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第5話:魔王様のごり押し大作戦

反乱軍アジト

「思ったより強いな」

「リード様」

 魔王が第2都市の近くまで迫る。そうすると魔力を感じ取ったリードが、突然そう呟いた。

 そのリードを副官の女性が心配そうに見つめる。彼女はリードの弟子でもある魔女である。しかし、リードほどの力はない。魔力をリードほど正確に感じ取ることは出来なかった。

「君には分からないか、とんでもない化け物が来るぞ」


同時刻

「ふっ、人間にしてはやりますね」

 リュシカを背中に乗せた側近がそう呟いた。側近も同様に強者の存在を感じ取っていた。


「側近もそう思う?」

「魔王様でも分かるんですか?」

「……あのさ、私って一応魔王なんだが」

「そういえば、そうでしたね」

 魔王を舐めきっている側近には、魔王がこの強者特有の抑えきれない微力な魔力を感じ取れるとは全く思っていなかった。


「この程度のことは、ここからでも分かる」

「……失礼しました魔王様」

 側近は魔王の言葉に謝罪の言葉で返す。しかし、側近は何も悪くなかった。

 リュシカの意識の先は人間になど向いていなかった。その視線は第2都市に広がっている果樹園へと向かっていた。満開になった花々は、これから1か月後に実をつけて収穫を待つことになるイリスの実の木たちである。それをリュシカは見ていたのである。つまり、強者の存在などリュシカは感じ取っていない。

 そもそもリュシカは相手の強さを正確に測る技能など持ち合わせていなかった。

中々立派な果樹園だな、やるな人間くらいに、どこまでもマイペースにリュシカは思っていたのである。


反乱軍のアジトから、何人かの人間が出てきてこれから着陸しようとしている竜を囲もうとしていた。彼らは反乱軍の最精鋭である。

 そんな精鋭たちを意に返すことなく側近は徐々に高度を下げていく。その視線に捉えているのはたった1人、反乱軍のリーダーであるリードだけである。側近はその他大勢は雑魚として視界にすら入れていなかった。

 リードもまた静かな眼光で、側近を見ていた。両者の間に火花が散る中、リュシカが側近の背中から飛びおり、リードと相対する。


「反乱軍のリーダーは誰かな?」

「はあ?」

 人間形態に戻るとともに器用にメイド服を制作した側近は、魔王のその発言に耳を疑った。先ほどの分かっていますオーラーは何だったのかと、期待して損した気分だった。誰が見ても一目瞭然である、1人の人間だけ纏っている魔力と雰囲気が違う。


「私がリーダーだが、あなたが勇者殿かな?」

 青筋を立てながら、それでもおだやかな声音を作ってリードが名乗り出た。

 そのリードをリュシカが値踏みするように見つめた。


「私は騙されないぞ。人間のリーダー格というのは綺麗な服を着て、アホみたいに宝石を付けて着飾るんだ。この国の王は10の指全てに指輪を付け、服は金の糸で創意の限りを尽くして装飾していた。だが、その男は何だ?みすぼらしいじゃないか?」

 リードの服はリュシカの言うように、お世辞にも立派とは言えなかった。しかし、リードにとっては、先代たちから受け継いできた大魔導士のローブである。それが、初対面の何も知らない餓鬼から馬鹿にされたのである。心中穏やかであるはずがなかった。

 だが、その配下には不届き物もいる。臭かったんだよなあのローブと、リュシカに納得するものもいたのである。空気を読むと言うのは常に正しい訳ではない。


「確かにみすぼらしい格好をしているが、この方こそ大魔導士にして反乱軍のリーダー、リード様だ」

 副官は天然だったので、空気も読まずにそう発言する。空気を常に読むべきではないが、読まねばいけない時もある。副官はリードから鋭い眼光で睨みつけられた。


「成る程。みすぼらしい格好をしているもリーダーもいるのか?」

「そういう勇者殿は、随分立派な格好をしているな」

 リードはリュシカの格好を見てそう称す。リュシカは魔法で出来た上等な絹を素材とした服を着ていた。魔法や物理耐性が強く、下手な鎧よりはずっと強い。とても高価な品である。

