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魔法少女29  作者: なおさん
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呑んで呑んで飲まれて呑んだ

「夕島先生、そんなに飲んだら身体に悪いんじゃ……」


 大手チェーンの大衆居酒屋で、公立中学に教諭として勤める夕島穂奈美は同僚達と飲んでいた。すでにできあがっている穂奈美の前には生ビールのジョッキがいくつも並び、すっかり目が据わっている。

 後輩の同僚、高崎が心配して声をかけるが、他の同僚達は穂奈美の酒癖の悪さを知っているためにスルーの姿勢を決めているようで、高崎に対しても「そっとしておくように」とアイコンタクトを送っているのだが、不幸にも赴任して間もない高崎には、それに気づけるほどのチームワークが同僚との間に確立されていなかった。


「身体に悪い?だぁいじょうぶよ。生徒の事で頭を悩ませる以上に身体に悪いことなんてありゃしないんだから」


 穂奈美は大ジョッキに残っていたビールを一気にあおる。唇の端からこぼれたビールが首筋を流れ落ち、鎖骨をなぞるように滑ると胸の谷間に消えていった。

 緩められたシャツの胸元から見える、かなり大きく張りのある胸と、それを包み押し上げている薄いピンクのブラ。まもなく三十路を迎える女の身体をなぞるように流れ落ちる雫。無意識のうちに目で追いながら、不覚にも高崎はそこへ視線を釘付けにされてしまった。


 アルコールにより火照り、僅かに汗ばんだその谷を見て、視線をそらせる男などそうはいないだろう。その点では高崎は不幸だった。


「……どこみてんのかなぁ?君もクサレ教頭と同じか、高崎君……」


 肉食獣が獲物を狩るときのような眼をしながら、高崎の胸倉を掴んで引き寄せる。慌てて否定する高崎。と、穂奈美は急に深く息を吐くと表情を一変し、瞳を潤ませながら高崎へ身体を摺り寄せる。


「……高崎君も男の子だもんね。……触ってみたい?」


 濡れた唇が高崎の耳元で艶やかに囁く。

 高崎は、押し付けられた胸と上気した頬、耳に吹きかけられる熱い吐息に鼓動を早めながら、コロコロと変わる表情にこの人は猫っぽいなと思う。

 まるで甘えた恋人がするように、腕をからませ顔を寄せてくる真奈美に生唾を飲み込む高崎。

 だが、他の同僚達はこれから起こる惨劇を予想して、二人から離れた位置へテーブルを引いていた。

 酒の席とはいえ、この人とキスできるのはならば悪くない。高崎がそう考えた刹那、腕から肩にかけて激痛が走った。


「いてっ!いてぇええ!」


 右腕の肩と肘、そして手首をガッチリと穂奈美に固められ、背中へひねられている。

 高崎の背後から、逃げられないように左腕を取りつつ右腕をねじり上げていく。背中に穂奈美の胸が押し付けられているが、すでに高崎には喜んでいる余裕はなかった。



「……そうなんです。この間うちのクラスに転入してきた周防君。大人しくて可愛い子なんですけど、間が悪いみたいで。人付き合いも苦手みたいだし……」


 腕を押さえて半泣きになりながら同僚達に慰められている高崎を尻目に、穂奈美は手羽先を片手に溜息をつく。先ほどまで高崎を弄んでいた時とは打って変わって、母性を色濃く出した表情をしている。


「もう五月ですからねぇ……。仲の良いグループは出来上がってしまっているでしょうな」


 高崎が泣き出す前に、カウントをとりブレイクを入れて彼を救った同僚の老教師が頷き、穂奈美のグラスにビールを注いだ。


「あ、すみません」


 ペコリと頭を下げ、一息に飲み干す。


「そうなんですよねぇ。一月前なら条件は同じだったのに。何かクラスに溶け込めるようになるイベントでも考えたほうがいいんでしょうか?」


 穂奈美は空になったグラスをくるくると回しながら、溜息をついた。


「まぁ、心配する事はありませんよ。子供というのは我々と違って柔軟にできていますからな。日直等で他の生徒と組んで話さなければいけない事もあるでしょうし、一月もすれば溶け込んでいると思いますよ」


 再び穂奈美のグラスへビールを注ぐと、自分は別途注文した清酒をちびりと口に含んだ。


「何かしないと気になると言うなら、一度先生のほうから話を聞いてやってはどうです?」

 老教師の笑みにつられるように、穂奈美は「そうですね……そうします」と、頷き笑みを返した。


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