第11話 ストーカー
卒業式に告白。いいですね。
今日は俺たちの中学の卒業式だ。
だが俺にとってはいつも通りの日常で、卒業式が終わって待っている後輩がいるわけでもなく、告白されるわけでもない。
しかしそうじゃない人種もいる。
ユウト、サクラ、そしてなぜか零一だ。
三人は先ほどからひっきりなしに同級生や後輩から人気のない所に呼ばれている。
おそらく告白されているのだ。
人気者達は大変だな。卒業に思いをふける時間もなさそうだ。
うらやましいかって? 全然うらやましくないね。
ユウトと同じ顔なのになぜモテないとか、なぜスケコマシの零一が告白されて俺はされないのだ。なんてことは1マイクロも思ってない。
ほ、本当だからな。
「あの~」
きた!
「なんだい」
俺はなるべく優しく答える。
「ユウト先輩、ちょっとお時間を、あっ! すみません間違えました」
俺は去っていく後輩の姿を呆然と見送る。
このタイミングで後輩から声をかけられる。
ええ期待しましたよ。
告白を!
それなのに、それなのに。
間違えただと!
俺の繊細な心を弄びやがって!
いいさ。どうせ俺なんて。
俺が不貞腐れているとどこからか声が聞こえる。
「ずっと前から好きでした。私と付き合って下さい」
「僕も君のことが好きだったんだ」
二人は抱き合う。
この野郎!
傷心の俺にさらにダメージを与えるつもりか。
そしてまた声が聞こえてくる。
「水無月さん、いやサクラさん。僕と付き合ってくれ」
サクラか。
サクラは見た目が可愛いく、頭も良い優等生タイプだ。それでいて皆に優しくて(俺以外に)気配りも出きるから、この三年間で数えきれないくらい告白されてると零一から聞いている。
一時期、ユウトと付き合っていると噂されていたが、当の本人であるユウトが否定したので、今はその噂はなくなっている。
俺は物影に隠れて告白の様子を伺う。
「⋯⋯ごめんなさい。あなたとは付き合えません」
やっぱりか。サクラは告白されても今まで恋人を作ったことがないからな。
「えっ? なんでだよ」
サクラの答えを男は理解できないようだ。
「お前、僕の方いつも見てたじゃねえか」
「そ、それはあなたからの視線が気になって」
「ふざけるな。お前も僕のことが好きだと思ったから告白したんだぞ」
「そんな事言われても⋯⋯」
よく目があったから、話しかけてきたからなど、男が自分のことを好きだと勘違いするあるあるの内容だな。
「なあ。今は好きじゃなくても必ず好きにさせてみせるから付き合ってくれよ」
男はそう言って迫り、サクラの両肩を掴む。
「い、痛いです」
人の恋路の邪魔をするつもりはないけど、あの男はさすがにやりすぎだ。
俺は落ちているサッカーボールを見つけたので、どこぞのメガネの子供のように男に向かってシュートする。
当たらなくて注意を逸らすくらいはできるだろう。
「いてっ!」
しかし人間やる気になれば出きるもので、ボールは男の頭にクリーンヒットし、サクラはその隙に男から逃れることができた。
俺は再び物影に隠れ、声色を変えて叫ぶ。
「先生こっちです。男が女の子に暴行を加えようとしています」
その声に男の体はビクッと震える。
「く、くそっ!」
そして男はサクラの方を睨み逃げ出していった。
今の俺の叫び声を聞いて、人が駆けつけてきたのでサクラはもう大丈夫だろう。
後は男がサクラのことを、諦めてくれればいいが。
告白も何もない卒業式の帰り道。
帰宅するために家に向かっていると、電柱とかに隠れて歩いている不審者を見つける。
あれはさっきサクラに告白してきた男じゃないか。
男の先に視線を向けるとサクラが歩いている。
おいおい。もうこれはストーカーじゃないか。お前みたいな奴でも捕まるとサクラは悲しむぞ。
はぁ~。しょうがないなあ。
俺は溜め息をつき、男とサクラの間へと移動する。
「何? ついてこないでよ」
「俺も帰り道はこっちだからな」
案の定サクラに気づかれ、嫌がられる。
後ろの男は俺が現れたことによって、今以上に距離を取る。
頼むからそのまま帰ってくれよ。
しかし俺の願いも虚しく男はストーカー行為を続けている。
サクラは早歩きで進み出したので、俺もその歩行スピードに合わせる。
「ちょっとなんなの? ついてこないでって言ってるでしょ」
「たまたま歩くスピードが一緒になっただけだ。気にするな」
サクラが俺を睨みつけ、無言で歩いて行く。
どうやら俺を無視することにしたようだ。
そのまま俺はサクラと5メートルの距離を保って歩く、そして自宅へと到着した。
俺はサクラが自宅に入ったのを見計らって、後ろをついてきたストーカーの所へ向かう。
ストーカーは俺と目が合うと立ち去ろうとしたが、俺は腕を掴み逃がさない。
「お前何? サクラに用があるの」
「いや、別に」
ストーカーの手が震え始める。
「学校からつけてきてるのはわかってんだよ。ストーカーかお前」
「あいつが悪い、あいつが悪い。俺は悪くない」
ストーカーがぶつぶつと言い始める。
「お前振られたなら大人しく引き下がれよ。もしこれ以上サクラに近づくなら」
本当はぶん殴りたいが我慢して、ポケットに入っているコインを、ストーカーの前で親指と人差し指でグニャリと曲げて見せた。
「お前の腕がこうなるからな」
「ヒィッ!」
ストーカーは恐怖の表情を浮かべ、一目散に逃げ出していく。
これでもうサクラのストーカーをすることはないだろう。
この時俺は気づかなかったが、自宅の2階からストーカーとのやりとりを見ている者がいた。
 