「担ぐ神輿がみすぼらしかったら、恥をかくのは部下だ」

「ふっ……この国には、服を買う余裕もないのだ」

 リュシカの言葉にリードはそう返答する。部下たちは、あんたは好きでそんな恰好をしているんだろと、心の中で思っていた。


「そうだったのか、流石ですお師匠様。見たか勇者、着飾れば良いと言うものではないのだ」

「そうかな?」

 天然同志の会話は、話をどんどん脱線させていた。


「反乱軍のリーダーになりに来たのでしょう?」

 話が進まないので、側近が小声でリュシカに囁いた。

「そう言えばそうだった。リーダーの座を譲ってもらわないと……」

 リュシカは我に返って、反乱軍のリーダーを指さす。

「私は反乱を止めるために、王の命でここに来た。しかし、君たちと争うつもりはない」

「何だと」

 リュシカの言葉にリードがそう呟き、反乱軍がざわつき始めた。


「では、貴様の目的は何だ?」

 リードの副官である少女が、いち早くリュシカに問う。

「正義だ」

 それは、魔王にあるまじき言葉だった。しかし、リュシカは知っていた、人間とは「正義」が大好きな生き物だと言うことを、そして実際に正義でなくてもよく、正義に見えれば満足するのだ。何とも愚かな生き物である。


「正義だと?」

 それを聞いて、リードがリュシカを訝し気に睨んだ。

「そうだ。勇者とは正義の使徒だ。悪政を働いている王を倒すのという君たちの考え方には賛同している。しかし、何の罪もない姫を人質にとるのは許されない」

「くっ」

 痛いところを付かれて、リードは返す言葉に困る。

「……革命のために犠牲はつきもの。それにあの姫には薄汚い王の血が流れている」

 迷った末に、リードは反感覚悟でそう返す。事実、姫のことを好いている人間は反乱軍の中にもいて、反乱軍がまたざわついていた。

「リードとか言ったな。本当にそう思っているのか?」

 そんな喧騒の中、良く通る声でリュシカがリードに問う。リードは真っ直ぐな目で射貫かれいるのも感じた。リードの中で様々な感情が渦巻く。

「綺麗ごとで、世の中は変わらない」

「確かに、だが理想を語ることもせず、何の信念もないのなら何のための革命だ?」

 リュシカはいつになく饒舌だった。下剋上で魔王になった男である。こういうシチュエーションに非常に強かったのだ。少なからず、明確な意見を持ち合わせていた。


「信念ならある。この国の人間の幸せだ」

「それならば、その1人に姫が入っていないのは何故だ?薄汚い血筋だからか?」

「姫には、新しい王として幸せになっていただくさ」

「お前の傀儡としてか?」

 リードは見透かされているような不気味な感覚がした。


「後ろ盾として我々がいることは否定しない。だが、我々があの王のように民を苦しめる政治は絶対に行わない」

 一瞬の怯みを払拭するようにリードは宣言した。

「民を苦しめないだと?……出来ないことは言うもんじゃない。安い言葉だな、低く見られるぞ」

 リュシカは小馬鹿にしたように、リードに返答する。

「何だと?」

「この群雄割拠の時代に、民を苦しめないなんて不可能だ。君たちの革命が成功したとしても、時代が平和な時を享受しない。魔王の脅威は消えないし、王が変わったといって各国の王が一度した約束を反故にしてくれるか?」

「理想を語って何が悪いんだ」

「実のない理想は、子供の夢物語と一緒だ。するのは勝手だが、組織のトップがするのでは話が違う。トップが夢想家で損をするのはいつでも部下なのさ」

 

凄いな。側近はそう思いながら、リュシカの言葉に感心していた。リュシカの言葉は非常に熱を帯びた熱いものだったのだ。思えば、側近は自分もこのやたら熱い言葉に絆され、側近としてリュシカの下で働くことにしたのを思い出していた。今は金だけの関係であるが、最初は金だけではなかったのである。

