1 ホームセンターは異世界に!
H県某所。
そこは夜になると街頭も少なく、人気もほとんどなくなるほどの田舎町。
しかし21時になる頃、街で一ヶ所だけ明かりを放つ建物があった。
「ありがとうございました!!」
ふぅ……。これで今日は終わりだな。
店の中から最後の客が出ていったのを確認した店員が、店の入り口のカギを閉め、店内の明かりを落とすと奥の事務所へ戻り今日の売り上げや在庫の整理を行い始める。
店員はいつものようにそれらの業務を行い、その全てを終えるころにはいつものように11時を回ろうとしていた。
ここは村で唯一の大型小売店。いわゆるホームセンターと言われるものだ。
俺の名前は梶野 真25歳。このホームセンターのオーナーだ。
まぁ、オーナーと言っても一年前に親父から受け継いだばかりなんだけどな……。
このホームセンターは、体育館ほどの大きさで一般的なホームセンターよりは小型だがこの地域には十分すぎるほどの広さに品揃えだ。
案の定、この店は常に大赤字。ただ親父は他にも多くの事業を行っておりそれらの利益はこの店の損益を補って余りある。
ここもそんな親父の昔からの夢、生まれ育った村にホームセンターを作りたいというちょっと何言ってるか分かんないもののお陰?で建てられたらしい……。
だが親父は殆どこの村にはいない。そのため農業大学卒業後、就職したが2年で出戻ってきた俺にこの店を任せたということだ。
やれやれ……まさか一年前はホームセンターのオーナーになるなんて夢にも思わなかったな。
ふぅ…。俺は手に持っていたペンを置き、パソコンの電源を落とすと最早自分の家と化している事務所の奥の部屋に移動した。
そこはベッドからシャワールーム、果てにはゲーム機器とまさに何でもありの部屋。
俺は服を着替えソファーに腰かけいつものようにゲーム機の電源を付けた。
(RPGゲーム アリストファンタジア。)
「えっと、昨日はどこまでやったけな。」
このアリストファンタジアは全世界で5000万以上と言われるほどの売り上げを記録した大人気ゲームだ。
これを仕事終わりにするのが今の俺の唯一の楽しみなのである。
「あぁー、今日は魔帝討伐だったか。それにしてもこれもやり尽くして飽きて来たなぁ……。そろそろ新しいものでも買うか? なんてな……。」
そうは言いながらも真はコントローラーを握る手の力を緩めない。
しばらくすると、魔王は呆気なく真の操るキャラに倒された。
その後、暗い部屋の中は流れるスタッフロールで照らされるが日頃の疲れの為か、真はいつの間にか深い眠りについてしまっていたのだった。
すると流れるスタッフロールにいつもとは違う画面が移り、ホームセンターを包み込むように光が発生し店全体が震えるという異変が起こり始めるが、よだれを垂らし眠り続ける真がそのことを知る由もなかった。
、
「…………はっ!!!!!!」
ガバッ! 俺はスマホのアラートで目を覚ました。
どうやらいつの間にか眠ってしまっていたらしい……。ソファーで寝ていたため体中が痛い。
だが、その程度で店を開けない訳にはいかないからな。
「うーん、6時か。そろそろ開店の準備をしないといけないな。」
俺は未だ上手く開かない左目をこすりながら立ち上がり、いつものように隣の事務所の電気をつける。
しかしここで真は少しの違和感を覚えたのだった。
最初は何か分からなかった真だが、しばらく事務所内を見渡したことで違和感の正体にようやく気が付いた。
……そうだ!! 自動車の音が聞こえない!!
いつもこの時間になれば仕入れの業者のトラックや、畑に向かう村の人達の自動車の音が聞こえていた。
でも今はそれどころか、外からは何も音が聞こえてこない。
なんだ? 前の道路が通行止めにもなっているんだろうか??
俺は少しの不安を覚えつつ、事務所を出ると店内の電気をつけた。
するとそれまで真っ暗だった店内は一気に明かりに包まれる。
その光景はこの一年見てきたものと全く同じであり、俺はそのことにこの店のオーナーになってから初めてホッとするのだった。
なんだ、やっぱり俺の勘違いだったんだよ。
さぁ、それじゃあ店の入り口を開けるとするか! そろそろパートの人達も来るだろうしな。
ガラガラガラッ……。 真は笑みを浮かべると、入り口のカギを開け更に外のシャッターを開けていく。
だがそのシャッターが開ききった瞬間、真の目の前に信じられない光景が飛び込んできた。
そこには見慣れたアスファルトで舗装された駐車場、道路ではなく、ただただ果てしなく続く田畑が広がっていたのだった。
「……えっ?? なにこれ??? えっと、俺まだ寝ぼけてるのか?」
ギュゥ。真は思わず一度は漫画やアニメで見たことがあるであろう場面、夢かを確かめるために右頬を力いっぱい捻るという定番の行為を行った。
ただ、自分の頬に伝わる痛みがこれは夢ではないことを物語っており、バカバカしい先ほどの行為に少し笑みを浮かべた真の表情はみるみる険しいものになっていった。
これは夢じゃないのか?? だ、だめだ。一回深呼吸だ……。
ふぅ……、ふぅ……。
よ、よし。まずは一体何が起きているのかを把握しないと……。
スマホは……。
俺は急いでパンツのポケットに入れていたスマホを手に取った、
その画面にはいつものようにアリストファンタジアの待ち受け、そして時間が表示されている。
ただ、電波は全く通っておらず、どこにも電話を送ることは出来なかった。
そ、そんな……。スマホも通じない、ここがどこかも分からない。
これから一体何をどうすれば……。
「あのぉ……。」
しかしその瞬間、頭を抱えしゃがみ込んでいた俺の背後から人の声がした。
俺は藁にもすがる思いですぐにその声に振り返ると、そこには1人の少女が立っておりこちらを心配そうに見つめていたのである。
なんだこの子……。銀の髪に青い目。見るからに日本人じゃない!
