第7話 おとり
おとり捜査。よくドラマやアニメでありますね。
「犯人は手紙の文面からして、俺を先に狙ってくるとは思うが、ユウトは念のため、サクラについてやってくれ」
「わかったよ兄さん」
ここにいると皆が巻き込まれるかもしれないので、俺は部屋の外へと向かう。
「ヒロトちゃんどこに行くの」
「ちょっとコンビニに行ってくる」
「今、外に出るのは危ないよ」
「大丈夫、大丈夫」
俺はそのまま步を進める。
「でも」
「コトネ姉さん、いいんだ。後は兄さんに任せよう」
「⋯⋯わかったよ」
「兄さん、気をつけてね」
「ああ」
俺はコト姉とユウトに見送られながら家の外へ出る。
サクラside
ヒロトが異能を持った人物に狙われている。
これはチャンスかもしれない。
いくらヒロトが強いといっても、異能力者と戦えばただではすまないはず。
そのまま異能力者が、ヒロトを殺してくれてもいいし、怪我を負ったヒロトに私が止めを刺すことができるかもしれない。
やっとお父さんとお母さんの敵を討つことができる。
そう考えていたが、何か心の中に、よくわからない感情が駆け巡る。
私は頭を振りその思いを消す。
たぶん頭が痛いから、余計な感情が沸いてくるのだろう。
今日は一段と頭痛がするが、だけどそのくらい我慢してみせる。
私の長年の目的が達成されるかもしれないから。
けど、その目的が達成されたら、私はこれから何を目的に生きていけばいいのだろう。
答の出ない思いを胸に、私は現実の世界へと戻っていく。
ユウトside
さて、外に出たけど見えない敵は攻撃してくるのかな。
とりあえず辺りを警戒しながら、俺は目的地へと歩き出す。
住宅街を進んでいるが特に何かがくる気配はない。
しかし花梨の花が咲いている公園の中を通ると、突然細長いものが襲って来たので、右手でキャッチする。
金属バット?
俺は金属バットを手に公園を駆け抜ける。
続けて背後から先の尖った枝が飛んできたので、おれは身をひねりかわすが、枝は弧を描くように俺の所に戻ってくる。
「自動追尾型か!」
俺は手に持った金属バットで枝を叩き折る。
そして次に、野球ボールぐらいの石がもうスピードで向かってきたので、杉の木を盾にする。
石は木に当たるとそのまま地面に落ちた。
なるほどな。
俺は再び攻撃が来る前に公園を駆け抜け、住宅街へと向かう。
住宅街へ入り歩いているが、新たな攻撃がくる様子はないので、俺はそのまま目的まで進んだ。
数百段もある階段を昇り、俺は甲賀寺へとたどり着く。
ここからの眺めは風を感じて、いつみてもきれいだ。
しばらく下界を眺めたり寺の方をみているが、攻撃がくることはない。
これで見えない敵の異能について、いくつかわかった。
1.飛ばした物は対象に当たるまで自動追尾で飛んでくる
2.ただし飛ばした物が何かに当たると、自動追尾で飛んでくることはない
3.自分の視界に入らないと相手に当てることはできない
4.視界に入っても射程距離の外には飛ばすことができない
1、2に関しては、公園にいた時、かわしても枝や石が飛んできたことと杉の木を盾にしたときに失墜して、その後飛んでくることがなかったから間違いないだろう。
3については人が少ない住宅街を歩いていた時は、攻撃が来なかった。これは俺が背後を気にして歩いていたためだと思う。もし目が合えば疑われてしまうからだ。
そして、人がまばらにいる公園の中にきた瞬間攻撃されたから、公園は自分の姿が気づかれない、なおかつこちらを視認できる場所だったからだ。
4については甲賀寺の、階段の上から下まで、100メートルちょいくらいの距離があるが、一向に何かがくる気配はないため、異能には射程距離があると思われる。
とりあえず俺は現時点でわかったことを、ユウトにメールする。
メールを送信した後、突然背後に気配を感じたため、俺は背面に向かって回し蹴りを繰り出したが、受け止められる。
「おやおや、とんだご挨拶ですねえ」
俺の蹴りを受け止めたのは猿飛先生だった。
「先生、脅かさないでくださいよ」
「ヒロトがボーッと立っていたのでつい」
ついじゃないよ。敵の攻撃かと思ったぞ。
「今日はどうしたのですか? 鍛練は中止だと伝えたはずですが」
「実は先生に伝えたいことがありまして」
先生が俺の肩に手を置いてくる。
「ヒロト。言わなくてもわかってます」
えっ?わかるの? さすが現代の忍者と言われる猿飛先生だ。
「日頃行っている鍛練の量では物足りないので、今日は休みを返上して来たというわけですか。ヒロトがやる気になってくれて嬉しいです」
「いえ、ちがいます」
俺は間髪いれず否定する。
「わかりました。今日は誰にも見せたことがない本気の力をみせるとしましょう」
「だからちがいます!」
この人は何を言ってるんだ。本気の力なんか見せられたら俺が死ぬ。
お願いですからやめてください。
「先生! 今日は例の異能が使えるドラッグについて報告があります」
「ドラッグについてですか」
先生の意識がドラッグの方に奪われ、鍛練を行う気がなくなっていく。
ふぅ、助かった。
「実は⋯⋯」
俺は今日あった出来事を話す。
「なるほど、新しい力ですか。確かにドラッグを使用して得た力のようですね」
「実際ここに来るまでに何回か襲われました」
「そうですか」
それだけ? あなたの可愛い弟子が襲われたんですよ。
ユウトといい、先生といい俺をなんだと思っているんだ。
「もし、その見えない敵がドラッグを持っていたら必ず押収して下さい」
「わかりました」
「バハムートから応援を出しましょうか?」
「いえ、俺とユウトでなんとします」
そういえば、他のバハムートのメンバーとはまだ会ったことがないな。
俺は自分のバッチを取り出して見てみる。
いつみてもカッコいいデザインだ。
「このバッチのデザインは先生が考えたのですか?」
「いえ、他の隊員が考えたものです」
「ですよね。先生にこのデザインを考えるセンスはありませんよね」
やばっ! つい本音を言ってしまった。
「ヒロト。やはり今日は私の本気を見せたくなりました。この後鍛練していきなさい」
「やだなあ、先生。冗談ですよ。けしてその僧侶姿から、あんな素敵なデザインを考えられるはずがない、なんて思ってませんよ」
先生は俺の肩に手を置き握り締める。
痛い痛い!
「さあ早くこっちに来なさい」
ギャー! 誰か、誰か助けて。
こうして俺は夕方まで地獄の鍛練を受けるはめになった。