 金だけになってしまったのは、リュシカが言葉ばかり熱くて、自分では何もしない愚か者だと気づいたからである。つまり、今の言葉はブーメランであった。

 それを恥ずかしげもなく、さも自分は出来ていますと言う風に言うのだから、一級の詐欺師である。呆れるを通り越し、怒りすら超越して側近はリュシカに感心せざる負えなかった。認めざる負えないことである、他者を先導するのだけは上手いのだ。


「ではどうしろと?」

「私が天に立つ」

 そこにいる全ての人間が固まった。勇者とは全体の奉仕者であり、どこかの国に属することはなく、王の権力も通じない孤立者である。その勇者の常識を討ち破るような、耳を疑うことを言ったのだ。


「天に立つとはどう意味かな?」

 リードはリュシカの真意を問う。

「決まっているだろ。あの王を倒して私が王になる」

「あり得ない。勇者とはどこの国にも属さない。一国に肩入れするなどあってはならない。他の王がそれを許さない」

「魔王と戦おうというものが、たかが人間の王に臆してどうする。それに、王の圧政に苦しんでいる民を見捨てて何が勇者だ。私は助けを求める全てのもののために戦う。そして、そんな人たちのために国を作る」

「国?」

「国?」

 リードだけではない、側近もリュシカの発言に驚きの声を漏らした。全くそんな話を聞いていなかった。ゆえにテンションだけで話しているのは一目瞭然だった。

 いつもリュシカはテンションがあがると出来ないことを言う。側近は週に1度は発作のように、「世界征服したい」と言っているのを聞いていた。


「国?」

 お前も驚くのかよ。側近は小さな声で、自分でも驚いているリュシカを見逃すことなく、そんなことを思った。幸い人間で気づいているものはいないようであった。


「……魔王は確かに恐ろしい。だが、世界には魔王だけではない。信じられないほど強い人間が存在している。勇者殿言うことこそ、絵空事だと思うがな」

 じゃあ、そいつらに魔王倒してもらえよという話であるが、本来の魔王は、煙のような黒いオーラーを放っている。それに触れたら最後人間は一瞬で絶命してしまうのだ。それを唯一払えるのは勇者の聖剣のみ。本来、魔王とは勇者以外ではまともに戦えないのである。リュシカのようなイレギュラーは除かれるが……。

 勇者は強い。しかし、魔王に対して相性が良いだけで人間の中で最強とは必ずしも言えない。もっとも先代は、間違いなく人間の中でも最強だったが……ゆえに、今の魔王は人間たちから恐れられていた。


「勇者殿、あなたにそれだけの強さがあるのか?」

「リード様」

 リードの瞳がリュシカを強くとらえ、リードとリュシカを皆が見守った。


「試して見るか?」

 2人の間に火花が散った。

 心配になった側近がリュシカの横で小声でつぶやく。

「あの人間相当強いですよ。勝てるんですか?」

「たかが人間だろ。聖剣ぶっばなせば一撃よ」

「……もしかして知らないんですか?」

「……何をだ?」

「聖剣って、人間には効きにくいんです。ゆえに勇者は人間の中で必ずしも最強ではない。魔王様は魔王特有の黒いオーラーが出せませんし、何か勝算があるんですか?相当高レベルの魔法使いですよ彼」

「……戦略的撤退だ。急げ」

 逃げようとするリュシカ。この男は逃げ足だけは早いが、行動を先読みした側近に服を掴まれる。

「手遅れです♡」

 側近は実に楽しそうだった。側近の魔族らしい一面である。他者の不幸は蜜の味。魔族は不幸が好きなのだ。


30分後

 驚くべきほどスムーズに、リュシカ対リードの決闘が実現していた。

 当のリュシカ以外は文句を言うものはいない。この決闘で勝った方が反乱軍のリーダーになることを誰しも納得していた。


 リードは、ここ一番用の世界樹の枝で作られた杖を装備している。

 リュシカはというと、顔は無表情であったが心で泣いていた。

 2人だけが地面の上に立っていた。他の人間は。魔法の力で上空に作った透明な足場の上にいる。


「あなたのご主人さま、私のお師匠様に勝てるかしら」

 リードの弟子である副官の女性が側近を煽るように話しかける。

「負けたらそこまでの男だったということだ」

「まるで、負けることを望んでいるようね」

「…………」

 側近は思わずリュシカの退路を断ってしまったことを思い出していた。そして悟る。私はこの男から解放され、自由になりたかったことを。魔界の未来なんてどうでもよい。自分が働かなくて良くなるなら何でも良い。社畜思考がそこにあった。


