『女騎士』を人体爆弾に変える能力を得たので今からゴブリン共を殲滅して笑うから見てろ
睦月が姫騎士を描こうとしたらただのタイチになってしまった。
何故だよ……。
「くっ……殺せ」
その洞窟の中で女騎士は目尻に涙を溜めながらそう呟いた。
女騎士の視線の先には緑色の肌の小人、ゴブリン達が下品な笑みを浮かべていた。
女騎士はゴブリン討伐隊のメンバーの一人である。近年活動が活発になった事を受け、征伐に向かったところゴブリン達に捕縛され今に至る。
とは言え女騎士が弱かった訳ではない。ただ、洞窟という場所に対し、支給された装備が余りにも不適切であったのだ。
女騎士が身に纏うのは血で汚れた機動性を殺す様な鉄鎧。そして、とうに奪われてしまった武器は洞窟内では取り回しが難しいロングソード。
これでは捕縛されて当然と言えた。
何でも異世界から来た全知全能と誉れ高い勇者様がこれらを装備し、且つ少人数で洞窟に送るように指示を出したらしいが、結果はこれである。
悪名高い魔王を打倒し、世に平穏を与えたからと言ってこれは余りにも愚かな采配だと言えた。
「グヒヒ……」
生臭い息が近付く。恐らく、自分の鎧を剥ぎ取り、苗床にするつもりなのだろう。
ああ、全く、鎧とロングソードと苗床、ゴブリン達にとってはこれ以上ない貢ぎ物だろう。
何か一矢報いたいところではあるが、しかし悲しいかな、身体は縛られており武器も無い。おまけに眼前には息を荒げ、女騎士を犯そうといきり立つ屈強なゴブリンの雄達が勢揃い。
「グ……グガガガガガッ!!」
リーダーと思しき個体の号令で縛られた女騎士の元にゴブリンが殺到する。
瞬く間に女騎士の衣服は引き裂かれ、組み敷かれてしまう。万事休す。ジ・エンドだ。
「だ、誰か私を殺せぇぇぇぇぇッッ!!」
女騎士がそう叫んだ瞬間。
「ほいっ。言質は取ったよ。お疲れ様」
洞窟の入り口付近で誰かがそう応えた。
「……は?」
そして次の瞬間――大★爆★発!!
女騎士の眼球は炸裂し、腕は爆ぜ、脳漿は瞬く間に発火する。
女騎士を犯すべく集ったゴブリン達は一匹残らず灰燼と帰した。
外道!! 余りにも外道!! 人道に反した炸裂!!
「はい、たった一人でゴブリン掃討お疲れ様。僕はやれると信じてたよ。本当、ンホォォォォナさん、だったけな。取り敢えず二階級特進、おめでとさん」
静まり返った洞窟でケラケラと愉しげに笑うのは黒髪の男。彼が、彼こそがこの世界を救った英雄!! 勇者タイチだった!!
「いやはや、奴らもバカだねぇ……苗床がロングソード……いや、鴨がネギ背負って来る訳ないじゃん。ヴァァァァカ!!」
先程の女騎士の爆発は彼のユニークスキル、『女騎士を人体爆弾に変える』によるものだった。
そう、彼は女騎士を最初から生贄にするつもりまんまんで彼女達の装備を考案し、ここまで送り込んだのだ。
「いやぁ、やっぱ王国って最高だわ。なんて言ったって、女騎士沢山あるしね。一人とゴブリンを殺すだけで名声が高まる。堪らないね」
ふと、ゴソと静かな洞窟に異音が響いた。それは鉄鎧を退かす音。
そこから現れたのは――ゴブリン。
「あー。成る程、死んでなかった訳だねぇ」
「ギ、ギザマ、……ナガマデハ、ナガッダノカ!!?」
「その上人語を解すと。成る程厄介厄介」
ゴブリンは怒りを露わにするが勇者は気にもとめない。
「ゴダエロッ!! ギザマ!! ナゼ、オンナ、ゴロジダ!!」
「いや、だって生かしたら増えるでしょ君タチ。だったら殺すしかない。仕方なかったんだよ」
「ギザマ!! ゾレデモニンゲンカッ!!」
その言葉で漸く飄々とした勇者の表情が変わる。
細めた目はどこまでも冷たく、万物を射抜くかのような鋭さがあった。
「僕は人間だよ。どうしようもなく人間さぁ。寧ろ人間代表と言っても良い」
例えば――と勇者は続ける。
「もしゴブリンが村を襲えば、ゴブリンは増加して、人が沢山死ぬ。これじゃぁ人の世はオシマイだぁ。バッドエンドだ。残念、無念、また来世ってね。けど、一人の殺害を許容して君タチを皆殺しに出来るなら。それは人類にとって最高の結末だと思わないのかい?」
「ゲドウ!! オデタチガムラオソウノハ、ミヲマモルタメダ!! コヲナスタメダ!!」
「それがダメなんだよ。分からないかなぁ。もっと賢く生きよう」
「ギザマ、ゼツメツシロ、トイウカ!!」
「そうそう賢い賢い。って訳で、君タチは絶滅して欲しいなぁ、なんて思っちゃったり言っちゃったり。……まぁ、君タチには同情するよ。可哀想だねぇ、本当に、本当に可哀想だ」
「イノチノボウトクダ!! 『カミ』ノボウトクダ!!」
「神様なんて……僕としては糞食らえだよ。じゃ、コレは餞別」
勇者は虚空に手を突っ込んだ。勇者の特権、マジックバッグだ。
そしてゴソゴソと内部を漁りそれを取り出す。
――それは胎児の死体。
しかし、その腕には小さな腕章が縫い付けられている。
「実はこの子、国王に認められた正式な女騎士なんだ。死体だけど、僕が一言王様に言ったら騎士ってことにして貰えたんだ。つまりコレは――君タチが犯そうとした女騎士の死体と言っても良い。コレをプレゼントだよ」
そう言うと勇者はポイッと胎児の死体――いや、女騎士の死体をゴブリンの元へと投げた。
「じゃあね。サヨナラ、だ」
勇者は振り返らない。勇者がするのは一つだけ。
右手を掲げ、指パッチン。
すると聞こえて来るのは腹に響くような爆発音と絹を裂くような絶叫。
「可哀想だねぇ本当……可哀想過ぎて、笑えてきちゃうよ」
ゴブリン。それは雄しか存在せず、生殖の為に他の種族の雌を必要とする――奉仕種族。
そう、奉仕種族。
力で劣り、全体として知能の低い彼等はそれでも元は奉仕種族なのだ。
他種族に対し、単純労働を支払うことで意義を見出し、それ故に生きながらえる種族。それこそがゴブリン。
「でも、きっと見た目で拒絶されまくったんだろうね。結果、村を襲わないと生きられなくなった。で、そうすると種族間の関係はより悪化して今に至ると。本当、悲しい話だよ」
洞窟を後にした勇者は目元を押さえながら大笑する。悲しいと宣いながらも、尚笑い続ける。
そして、二つの瞳を、爛々と輝かせながら高らかに叫ぶ。
「ヴァァァァカ!!」
愚かな人間共に、哀れなゴブリン共に、そして、今も嗤っているであろう神に届けと――。
「皆んな、皆んな、ヴァァァァカ!!」
その時、勇者の額には、燃えるような三つ目の眼が現れていた。