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「昏破は…」
陽日がハッと思い出し、立ち上がった。
「昏破なら大丈夫。
言ったでしょ、耐性のある毒だって。ちょっと舐めたくらいなら大丈夫。念のためで、毒消しの薬も飲んでたし。
あとで見舞いの文でも届けたら?」
李音はすっかり冷めてしまった茶に口をつけた。
「おい、それは大丈夫なのか?」
陽日の怪訝な視線を受け流し、
「だーかーらー、大丈夫だって。狙いは昏破だもん。私達のには何も入ってないよ」
「李音。
あの者の主人、まさかと思うが…」
陽日は侍女の言葉を思い返す。
『床に伏せっていて…』
確かに、そう言っていた。
昏破はよく倒れては寝込む。あれが病弱なことを知らぬ者など、この宮中にはいないだろう。
だが、昏破が床に伏せるのはいつだって夏家にある自室だ。
体がどんなに弱くても、心を許した人以外の場所では寝込むことはしない。
『たたでさえ色々とままならないの。臥せっている所まで見られたくなんてないですわ。
・・・弱点なんて、身体だけで充分よ』
だからこそ本当に弱っている所なんて、他人に見せることはしない。自室以外で寝ることなど、ありえないのだ。
「そう。どーせ今回もあの馬鹿女でしょ」
李音の言葉に陽日は、眉間に皺を寄せた。