リュシカは、憎らし気に側近を睨みつつ。まだこの場から逃げることを考えていた。

しかし……


「試合を開始します」

 人間のしきたりに乗っ取って神父が無情にも、決闘の開始を宣言した。

 リュシカとリードを遠巻きに見つめつつ、人間たちの歓声が上がった。歓声の内容は、リード6割、リュシカ4割といったところで、敵地であることを考えると中々人気があった。

 しかし、本人取ってはそんなことは関係ない。

 リュシカは素早く聖剣を鞘から引き抜く。雷音とスパークが発生し聖剣は輝いた。先手必勝の一撃。否、リュシカにはそれしか出来ないだけである。光り輝く聖剣の刀身は数10メートルほど伸び、振り下ろされる一撃。その威力は魔族なら一個師団が壊滅するほどの威力である。


「この程度か?」

「っ!」

 リュシカが見たのは、聖剣を受け止めているリードの姿である。その体をバリアのようなもので覆っていた。

 リュシカの体から力が抜けていく。聖剣を使った後遺症である。

 ここで死ぬのか?

 リュシカの頭に一瞬死の恐怖がよぎった。


「ファイヤーボール」

 リュシカはリードの唱えた呪文を見た。ファイヤーボール何て生易しい火の粉ではない。空から降り注ぐそれは流星群であった。世界樹の杖はただでさえ強いリードの魔力を増幅させ、信じられない威力を生み出した。

 ファイヤーボールはリュシカに直撃した。

「やったか」

 側近がお約束のフラグを立てる。ある意味ナイスアシストである。


「あっつ」

「えっ」

 誰も予想していなかった言葉が返ってきた。


「火傷したらどうするんだ」

 そんな火力ではなかったのは誰が見ても明らかだった。


「炎に対する耐性か。ならば」

 リードは杖で円を描いた。その円は空間に穴を作り1つの魔法が完成した。

「ゲールストリーム」

 突風が刃のようにリュシカを襲う。またもリュシカに直撃し大地を穿って土煙で視界を隠す。


「ゲホゲホ。土が口に入った。誰か水を」

「馬鹿な」

 リードは信じられないものを見た。土煙で何をしたか分からないが、無傷のリュシカがそこにたっていたのだ。


「化け物か貴様、ならば、アシッドウェーブ」

 これだけは使いたくなかったとおもいながら、リードは必殺の魔法を唱えた。水ではなく強い酸の大津波。肉はとけ骨も残らない。


 リュシカは大きな津波が自分を襲おうとしているのを見た。そして後方を確認すると、始めて防御の姿勢をとった。聖剣を津波に向けて放ち。その一撃をかき消した。

 2回の聖剣の利用でリュシカの体から力がさらに抜けていく。


「流石に酸への耐性はないか」

 それを見てリードは満足げに呟いた。炎や風などのメジャーな属性への耐性を獲得するものはいるが、酸への耐性をもつものは少ない。そもそも酸の魔法を使いこなせるものがいないためだ。しかし、リードは別である。この魔法で数々の魔族を葬って来た。水魔法の中でもその威力は別格だ。少し触れただけでも効力を発揮する。


「そんな魔法を使うな」

「それは命乞いか?決闘にそんなものはないぞ。口だけの小僧が」

 リードは怒りを露わにしていた。最初にリュシカに着ている服を馬鹿にされたのが多少なり関係していた。

 普段は温厚な態度を見せているが、凶悪な酸の魔法を使うなどまともな魔法使いのすることではない。それも大魔導士と呼ばれるものならなおさらである。リードは辛い戦争を生き抜いてきた戦士としての一面ももっていた。常に研究にあけくれるだけの陰気な魔法使いではない。


