第2話 入学試験
本日2話目です。
「今のは幻覚魔法? いえ異能?」
俺の耳を見て、女の子は人族だと判断したようだ。
天族と魔族は、弱冠人族より耳が長い。
逆にこの娘は耳が少し長いから天族か魔族だな。
痛っ! 能力を使ったせいで頭痛がしてきた。
とりあえず時間もないしここから離れよう。
「じゃあ俺はこれで」
俺は後ろを向いて歩き出す。
「ちょっと待ちなさい」
「ぐえっ!」
女の子は俺の衿台を掴み引っ張ってくる。
止めるにしてももう少しやり方を考えてほしい。
「お礼くらい言わせなさい」
女の子は佇まいを正す。
「助けてくれてありがとう。早く行かなくちゃいけない用事があって困ってたの。助かったわ」
この娘。今ハッキリと顔を見たがすごい可愛い。
髪を両サイドに結んでいて、スタイルが良いから芸能人かモデルかな。この容姿ならナンパされるのもわかる。
「あの二人が俺にぶつかってきたから仕返ししただけだ」
女の子が俺の顔をじっと見てくる。
やめろ。その可愛い顔で見るんじゃない。
「嘘でしょ。だってあなたあの二人に幻覚をみせただけで何もしてないじゃない」
「いや、周囲からすると女の子とデートの夢をみている可哀想なやつに見えるんじゃない」
女の子がまたじっと顔を見てくる。
「まあいいわ。そういうことにしておいてあげる」
別に感謝したくて助けた訳じゃない。ただの自己満足だから礼はいらない。
「それよりいいのか? 早く行かなくちゃいけない用事があるんだろ」
「あーっ! そうだ! 早くいかないと遅刻しちゃう」
女の子は慌てて落とした荷物を拾い上げる。
「本当にありがとう。バイバイ」
手を振って女の子は走り去って行った。
さて、俺も行かなくては。残り時間は後10分あるから十分に間に合うな。
頭痛も治ってきた。よし大丈夫だ。
俺は歩き出すとさっきの女の子が戻ってくる。
「あの~、アルメリア学園の行き方を教えて」
恥ずかしそうに伝えてきた。
俺達は走ってアルメリア学園へと向かう。
「はあ、はあ。まさかあなたもアルメリア学園を受験するなんて。ちょっと運命を感じちゃうかも」
「ただの偶然だ」
「はあ、はあ。そういえば貴方のお名前を教えてくれる」
「ヒロトだ」
「ヒロトね。覚えたわ」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯このパターンだとあんたの名前も教えてくれるんじゃないのか」
「はあ、はあ。えっ! ヒロトは私のこと知っていたんじゃないの?」
「どういうことだ」
「はあ、はあ。カリンって言ってたじゃない」
「えっ? 本当にカリンって言うのか」
適当に、公園で見た花の名前を言っただけなんだが。
「はお、はあ。ど、どうしてカリンって呼んだの」
カリンが息絶え絶えなので、歩くよう促す。ここまでくれば余裕で間に合うだろう。
「何となく公園で見かけた花梨の花のようなイメージが合うなと思って」
「花梨の花? 私は見たことないけど後で調べて見るわ」
花言葉とか変なやつじゃないよな。俺も後で調べておこう。
「ふふふ」
急にカリンが笑いだした。
「ヒロトが普通に話してくれるのが嬉しくて」
「どういうことだ」
カリンの言っている意味がわからない。
そして俺達はアルメリア学園の正門についた。
「いいのよわからなくて。けどもし一緒に入学できたらまた普通に話しかけてね」
「よくわからないけど入学したら普通に話しかければいいんだろ」
俺の答えにカリンは笑顔になる。
「ありがとう。じゃあ私行くね。ヒロト試験頑張ってね」
「カリンもな」
こうして俺達は別れた。
アルメリア学園はマンモス校だから試験会場がいくつにも分かれている。
俺は何とか5分前に会場に着くことができた。
「兄さん」
「おお、ユウト」
ユウトが駆け寄ってくる。
「何かあったの?」
「ちょっと道に迷ってな」
自宅から近い場所で迷う訳がない。ユウトには嘘だと分かっているだろう。
「そっか。間に合ってよかったよ」
嘘だと分かっていても俺に話を合わせてくれるできた弟だ。
「兄さんはたまに迷子になるからね。朝眠そうだったから僕は公園のベンチで寝てるかと思ったよ」
弟よ。まさか本当に道に迷ったと思っているのか。
しかも入学試験の日に公園で寝るなんてありえないだろ。
周りの奴らがひそひそと話しだす。
「あの人試験当日に公園で寝てたの」
「テストなんて楽勝っていいたいのか」
「いや、記念受験に来たんじゃないの」
まずい。周りに誤解を与えている。
このままでは入学しても俺の学園ライフに赤色信号が灯ってしまう。
「ユウト。迷ったんじゃなくて、女の子がナンパ師に言い寄られて困っていたから、たまたま通りかかった俺が助けたんだ」
何か自慢しているみたいで恥ずかしいぞ。
「最初からそう言ってよ。兄さんが女の子と男の人達を追いかけている所を僕も見ていたんだから」
ユウトは見ていたのか。ということはサクラも。
「えっ? なにあの人良い人じゃん」
「試験日にわざわざトラブルに飛び込むなんてありえないぜ」
「人は見かけによらないわね」
悪かったな。見かけによらないことをして。
ユウトは周りの声を聞いて満足そうにしている。
わざと俺の口から言わせるように仕向けたな。
「それでは席について下さい。これよりアルメリア学園入試試験を行います」
どうやら試験管が来たようだ。
「兄さん、頑張ろうね」
「ユウトも頑張れよ」
こうしてアルメリア学園の入試試験が始まった。