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場所取り

作者: 日下部良介

出遅れた…。



ここ最近の暖かさに桜の蕾が急に膨らみ始めた。

「よし、明日辺り花見でもやるか!」

社長が号令を発した。

「いいっすねぇ。誰か場所取りやんねぇ?」

腰巾着の同僚が辺りを見回す。

そんな会話が聞こえてきた途端、欠伸していた連中が急にキーボードを叩き始めた。

「お前、暇そうだな」

タイミングを逃したボクの肩にヤツがポンと手を置いた。

「じゃあ、頼むな。明日は会社には来なくていいから。いい場所を取っておいてくれよ」

社長にそう言われたら、もう選択肢はない。


あてがわれたブルーシートを手に桜の名所と言われる公園へやって来た。

「たかが花見の場所取りで、こんななの…」

目ぼしい場所には既にシートが張ららていて、寝袋にくるまった若い男たちが転がっていた。

出遅れた…。

公園内を何往復もしてみたけれどネコが歩くスペースも無いほどだ。

「あっ!」

いい場所が空いていた。早速、そこにシートを広げる。

「ん?」

なんか臭う…。

「なるほど、そういうことか」

そこはトイレの前だった。

「ま、すぐにトイレに行けるのはいい。他には無いし、ここでいいか」

やることもないし、朝早く起きて来たので、シートの上に横になった。大義を果たした安心感と寝不足から、いつの間にか眠ってしまった。

携帯電話の着信で目が覚めた。腰巾着の同僚からだった。

『お前、どこに居るんだ? もう花見は始まってるぞ』

「えっ?」


皆んなが公園に来た時、ちょうど花見を終えて帰るグループが居たらしい。そこは正に花見にはもってこいの場所だった。腰巾着の同僚がそこを譲ってもらい花見を始めたのだとか。

ボクは何のために場所取りに来たんだ…。しかも、あんなに臭う場所で。


合流したボクに社長が声を掛けた。

「お前、なんか臭うぞ。疲れているみたいだし、今日はもう、帰っていいぞ」

手柄を立てた家臣のように花見の輪の中心で踏ん反り返っている同僚を見て怒りが込み上げてきた。こいつと出会ったのが人生最大の過ちだった。

ふざけるな!

心の中で叫んで、ボクは公園を後にした。

混み合う電車の中でボクの周りだけは空いていた。



花冷えの

青いシートと

青い空

服に染み込む

あの臭いなり



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