「戦場では命乞いは通じないぞ」

 リードは酸が有効と分かると、杖から水鉄砲のように酸を発射する。

 その酸はあちこちを溶かした。家も地面もまるで関係ない。

「避けるのだけは上手いな」

 リードは良く踊る獲物を見て笑った。


「あなたのご主人様、防戦一方ね。何で反撃しないのかしら」

 副官は、風魔法で作った空中の足場から勇者と師匠の戦いを見ながら側近に問う。

 人間形態に羽だけ生やして、1人飛んでいる側近にはその理由が察することが出来た。なすすべがないだけである。しかし、小ばかにされて腹が立ったので、心にもないことを言う。

「リュシカ様には深い考えがある」

「深い考え、為すすべないようにしか見えないけど」

 副官は、師匠との出会いを思い出す。魔族との戦場で自分を救い出してくれたのは、師匠その人だった。亡き両親の代わりになってくれたリードを誰よりも尊敬していた。そのリードが負けるわけがないと確信をもってみていた。


 そんな2人の会話を、反乱軍のメンバーの1人が盗み聞きしていた。

「深い考え……まさか」

 側近が適当に言った言葉を聞いて、彼はそんなことを呟いた。


「くそ」

 リュシカは一向に反撃に転じられずにいた。

 躱すのが精いっぱいで、切り込んでいきたいができないのだ。魔法と剣には射程という絶望的な差があった。普通の戦士なら斬撃を飛ばすことも出来たが、リュシカはそんな技をしらなかった。

 戦闘経験の差が響いていた。

 そして何より、リュシカは不利な戦いを強いられている理由がもう一つあった。リュシカはリードをある方向に誘導しながら戦っていたのだ。

 その立ち回りがリュシカを不利にさせていた。


「誘導している?」

 反乱軍のメンバーの言葉を聞いて、副官はそんな疑問を露わにした。

「そうとしか考えられませんよ」

「何故、不利な戦いをさらに不利にする」

「それは……」

 反乱軍のメンバーは、考えを口にした。反乱軍のメンバー達はそれを聞いて、戦いを見る目が変わっていく。


「いつまで逃げる?小賢しい」

「あんたに勝つまでさ。だが今なら特別に、引き分けにしておいてやるぞ」

「戦いに引き分けはない」

「くそ」

 リュシカは限界が近いのを感じていた。

 それを見逃すリードではない。


「アシッドレイン」

 リードの放った酸は、聖剣にかき消されたものを除いて1つに纏まり雲を形成させていた。

「おい、嘘だろ」

 リュシカは上空に出来ている雲を見上げ、聖剣にありったけの魔力を込める。


 聖剣の一撃と雲がぶつかり雷音がとどろいた。

 結果としては聖剣が勝つ。雲は跡形もなく消し飛んでいた。しかし、リュシカはというと力もなく地面に膝を付いた。最後の一撃で魔力が切れこれ以上は、体に力が入らなかった。


「やはりその程度か。バルトなら私に一撃はいれたぞ」

「師匠駄目です」

 リュシカの深い考え成るものを理解した副官は、そんな声をあげたが時すでに遅しであった。

「アシッドウェーブ」

 リュシカの体は強酸につかりその激しい流れを受けた。

 

 勝ったな。その確信がリードに合った。炎や風ではない強酸の直撃である。生きていられる生き物はいない。

「この……」

「嘘だろ」

 だからその現実をリードは受け入れられなかった。

「愚か者め」

 強酸に浸かろうと、リュシカの体は全くといってよいほど無傷だったのだ。酸に対する耐性があったのか?それなら何故防戦に回った。年季の入った戦士の立ち回りをしたとでもいうのか、そんなことを思いながら再びバリアを展開したリードだが、時すでに遅しである。クロスレンジまで近づいていれば、バリアなど意味をなさなかった。バリアの上から軽々と聖剣はリードの体を裂いた。

 リードはその太刀筋に覚えがあった。ゆえに最後に頭をよぎったのは困惑である。声を上げることも出来ず、困惑とともにリードの意識は途絶えた。

 リードの見たその太刀筋。それは紛れもなく先代勇者の太刀筋とぴったりと一致していたのだ。


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