第3話 ナンパ後編
裏切り者には、死あるのみです。
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げっ!
俺がナンパした相手は、アルメリア学園の試験日に、男二人に追われている所を助けたカリンだった。
「ねえヒロト、どこに行くの?」
「お嬢様。何を仰っているのですか」
お嬢様?
「この方は、以前私が悪漢に襲われている所を助けて下さったヒロト様です。何もお礼をせず立ち去ればわが家の恥になります」
お~。なんかお嬢様っいぞ。
「あなたが⋯⋯」
「それに彼との付き合いは、私達にとってマイナスにはならないと思うわ」
「そうですね」
マイナスにはならないってどういうことだ。
「先ほどは失礼しました。私はカリン様の専属メイドのカスミと申します」
「神奈ヒロトです」
メイドさんと話すのは初めてだから緊張するなあ。
「けどお茶を飲むなら私が奢るのが筋かしら? 助けてもらったお礼もしてないし」
「声かけたのはこっちだから、今回は奢らせてくれ」
「助けてくれたことは否定しないのね」
「いやそれは」
「じゃあ行きましょ」
「おい」
カリンはこっちの話を聞かずに喫茶店へと向かってしまう。
どうやら助けたってことを認めてほしいようだ。
俺はカリン達に続いて喫茶店に入る。
「ちょっと待て!」
そうだ、零一のことをすっかり忘れてた。
「ヒロト誰?」
「さあ?」
「そう。関係ない人なら早く行きましょ」
「おい!」
俺の言葉に零一が激昂する。
「なあヒロト、さっき俺達は親友だって言ってたよな?」
「コレクションのことを引き合いに出す親友は俺にはいないな」
「冗談だって」
言っていい冗談と言ってはいけない冗談があることを忘れるな。
「行かないのですか? 行かないなら帰りますよ」
「行きます行きます」
カスミさんが俺達に向かって帰ると言い出したので、零一は慌てて二人を止める。
「ほらヒロト行くぞ」
零一はスキップをする勢いで喫茶店に入っていった。
俺達は四人席に座り、飲み物を注文する。
「ヒロト、この人は?」
「こいつは零一。趣味ナンパ、特技女の子を追いかけること」
「ヒロトくん何を言ってるのかな。僕の趣味は映画鑑賞で特技はサッカーだろ」
零一は俺の肩をおもいっきり掴みながら訂正する。
「それより二人は親しげな感じだけど、知り合いだったのか」
「そうよ。私が悪漢二人に追われている所を助けてもらったの」
「何だその羨ましい展開は。くそっ! その役目代わってほしかったぜ」
「私が逃げてる時に、何人もの人とすれ違ったけど、気にしてくれたのはヒロトだけよ。そういうしがらみもなく私を助けてくれて、本当に嬉しかった」
素直に礼を言われると照れるな。
「ただ、一つ疑問に思ってたんだけど、何であの時魔法を使わなかったんだ。カリンは魔族か天族だろ?」
「私は魔族よ。魔法を使って、もし問題を起こしたら立場上困るのよね」
「お嬢様も大変だな」
「ちなみにお嬢様が本気で魔法を使えば、この辺り一帯が更地になりますのでお二人とも言動には注意してください」
「えっ? まじで」
俺と零一はカリンが魔法をぶっぱなした時のことを想像して震える。
「カスミ止めてよ。二人とも怖がっちゃったじゃない」
「いや、怖がってないよ。なあヒロト」
「そうだな」
俺は化け物みたいな人を三人知っているから、そこまで怖くないけど、零一に取っては恐怖かもしれないな。
「可愛いは正義だから、魔法が強かろうが弱かろうが関係ないよな」
訂正する。零一は可愛いければなんでもいいみたいだ。
「カスミさんは趣味とか特技は何かありますか」
あまり会話に参加していないカスミさんに零一が話題を振る。
零一はこういう時、気づかいが出きるやつなんだよな。
「私の趣味は仕事です」
「趣味が仕事って人は、自分の仕事に誇りを持っていて、かっこいいですね」
お前は可愛ければなんでもいいんだろ。
「メイドさんの仕事ってどんなことをやるんですか?」
「お嬢様のお世話と補佐、それに炊事、洗濯、清掃、料理を作ったり、後は街を歩いているとき、お嬢様をナンパしてくる不届き者から護衛する役目もあります」
これってまさか俺達のことを言ってるんじゃないよな?