あれ、でもさっきこの子の言葉が分かったような……。
「あの、大丈夫ですか??」
「は、はい!!!」
やっぱりだ! この子の言葉が日本語で聞こえる!!
俺はよく分からないながらもこれはチャンスとばかりに、目の前の少女にいくつもの質問をぶつけた。
その全てに少女は丁寧に、ゆっくりと答えてくれるのだった。
「す、すみません! 怪しいものではないんです! ただ、気が付いたらここにいて……。あの、ここは一体どこなんですか??」
「えっと……、ここはシューストヘッグ王国にあるマリン村です。 私はマリン村を預かる貴族の娘 ユイ・ミストと申します。」
ニコッ。ユイは得体のしれない俺にも笑みを浮かべ頭を下げてみせた。
ただ俺の背後にあるホームセンターが気になるのか、何度もそちらへと視線を向けては逸らし、向けては逸らしを繰り返す。
そしてついに我慢できなくなったよう、俺へと口を開いた。
「あ、あの!」
「な、何でしょうか??」
「その美しい建物は何なのですか?? それにいくつも野菜の苗もあるようですが、どれも見たことがない物ばかりで……」
ユイはホームセンターの入り口付近に置かれているいくつもの野菜の苗に駆け寄り、その全てを食い入るように見つめていった。
トマトを見たことがないのか?? キュウリも、ナスも、ピーマンも??
今頃そんな人がいる者なのだろうか?? 益々謎が深まるばかりだ……。
「きゃぁ!!!」
「ど、どうしました???」
俺がユイの言葉に考え込んでいると、突然野菜や花の苗を見ていたユイが声を上げ大きく尻もちをつく。
どうやら何かに驚いているらしく、俺が側に駆け寄ってきたのを確認したユイは俺の後ろに周り目の前を指差した。
そこにはシャワーホースが転がっており、どうやら突然水が出たことの驚いたようだ。
「あぁ、これはシャワーホースと言って苗に水を与えるのに使うんですよ。」
「しゃわーほーす? 聞いたこともありません……。まさか水魔法が組み込まれているとは……。」
水魔法?? 何かのゲームか??
たかがホースから水が出たくらいでそこまで驚くものだろうか?
それにしてもトマトも見たことない、シャワーホースも見たことない。
この子、一体何者なんだ??
しかしそこで真はユイが話した言葉を思い出した。
「ちょっと待てよ……? この人、確かシューストヘッグって言ったよな?? それにマリン村に水魔法……。おいおいおい、それってまさか……。」
「お嬢様ー!! どこにおられますか???」
「あ、爺!! ここよ、ここ!!!!」
「お嬢様! 勝手に出歩かれては困り……、貴様何奴だ!!!」
ジャキッ!! 真が聞き覚えのあるユイの言葉に表情を曇らせていると、馬に乗った髭を生やしや初老の男性が声を上げ近づいてくる。
その男性はユイの声でこちらに気が付くが、見慣れない巨大な建造物に、ユイの側にいる真の姿を確認するや否や腰の剣を抜き一気に馬を走らせ真の側まで移動。
その剣先を真の首元へと向けたのだった。
しかしこれにはユイが怒りの声を上げる。
「何してるの!! 剣をしまいなさい!!」
「で、ですがお嬢様。このような奇怪な建物に見た事もない人間。あなたの命に危険があるやも……」
「この方はそのような方ではない! いいから剣を下ろしなさい! これは命令です!!!」
「しょ、承知いたしました……。」
キンッ。男性はユイの言葉を受け、ようやく剣を収め馬から降りた。
しかしこの一連の出来事に、当の真はようやくある仮説に辿り着いたのだった。
あの男性のマントの紋様……、やっぱりそうだ……!!
「俺、アリストファンタジアの世界に来てる…………。」
こうして真の不思議な二度目の人生が幕を開けるのだった。




