇の香りが広がった。
先程、卓に置いた箱から銀の匙を取り、塗り薬を掬う。
匙はゆっくりと、黒く変色していった。
この塗り薬は昨日、お父様からいただいたものだった。
『お前はすぐに転んだりなんだりで、傷口が絶えない。
傷だらけの妃なんて見苦しい。そんな娘を夏家から出す気はない。
ああ、美容にもいいと商人から聞いた。毎日使えば、少しは嫁にふさわしくなるだろう』
珍しく口数多く、自分に薬をくれた。
匙が変色している時点で、毒入りであることは明白だ。
毎日塗るように念押したことからも、きっとお父様は毒入りであることを知っている。
(毎日塗ったらどうなるのかしら?皮膚からの吸収ならじわじわ弱らせるくらいしか出来ないと思うけれど)
塗り薬をじっと見つめ、昏破は考える。
嫁にふさわしい、と父は言った。
少なくとも、陛下の嫁ではないのだろう。父は自分が入内することに反対している筈だ。
いつ死ぬかも分からない娘を入内させたところで、利用価値はない。
ならば。
(お兄様の、かしら。
見られないような顔になるのであれば、外には出せない。でも子を産むくらいなら・・・)
父は、兄の考えに賛成 といったところか。
「…そんなに私が邪魔なら、もっとやり方が色々あるでしょうに。
不毛よね、お父様も兄様も姉様も…私も。みーんな。」
昏破は天を仰ぎ、眼を瞑る。
しばらくそうしてから、可成に見つからない内に片付けを始めた。




