第6話 宣戦布告
エイプリルフールに何か嘘をついたことはありません。
4月1日
今日はエイプリルフール。
嘘をついても良いという風習の日である。
だが俺に取っては関係ない。
それより春休みが後一週間しかないことの方が問題だ。
だから俺は今日こそプラン通りに過ごしてやる。
コンコン
残念ながら、どうやら今日もごろごろ出来ないようだ。
「ヒロトちゃんちょっと居間にきてほしいの」
「どうした?」
「サクラちゃんに変な手紙が来てて」
「変な手紙?」
「いいから来て」
俺はコト姉と一階へ下りるとサクラとユウトがいた。
サクラは俺が行くと一瞬苦々しい顔をするが、ヒロトとコト姉もいるのですぐにその表情は元に戻る。
「兄さんこれを見て」
ユウトから手紙を受け取る。
封筒に送り主は書いてない。裏面には水無月サクラさんへと記載してある。
手紙の中身を確認してみると
親愛なるサクラさんへ
先日は取り乱してしまい、申し訳ありませんでした。
本当のことを言えない理由は存じてます。
あいつに脅されているんですね。
僕は新しい力を手に入れた。その力を使って神奈ヒロトを排除します。
奴を殺したら結婚しましょう
「何これ? エイプリルフールネタ?」
「そうだったらいいけど、さすがにこの内容は笑えないよ」
確かにこの手紙の内容はやばそうだ。
イタズラではすまないレベルだな。
俺からサクラに聞きたいことはたくさんあるが、聞いても答えないと思うので、ユウトから話を振ってもらおう。
「サクラは心当たりないの?」
「わからないわ」
「なんとなく告白を断られた逆恨みの気がするけど、最近誰かに告白をされたりした?」
「卒業式の時に数人に」
「数人って何人?」
「⋯⋯20人くらい」
20人!
サクラよ。20人は数人って言わないぞ。
「サクラちゃんモテモテだね」
「お姉ちゃんだって去年同じくらい告白されていたよね」
二人は学園のアイドルだから、それくらい告白されてもおかしくないな。
「おそらくサクラに告白をして、振られた腹いせにこの手紙を出した可能性が高いね」
けど20人を調べるのはちょっと厳しいぞ。
「それに気になる一文があったね」
「俺を殺すってやつか」
「違うよ。たとえ兄さんが標的にされてもやられるわけないでしょ」
俺の心配はしてくれないのか。ひどい弟だ。
「結婚しましょうってやつか」
俺の言葉にサクラが不快感を示す。
「新しい力を手に入れたって所だよ」
何か聞いたことがあるフレーズだなあ。これも例の事件と関係あるのか。
「異能が使えるようになるドラッグか」
「そうだね」
「異能が使えるようになるドラッグって何?」
「最近街で、異能が使えるようになるドラッグを売っている人がいるんだ」
「すごいね。そんな薬があるんだ」
「ただ、服用すると精神に異常をきたすらしいから、この手紙を出した人物も、文面からして、すでに症状が出ているのかも知れない」
確かに平気で殺すと書いてあるし、何よりにまだ15歳のサクラと結婚したいとか頭がおかしいとしか思えない。
「最近兄さんとサクラの周りで何か変なこととか起きてない?」
「俺は特にないな」
「私もないよ。⋯⋯ただ関係があるかどうかわからないけど、たまに窓からコツンって音がすることがあるの」
コツンって石か何かが投げられているのか。
「ちょっと確認してみようか」
俺達はサクラの部屋に向かう。
ガチャ
サクラがドアを開け俺達は部屋の中に入る。
人形とか置いてあって女の子らしい部屋だな。
と言ってみたが、これが15歳の女の子の部屋っぽいのかは俺にはわからない。
なぜなら今まで、コト姉とうちに来る前のサクラの部屋しか入ったことがないからな。
なんだか自分で言ってて悲しくなってきた。
サクラの部屋の窓を見ると、特に傷ついているようには見えない。
「サクラは、窓から音がするときに、何が当たったのか見たことはないの?」
「一度だけあるけど、小さい小石だったよ」
俺は窓から顔を出し、下を見てみる。
地面にはビー玉くらいの大きさの石が、10数個ほど不自然に落ちているから、おそらくこれだな。
向かいは住宅街の道路なので、ここから投げたのだろうか。
俺が窓の外を確認したその時、視界の隅から凄まじいスピードで何かが飛んでくる。
「いてっ!」
俺はギリギリの所でそれを受け止めることができた。
「兄さん大丈夫!」
「ヒロトちゃんどうしたの」
ユウト達が駆け寄ってくる。
俺は片手で掴んだものを見ると、それは硬式の野球ボールだった。
「ボール? どこから飛んできたの」
ボールを使う所といったら、一番近くて300メートルくらいの場所にある公園だが、そこからここまで飛ばすのは、普通なら不可能だ。
住宅街の道路には誰もいなかった。
となると、これは異能で飛ばしたのか。
「どうやらさっきの手紙は、エイプリルフールネタじゃなかったみたいだな」
「そうだね」
たぶん今のは宣戦布告だ。
犯人はどこからか俺を見ている。
サクラの部屋に、俺がいたのが気にくわなかったのだろう。
こっちとしてもサクラを狙うより俺を狙ってくれた方が助かる。
お前のその歪んだ愛情、必ず止めて見せるからな。