「と、特技はなんですか」
それでも零一はめげずに質問をする。
「格闘術です。ナイフの扱いが得意なのですが、まだ披露したことがないので、一度誰かを切り刻んでみたいです」
そう言ってカスミさんはスカートの中からナイフを取り出して、ナイフを舌舐めずりする。
ヒィッ!
この人俺達を殺るつもりだ。
「冗談です」
な、なんだ冗談か。けど今、本当にカスミさんから殺気を感じたぞ。
「い、今の冗談面白かったよな。ヒロト」
俺としては今のは笑えない冗談だったけどな。
たぶんカスミさんは、俺達がカリンに手を出したら本当にナイフで殺る気がする。
俺と零一の様子を見て、面白かったのか、カリンは笑っている。
「それにしても、ヒロトがナンパするような人だとは思わなかったなあ」
このままだとカリンに、俺がいつもナンパしているようなやつだと思われてしまうから、訂正しないと。
「そうなんですよ。今日もこいつに無理やり誘われて」
零一が俺を裏切る。
「嘘つくな。お前が恋の魔法に落ちとか言って、俺に無理矢理ナンパさせたんだろうが」
「俺がそんなこと言うわけないだろ。それにカリンさんに声をかけたのはヒロトじゃないか」
こいつ、自分はナンパをするチャラいやつだと思われたくないからって、俺のせいにしてきやがった。
「あ~あ。ヒロトのことちょっとかっこいいなって思ってたのに幻滅しちゃったな」
「そうですお嬢様。こんな軽薄そうな男と話してはいけません」
完全に二人に誤解された。まさか零一が裏切るとは思わなかった。いや、こいつは女の子のことに関しては、最初からこういうやつだったな。
「うふふ。二人は本当に面白いわね」
カリンは俺達のやり取りを見て笑い始めた、
「実は、二人が私達に声をかける前のやり取りは聞こえてたのよ」
「えっ!」
「天族と魔族って、人族より耳がいいから覚えておいた方がいいわ。零一くん、嘘ついたらダメなんだからね」
ふっふっふ。零一は自分で墓穴を掘ってカリンの好感度を下げたようだ。
「ちくしょう」
零一は項垂れているが同情はしない。するはずがない。
俺は勝ち誇った笑みを零一に向ける。
「それとヒロト。どんなコレクションか想像はできるけど、エッチな物はダメなんだから」
お、俺のことも聞かれていたのか。
今度は零一が俺に向けてゲスい笑みを浮かべてくる。
「一人だけ良い風に思われるようとするなんて、甘いよヒロトくん」
くそう。これでカリンとカスミさんには、俺と零一は同類だと思われたな。
「お嬢様。そろそろお時間です」
「楽しい時間は過ぎるのが早いわね」
どうやらカリンは、これから用事があるみたいだ。
会計は最初に話していた通り俺と零一が支払い、俺達は喫茶店を出る。
「今日は楽しかったわ。また機会があったら誘ってね」
「絶対誘います」
「それではお二人とも失礼します」
カリンとカスミさんは俺達に背を向けて歩いていく。
「今日カリンさんやカスミさんと話したことを俺は忘れない」
「俺は零一に裏切られたことを忘れないぞ」
もう絶対ナンパなんかしないからな。
そんな話をしていると、カリンが俺達の方を振り向いて大きな声で問いかけてきた。
「そうだ。ヒロトはアルメリア学園の試験に合格したの」
俺は大声で返答する。
「合格したぞ。カリンはどうだった」
その時カリンは言葉では返答せず、両手で大きな丸を作った。




